第1796話 王城内にて事案発生。(武雄誘拐にあう。)
王城の武雄達の部屋に続く廊下。
「「行きますよ。」」
「あ~れ~・・・」
宝物庫から帰って来た武雄はパイディアーとペイトーに両腕を抱えられて連れ去られていく。
その後ろを楽しそうにビエラ達が付いていたりする。
「・・・で?」
武雄は甘んじてその状況を受け入れているのだが、精霊に連れ去られる謂れは今の所ない・・・はず。
なので武雄は両脇を抱えている精霊に聞く。
「タケオ、ヴァイオリンのリクエストをお願いします。」
「今までしていたのだけでは張り合いがないのです。」
2人が武雄に目もくれずに言ってくる。
「第3皇子一家や陛下が不満を?」
武雄が素朴な疑問を言う。
「あの方たちは弾けばなんでも『良かった』と言ってくれるのですが、毎回同じのをという訳にはいきません。
ですが、ある程度の指定をしてくれないと私達は出来ません。
静かな曲とか楽しい曲とかのリクエストにどう答えろと?
なので今まで弾いた曲をリクエストしてくるのです。」
「あ~・・・そういう弊害があるのですか。
あれ?でも・・・何曲か書いて鈴音に送って貰ったはずなんですけどね。」
「あれは武雄がカリスに依頼して王都に来たので添削して私がステノ技研に送りました。
2つのバイオリンの為の協奏曲以外は私が既に王家にはしています。」
パイディアーが答える。
「2つのバイオリンの為の協奏曲は流石に1人では無理でしたか。」
武雄が苦笑する。
「ペイトーが来たので出来はしますが、ヴィオラや伴奏で低音を出す者を加えて最低3人は必要です・・・それでも武雄がリクエストするならしますよ?」
「タケオなら原曲を知っていますから物足らないかもしれませんが。」
パイディアーとペイトーが言ってくる。
「2人とも私に期待寄せすぎですよ。
私オーケストラとかのコンサートに行った事ないですし、たまにクラシックのCDを聞くぐらいで。
聞いていてリラックス出来るか出来ないかぐらいしかわからない素人です。」
「それでも全く知らないのではないでしょう?」
「まぁ・・・子供の時、学校に行っている時はクラシックは楽しくなかったのですけどね。
大人になって週末に聞くとなぜかリラックス出来るんですよね。
お風呂上りにコーヒーを淹れて本を読みながらクラシックを流すのが最高です。」
「タケオ、疲れていたんですね。」
パイディアーがしみじみと言ってくる。
「・・・否定はしませんよ。
でも子供から大人になると味覚が・・・食事の好みが変わるように音楽も変わるなぁというのは実感としてあります。」
「タケオ、いっぱいリクエストしてくださいね。」
「はいはい。
じゃ、パイディアー、ペイトー、手を放してください。
ちょっと不作法かもしれませんが、私以外の人もいるのです。
お茶と茶菓子を持ってリラックスして聞かせて貰いましょうか。」
「ええ、それで良いです。」
「格式張っていても意味はありません。
音楽でリラックスして貰うのが一番の目的なのですよ。」
パイディアーとペイトーが言う。
「では、厨房にお邪魔しましょうかね。
マイヤーさん、すみませんが、余興に付き合ってください。」
「こういうのなら問題ないですよ。
それに所長が聞きたいというのはどんな物なのか気にはなりますね。」
「あ~・・・今まで1挺でしたからね。
それが2挺でさらには精霊が弾くとどうなるのか・・・本来なら大金払っても聞けないような凄い事なんですよ。」
「そうなのですか?」
「ええ、一見の価値・・・一聞の価値ありです。
あ、パイディアー、ペイトー、四季の第1楽章ずつって出来ますか?」
「タケオ、本当に有名所を押さえていますね。」
「バッハに続いてヴィヴァルディですか。
この勢いなら色々弾けそうですね。」
パイディアーとペイトーが笑いながら言うのだった。
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第3皇子一家の執務室。
「・・・エリカさん、ペイトーは?」
執務机で書類を読んでいたアルマが顔を上げてエリカに聞く。
「パイディアーと一緒にタケオさんに相談に行っていますよ。」
「ん~?・・・あの2人が揃って?」
「タケオさんに何を聞くんでしょうね?」
アルマとレイラ、エリカが首を傾げている。
「アルマ殿下、ペイトーに何か?」
エリカが聞いてくる。
「ないわよ~。
最近寝る前のヴァイオリン演奏が習慣付いてきたからね。
今日はどんなのをするのかと思ってね。」
「あ、パイディアーも曲数が少ないのを悩んでいたからタケオさんに聞きに行ったのかな?」
レイラが閃く。
「いや・・・曲数が少ないというのはペイトーも言っていましたけど。
毎日毎日違う物をするのも大変だと思うんですけどね。」
エリカが苦笑を返す。
「そうね。
そういった苦労はさせられないわよね。
で、エリカさんパイディアーに聞いたんだけど、ペイトーにヴァイオリン習っているんだって?」
「・・・こっそりしているはずだったのに・・・」
エリカが落ち込む。
「いや、別に趣味なんだろうから問題ないんだけどね。
上手くなった?」
「そんな数日で上手くなりませんよ。
今はやっと少し音が鳴らせるようになっただけです。」
「そっか、お披露目は出来ないか。」
「それ・・・数年後の話ですよね?」
エリカが真面目顔で聞き返すのだった。
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