第1793話 帰城しました。(武雄逃走中。)
王城内の軍務局長室。
「おかしい・・・」
「あれ?局長、もう戻られたのですか?
お茶入れますね。」
局長室に入って来た職員がお茶の用意をする。
「局長、キタミザト殿との打ち合わせに行かれたのでは?
ダメだったのですか?」
「居なかったんだ。」
「?・・・キタミザト殿が帰って来たら教えて欲しいと頼んでおいた警備局から先程、戻ったと報告ありましたよね。」
「あった、行った、居なかった。」
「なぜにそのような話し方を?
まぁ良いです。
外出したというならわかりますが・・・」
「・・・警備局に確認したが、外出した形跡はなかった。
昨日も外出した形跡はなかったのに、1日中会えなかった。
こっちも緊急ではないから良いんだが、何処に行ったんだ?」
局長が腕を組んで考える。
「執事かメイドに聞いてみたのですか?」
「キタミザト殿の要望で緊急時以外は教えないと言われたよ。
『緊急や至急ですか?』と聞かれたから『違います』と答えるしかないだろう。
なので、どこかで会えるようにしたい物だが・・・」
「陛下の所とか第3皇子一家はどうでしょう?」
「王家付きの執事達にも聞いたが『来ていない』そうだ。」
「ん~・・・王城内ですよね。
他に隠れる場所は・・・どこかの部局に行っているぐらいしか思いつきませんが。」
「そうなんだよなぁ・・・タイミングが悪いんだろうなぁ・・・
・・・良し!アルダーソン殿の所に行ってくる!」
「はい、いってらっしゃいませ。」
職員が局長を見送るのだった。
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王城内の宝物庫
カリカリカリッ
パサッ
カリカリカリッ
室内では静かに本を捲る音と書く音のみがしている。
「・・・」
時折、書くのをやめて中身を読み込んだりもしている。
オールストンが一冊書き終わり、次の本に手を伸ばす。
「あれ?所長、これ地図ですね。」
中身を見て武雄に聞いてくる。
「昨日の続きは終わったんですね。
その地図は王家専属魔法師に許可を貰っているので借りる事になっていますから他のをお願いします。」
「はーい・・・随分詳細な地図ですね。」
オールストンがパラパラ地図を捲りながら言ってくる。
「そうですね。
右下か四隅のどこかに線があって、0とか500とかあるのは地図上での距離での表記ですよ。
その長さが500mですという事です。」
「え?・・・・これが500mだから・・・え?この都市凄く広いですね。」
「まぁこことは違う所の地図ですし、その地図の国家がアズパール王国を目指す事も出来ないですし、逆も然りです。
アズパール王国とは関与が全くない国家ですから気にしても意味はないですよ。
初雪が地図を書く仕事をしますからね。
参考にしてあげたいんです。」
「ん~・・・ここまで詳細な地図が出来てしまうのは施政者としては良いんでしょうけど。
兵士として見ると攻める方法を考え付かれてしまう可能性がありますよね。」
「ええ、だから地図というのは宝物庫にあるのですよ。
そして詳細になればなるほど人目に付かないようにするのが常識となるのですけどね。
えーっと・・・ここら辺にアズパール王国の地図があったような。」
武雄が席を立って探し始める。
「そんなに詳細なのか?」
「驚くほどです?」
マイヤーとブレアも書き写し作業を止めて、オールストンの手元を見る。
「はぁ・・・これは詳細すぎだな。」
「この色分けは・・・あ、これか、高度?・・・どこかを基準にしての土地の高さという事ですね。
どうやって基準をつけるんでしょうね。」
「このマークはなんだ?
こっちにもあるし。」
3人が地図を食い入るように見ている。
「ありましたよ。
立てかけてあったのでちょっと古いかもしれませんね。」
武雄が大きい巻物を持ってくる。
そして作業をしているのとは別の机に持ってきたアズパール王国の地図を広げる。
「ん~・・・この地図を見た後ですと・・・」
「詳細ではないですね。」
「なんだか色々と足りてないのはわかります。」
3人が言ってくる。
「詳細な地図というのは国防上必要な物です。
それは私達戦術を考える上でも正しい物の配置を知っておかないといけないというのはわかって貰えると思いますけどね。
それにある程度、正確な町や村の位置がわかればしっかりとした物資の移動距離と時間がわかり始めます。
これに懐中時計も使って行けばより正確な物の輸送が出来たり、町の大きさがわかれば拡張する際に必要な物資が事前に想定が出来たりします。
この地図までの精度は求めませんよ。
町や村にどういう道があって、どのくらいの建物があり、周辺はどうなっているのかを上から見て書き写してくれたら良いです。
まずはそこからです。」
武雄が言う。
「ふむ・・・正確な地図を作るとしたら大変なんでしょうね。」
マイヤーが呟く。
「初雪や彩雲達にお願いするのはあくまで見た通りに書く事です。
正確な地図となると測量技術が必要ですし、国家としての基準点も必要だし・・・私は却下ですね。」
「それほどですか?」
「それほどですよ。
エルヴィス領内だけに絞って考えても専門家を一から養成して、領内をくまなく測定して・・・数十年で出来たら早い方なんじゃないですかね?」
「途方もないですね。」
「まぁ今よりかは詳細な地図が出来ると思ってくれればいいですよ。
初雪達とは打ち合わせしながら実施していく事になるでしょうね。」
武雄が3人に言うが3人共「そうなんだぁ」と頷くのみだった。
それを見ている夕霧はというと。
「・・・ハツユキの為にこの地図を覚えますか。」
滞在中の仕事を見つけるのだった。
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