第1772話 戦争への打ち合わせ。1(概要と対応方法の確認。)
昼食を終えた一研と二研の面々は午後に実施される会議室に移動し雑談をしていた。
内容はと言うと人事局で聞きかじった戦争の概要と武雄が考案した戦術についてなのだが。
「・・・1つ目の町を取られても良いようにしておき、2つ目の町を要塞化という事か。」
アルダーソンが考えながら言う。
「ウィリプ連合国は12000名は動員するだろうと私は王家に報告していますからね。
関のみでの防衛は無理だろうと判断したんでしょう。
どうせ攻められるとわかっているなら、防衛に適した場所まで誘い込み、同時に住民を避難させて人的な被害を少なくさせようという王城の意向でしょう。
私は納得は出来ます。」
「王城が考える戦争の概要が精神論だけなら流石に怒るが・・・そもそもの数が違うという事を念頭に後退をしながら戦闘・・・か。
住民も巻き添えになるなら先に避難させた方が戦闘行動がとりやすいし思い切った事が出来るか。」
武雄の言葉にアルダーソンも頷く。
「防衛と後退に際してどのくらい相手に痛手を被らせるかも考えておかないといけないですよね。
まぁ・・・簡単に考えて、関の防衛戦で500名程度、1つ目の町の防衛戦で2000名程度削って、2つ目の町に到着するのが9500名。
そこにウィリプ連合国方面が5500名で対峙して防衛戦を行うというのが見通しとしてはわかりやすいですかね。」
「・・・そんなに簡単に削れたら苦労はしないんだがな・・・」
「ごもっとも。
ですが、そうしなければカトランダ帝国方面からの援軍が来ても拮抗出来ません。
なんとしてもしなくてはいけないでしょう。」
「キタミザト殿の話からだとカトランダ帝国方面で参加する兵士は6500名。
カトランダ帝国と休戦するとしても、国境監視があるから2000名は留守番、こっちに来るのは4500名、合計すれば10000名になってウィリプ連合国と拮抗するか。」
「最低でも拮抗が条件です。
合流しても数の上で負けているというのは精神上よくありません。」
「そこは・・・わかっている。」
アルダーソンがゆっくりと頷く。
「さて・・・何日で合流できるか。」
「俺の試算では11日だな。」
「どこかで休養日を設けましょうか。」
「2週間か。
だが、カトランダ帝国での話合いで1週間はかかるかもしれない。
それに疲れた兵士を前線に連れて来られても意味がない。
途中に休みを入れるにしてもニール殿下の所で幾日か休息をして貰った方が良いな。」
「・・・前線投入は1か月後でしょうか。」
「開戦後1か月か・・・それもこちらに被害を少なくさせての関と1つ目の町からの防衛戦と撤退撃。
相当難しいな。」
「簡単な戦争なんてありませんよ。」
「確かに。」
「それに・・・変な話ですけど、破られる事が前提の関と1つ目の町は私達が攻めやすくする為の変更が可能なのですよね?」
「言い方を変えればそうなるな。
一方方向からの攻撃に耐久力がある関とウィリプ連合国側の門は厳重に撤退する2つ目の町側の門は簡素に作れるな。」
「大地の勾配も作り替えられます。
攻められる方は堀を深く門の前の広場は狭くしておき、撤退する門の方は平坦で開けた感じにしておくことが望ましいでしょう。」
「大工事だな。」
「まったくですね。」
アルダーソンと武雄が苦笑し合う。
「残るは絶対に破られてはならない2つ目の町か・・・
先ほどの説明で第一研究所で発案するというのは了解した。」
「キタミザト様、町の両側に砦を築くという考えは確かに長期の防衛には適しているとは思います。
それに1拠点に攻撃が来たら他の2拠点から敵の後方に攻撃をするというのも確かに有効だと思いますが、3拠点同時に攻撃された場合はどうされるのでしょうか?」
コンティーニが武雄に聞いてくる。
「アルダーソン殿、コンティーニ殿は頭柔らかいのですね。」
「研究室長が頭が柔らかいのは普通だろう?
で、キタミザト殿、同時に攻撃してきたらどうする?」
「・・・無理では?」
武雄が少し考えてから答える。
「無理かぁ・・・」
「無理ですかぁ・・・」
アルダーソンとコンティーニが落ち込む。
「いえ・・・そうではなくて戦術は相手より多くの兵士を用意するという原則があります。
ですが、対攻城戦となると話は別です。
相手の数倍の兵士数が必要になります。
関と1つ目の町である程度減ったとして、5000名で3か所をと考えた場合。
町に3000名、左右の砦に1000名ずつとします。
相手は両方からの攻撃を防ぎたいので1500名ずつ左右に攻撃をする。
残り6500名で町を攻撃する。
と考えますか?」
「キタミザト様はしないと思うのですか?」
「確かに落とすならそれが理想ですよね。
でも、そもそも後方の陣地を取ったのにそこを空にしての全軍出撃・・・奴隷国家の元首達が?
自分の体をわざわざ敵に晒すのですか?
私は前線に向かう兵は少なくせざるを得ないと踏みます。」
「なら、1つ目の町に2000名を置いて4500名で町に攻撃というのはどうでしょうか?
もちろん左右両方に1500名を向かわせます。」
コンティーニが聞いてくる。
「右の砦から騎馬300名を町に、町から騎馬と兵士1000名を左の砦に移動。
町では2300名で4500名を相手に防衛線を開始。
左の砦の兵力を騎馬、兵士合わせ2000名とし、張り付いた1500名を削り始めましょうかね。
町では門に張り付かせない事を最優先として時間稼ぎをしている間に左側の砦の相手方兵力を削ぎます。
上手く突破出来れば町を攻撃している方の後ろから攻撃出来、少しは削れますよね。」
「・・・キタミザト殿エグイな。」
「私達は勝つのではなく、到着までの時間を稼ぐのが任務ですよ?
兵士を流動的に使って弱い所から攻めるのは当然ですよ。
基本は門に取り付かせない、その為には・・・今ではほとんど使っていない弓が便利でしょうね。」
「弓か・・・久しく冒険者以外が使っているのを見た事ないが。」
「狙って当てる必要はありませんし、『怪我をさせれれば良い』程度ですから。
腕もそこまで必要ないでしょう。
ばら撒ければいいので・・・あ、エルヴィス伯爵領の工房に依頼して矢を大量に作っておこうかな?
何万、下手したら何十万の矢が必要だろうしね。
軍務局にこの案を売り込んで小遣い稼ぎしようかな。」
「・・・キタミザト様、小遣いですか?」
コンティーニが聞いてくる。
「需要がありそうな物に投資を怠らない。
これも貴族には必要ですよ。
バビントン殿に言えば乗ってくれるでしょう。」
「その件は俺からバビントン殿に言っておこう。」
「他領地からの支援なしには戦争は出来ませんよ。
その辺は私達研究所が考える事ではありませんが・・・利益がそこにあるなら手を出したいと思うのは当然でしょう?
役得程度に考えておけば良いんです。
コンティーニ殿、綺麗な戦争はないんですよ。
利害があって何かしら策謀が渦巻くのが戦争なのです。」
「それは・・・わかっていますが。」
武雄達一研と二研が事前の打ち合わせを進めるのだった。
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