第1766話 陛下直属組織会議。6(要望と想定。)
会議も終盤なのだろう。
ウィリアムがそう思いながら目の前の議論を見ている。
今は王家専属魔法師が実施する長距離通信研究への意見交換なのだが、質問が第一研究所からのみ出ているのだ。
この案は元々武雄が提唱した『3都市間の意思伝達構想案』をエリカを通じて武雄の考えを聞いた第3皇子一家が内容を精査、ウィリアムがアズパール王と相談して王家専属魔法師に相談された物なのだが、王家としては最終的には王都とニール、ウィリアムの都市間の庁舎を繋ぐことを実施したいのだが、王家専属魔法師や文官達に荒唐無稽と笑われる可能性が高いとして王家での検討段階で止まっていた。
そこで王家専属魔法師には、ある程度距離を離しての意思の伝達が出来る方法を研究して欲しいという言い方での相談に留めての発表になっている。
で、今回の王家専属魔法師の発表内容は、まずは壁で区切られた隣の部屋への伝達から始まり、次に城内の距離が離れた部屋、その次は王城と訓練場、城門と王城と距離を離していく方法で進めるというのだが、最終的には伝達方法が短い会話程度が出来る事が望ましいと定義してしまったのだ。
その内容を踏まえて第一研究所の質問攻めというか意見具申というか問答が繰り返されていた。
ウィリアムは武雄達第二研究所一派を見るが武雄は腕を組んで成り行きを見守っているし、武雄の横に居るマイヤーはメモを取っているし、後ろに控えている2名の護衛とジーナは一生懸命何かを書いて見せあっている。
武雄の連れて来たメイドは鷹を抱えながら会議を見ているし、獣人の子供は寝ている。
「ん~・・・あそこは何をしているんだろう?」
ウィリアムが不思議がるのだった。
さて、目の前の意見交換なのだが。
「ですから、長距離も大事ですが、その通信装置は兵士1人が持ち運べるサイズまで小さくする必要があるのではないですか?
戦場において各小隊からの連絡が密に出来るのは他国から見て少数である私達には有益であると考えられます。」
コンティーニが王家専属魔法師に向かって言う。
「コンティーニ殿のおっしゃるのはもっとも。
ですが、この研究は始まってもいないのです。
装置の大きさは検討する段階ではないでしょう。
まずはサイズに拘らずやれることをするというのが私達の考えです。」
「そうはおっしゃいますが、最初からある程度大きさを考慮しないで研究を始めるというのは危険です。
下手な話、この会議室いっぱいのサイズになる可能性すらあります。
そこから小さくするというのは至難なのではないのですか?
実用化も大事ですが、運用面も考えて頂きたいです。」
コンティーニが言う。
「第一研究所の仕様には私も賛同いたします。
ある程度持ち運びが出来るのであれば陛下や殿下方が最前線に居る必要もなく。
もう少し後方で待機して頂いて戦場の状況を各小隊からの連絡で確認、指示が出来る状況は警護する側において好ましいと言えます。
また、各小隊の状況と指示が出せるのであれば第二研究所のキタミザト殿が行った対魔物戦のような戦術を繰り出すタイミングが計りやすくなるというのも利点です。」
王都守備隊総長がコンティーニに賛同する。
「ん~・・・運用面で・・・ん~・・・
ですが、まだどういった機構が出来るのかもわからないのです。
持ち運び等々については2機関の意見も考慮に入れたいとは個人としては思いますが・・・」
王都守備隊も参加し、王家専属魔法師の研究への意見交換が続く。
一方の武雄達はと言うと。
(ご主人様、何も言わないのですか?)
(所長なら飛びつきそうな内容ですよね。)
(まぁまぁ、所長も考えがあってという事なんでしょう。)
(実は何も考えてないのかも。)
(議論の行方を見守っているんですよ。
ほら、後ろの3名はさっき出した課題でもしてなさい。)
(((はーい。)))
ジーナが所持している例のネックレスを使い皆で雑談をしていた。
(2小隊分の戦争時の輸送物資ですよね。
さっきブレア様が書いたのが全部なのですか?)
(いや、あれは食料が主でして、予備や交換用の武具もというと・・・
寝具等も含めればこのぐらいですよ。)
(それに荷台に積める量も限りがありますからね。
輸送部隊を持たない私達は試験小隊2小隊全員ですので・・・全員が荷台で移動と考えても差し支えない可能性もありますし。)
(では・・・荷台の数は交代も必要ですし・・・このぐらいですか?)
ジーナ、オールストンとブレアが話し合いをしている。
(所長、実際の所、今の王家専属魔法師部隊の研究内容と第一研究所の意見、どう見ますか?)
マイヤーが会議の内容を書きながら聞いてくる。
(どちらも正論ですよ。
ただ、『遠距離で会話する』を表明するとは思いもよりませんでしたけどね。
一研は4年半後の戦争で最前線で後退指揮をしますしね、王都守備隊は増強戦力で赴く可能性がある。
意思疎通の高速化をちらつかされたらああやって要望を言いたくなるのもわかります。
王家専属魔法師の方はした事がない魔法具を作るのです。
『小さく出来ます』なんて今の段階では言えないでしょう。)
(では、この意見交換は・・・決着付かずですね。)
(まぁね。)
武雄はそう言いながら2000年代のPCの性能を真空管で作ろうとすると箱の高さが高層ビルに匹敵すると揶揄されていたのを思いだしながら、目の前の議論を楽しんで見ているのだった。
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