第1765話 陛下直属組織会議。5(ステノ技研の皆さまへ頑張って値上げするからね。)
「第一研究所はどう思われますか?」
オルコットがアズパール王が考えているのを見ながらアルダーソンに聞いてくる。
「第一研究所としては・・・確かにその性能の新素材というのは欲しいとは思います。
それにどちらにしても研究はするのです。
万が一、研究を始めたとして結果として同じ物を一から開発してしまうのも時間の無駄というのも確かな事かとは思います。
が、第一研究所単独で補償するだけの金銭的な余裕はありません。
見返りの部分ではその開発工房に素材の研究成果の開示は出来ますが。」
アルダーソンが悩みながら言う。
「ふむ・・・第二研究所としては?」
「この工房は第二研究所で考えた武具の試作を担当します。
今後第一研究所が試案し、製品化した際の製品製作も少数かもしれませんが確実に担います。
ですが、素材を作れる工房ですので、第一研究所の成果を成分上でも確認が出来てしまいますね。
その辺は守秘義務の契約がありますから、流出するという所は大丈夫だとは思います。
第二研究所で買うというのも第一研究所と同様資金難の為出来ません。
現状では国家で配合を独占しておき、研究所3機関のみで開発に使い、製品となった際に情報の流出を防ぐ契約を個々の工房に結ばせるのが一番なのではないでしょうか。
例外処置はこの工房での使用権の継続ですね。
少なくとも懐中時計の生産に必要ですし。」
「ふむ・・・タケオ、ステ・・・その工房への守秘義務はかかっているか?」
アズパール王が聞いてくる。
「現状の守秘義務は私の依頼した事のみですね。
この素材の秘匿については私には権限がありません。
資金難になったら売りに出さないとも限りませんが、今の所そういった話にはなっていません。」
「ふむ・・・やるなら早く手を付けた方が良いな。
金額はどう思う。」
「製品化している物の配合と販売の権利ですからね。
具体的な価格についてはちょっとわかりません。
まぁ全魔法師相手の素材になる事も含めると・・・安過ぎず高すぎずが良いでしょうね。
そうすればある意味、新素材の継続的な研究をこの工房でしてくれそうです。」
「確かにな。
研究所のみで素材の研究をしなくてはいけないというわけではないし、製品を作っているからこそ実用に沿った新素材の開発がされる可能性もあるか。
わかった、アルダーソン、タケオ、その新素材については専売局で買い取らせよう。
当面は研究所のみで使い、例外はその工房での製品のみだ。
買い取り金額は・・・頑張って決めよう、タケオはその工房への説得に尽力してくれ。
買い取り金額と売買契約が完了するまで他工房に配合を教えないようにともな。」
「あまり安くしないでくださいね。
説得するにしてもそれなりに提示してあげないと納得しないでしょうし。」
「わかった。
あとで専売局から打ち合わせに行かせよう。
早々に契約をするようにするからアルダーソンは成分がわかり次第、研究に使え、成果は期待している。」
「はい、ご期待に沿えるように尽力します。」
アルダーソンが頭を下げるのだった。
「さて・・・そちらは話がまとまりそうですね。
他に何かあるでしょうか?」
「はい。
第二研究所の武具の規格化という所なんだが、必要があるのだろうか?」
オルコットの言葉にニールが手を挙げ話す。
「第二研究所のご意見は?」
「はい。
現在、アズパール王国内での基準という物がないという事自体が問題だと考えています。
そもそも兵士達が使っている武具・・・まぁ剣がわかりやすいですかね。
ショートソードでも良いのですけど・・・
剣先から柄までの長さや柄自体の長さ、刀身の厚み、全体の重量、重心の配置・・・なんで全部職人任せなんですか?
いや、個人に合った物をというのはわかりますし、職人の技量が違うというのもわかります。
ですけど・・・最低限の剣というはあって然るべきでしょう?
どこの村や町に行っても最低限のショートソードと言えばこの剣というのがわかっていれば、わざわざ注文を出さずに置いてある物を買えば良いんです。
それに毎回同じ仕様の剣が手に入るのなら慣らす時間もそんなに必要としないでしょう。
自分に合った物が欲しいなら特注で作れば良いのです。
逆に特注に拘りがないのなら変な話、最低限の性能の剣をすぐに買い替えながら使った方が安上がりな場合だってあります。
なので、統一基準というより最低基準の策定を私はしたいと思います。
それ以外は特注品なのですから、個々で作れば良いと思います。」
武雄が言い放つのだった。
「タケオ、それは・・・大量に作るという事ではないのだな?」
アズパール王が聞いてくる。
「違いますね。
結果的に大量に作るかもしれませんが、現状では市場動向がわかりません。
ですが、剣、防具等の基準が示されば、買う側も自分に合った物がわかりますし、作る側も特注を受けやすく、規格外であれば理由のある値段を付けやすいと思います。」
「理由のある値段か。
素材とかか?」
「素材もです。
例えば基準仕様のショートソードが銀貨2枚だとして、店頭に置かれた物が金貨1枚だった場合、素材が良かったり、切れ味が良かったりとした理由でしょう。
逆に銀貨1枚なら粗悪品の可能性が高く、何かしら基準を越えられなかった可能性があります。
物の良し悪しの基準を作る。
これって大事な事だと考えています。」
「ふむ・・・王都で作らせない理由はなんだ?
王都でも出来そうではあるのだが。」
「王都は騎士団にしろ兵士にしろ他地域と比べて基本的な給与が高いんです。
金持ちしかいない地域の工房が最低基準なんてものを作るのですか?
ここの兵士の給与ってエルヴィス伯爵領の兵士の給与と比べてどのくらい違うか知っていますか?
王都基準で価格を設定されたらほとんど全て地方は粗悪品ですよ。
それに・・・最前線でない工房が最低限の剣を作ってもね。
実用に沿っているのかが不明です。」
「・・・そうだったな。
エルヴィス伯爵領はここ近年で最多の戦闘経験をしているからな。
それにタケオ達に任せておけば良い基準が出来るだろうな。」
「アリス相手に模擬戦も随時していますしね。
その気になればドラゴンが居ますから、模擬戦闘でも十分戦闘経験出来ますし。
試験や検証に困りませんよ。」
武雄がそう言い放つ。
隣や後ろに控えている部下達がげんなりしているのを武雄は知らないのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




