第1733話 エルヴィス領で何かが始まっている。(見せしめと言う名の演劇。)
エルヴィス伯爵邸の客間。
「アリス・・・これはどういう事だと思うかの?」
「お爺さま、これは混乱中という事なのではないでしょうか。
・・・ある程度は予想はしてはいましたが・・・あ、他の食材も値上がりがあるのですか。
予想より早いですね。」
「そうじゃのぉ。」
エルヴィス爺さんとアリスがフレデリックから回された書類を見ながら意気消沈していた。
「これが現実です。
レシピの公表をしたら案の定、混乱中で食材価格が急上昇中です。
組合にはちゃんと説明時に予想を言ったのにです。」
フレデリックが呆れながら言う。
「まぁ・・・新しい料理じゃからの。
一早く商品化して店で出したいという事なのは・・・わかるの。」
「気持ちはわかります。
でも、フレデリック、文官が説明した内容では購入をある程度抑えるように指導したのですよね?」
アリスがフレデリックに聞く。
「しました。
私も立ち会いましたのでちゃんと説明しているのも聞いています。
組合長達も同意していました。
が、結果はこれです。」
「・・・生クリームの店頭価格がここ数日で4倍とはの・・・前から少数生産だったからの他の商品と比べて元々少し値が張っておったと思うのだがの・・・」
「1日の生産量は決まっているという事は・・・今後も上昇する可能性があるという事ですよね?」
エルヴィス爺さんとアリスが唸っている。
「はい、最低でも次の鶏関連の発表まで上昇が続くだろうという報告です。
すでに酪農家には文官を差し向けて、酒場やレストラン、スイーツ店が問屋を通さずに直接交渉をしないようにしています。
多少の抜け穴は致し方ありませんが、流通自体は正常です。
供給が追い付かないので店頭価格が上がっています。」
フレデリックが言う。
「・・・お爺さま、予想以上に急速に値が上がっています。
混乱収拾と買い占めの対策の為に次のレシピを早めに公表し購買意欲の分散をさせますか?」
アリスが資料を見ながら言う。
「ん~・・・鶏肉と卵のレシピの発表を早める事は出来るが・・・予定通りに実施する。
卵は予定に沿って生産と出荷を調整しておるしの。
今鶏や卵料理を教えても原材料が不足している。
購買力を分散させようと公表しても今と同じ事にしかならん。
耐えるしかないの・・・じゃが・・・フレデリック、予定より早いが行こうかの。」
「はい、組合長の店に行きましょうか。」
「そうじゃの、アリス。」
「はい、私も行きましょう。
予定より早いのですけど・・・致し方ないですね。
こういう事態になった際の責任は組合長に取らせるというのは説明会で合意された既定事項ですし。」
「これで価格が少しでも落ち着けば良いの。」
「はい、では文官達も用意しているでしょう。
一旦庁舎に行ってから皆で組合長方の店に行き、現在の経緯を聞きましょうか。」
フレデリックがそう言って立つ。
「あ、子供達はどうしましょうか?」
「まだ早いじゃろう。
今日は留守番をさせておこう。
アリス、たまにはこうやって皆と話し合う必要があるものなのかもしれぬの。」
「はぁ・・・こうなる事はわかっていての叱咤ですからね。
組合長達には感謝しないといけませんね。」
「組織の上に立つ者の宿命じゃよ。
わかっていても抑えられないというのはままある。
組合長達もこうなる事を事前了承しておるからの。
領民達と他の組合員に対しての要は見せしめじゃ。」
「上手く演じられればいいのですが。」
「そこは慣れじゃの。
タケオは上手くやりそうじゃが。」
「タケオ様なら笑顔でやってくれるでしょうね。」
「さ、主、アリス様、参りましょう。」
「ああ。」
「ええ。」
エルヴィス爺さんとアリスがフレデリックと共に客間を後にするのだった。
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とある酒場の奥の部屋。
表通りと裏通りの酒場の組合長2人がため息をついていた。
「・・・食材の急激な上昇・・・やってしまったな・・・
はぁ・・・さっき文官が来て『来る』って言われたよ。」
「2倍までは何も言わないと言われていたが・・・
数日で3倍から4倍の値が付いている商品もある。
他の食材も値上がりしている。
これは伯爵様が来るのはしょうがない。」
「はぁ・・・」
「・・・そういう説明だったしな。
店には主だった面子が居るのだろう?」
「呼んである。
そっちは?」
「こっちも準備はしてあるさ。
皆にも言ったのに・・・一気に買うなよ・・・
おかげでこっちはこれから説教だ。」
「それも説明されているだろう?
レシピを無料で貰う対価だ。
謹んで説教を受けよう。」
「事後策は検討しているか?」
「あぁ、週替わりで出す店を変える。
これしか今は手の打ちようがない。」
「そうか・・・そうだな。
じゃ、俺も店で待機しておくよ。」
「わかった。
長引かせないようにそっちに回す。」
「・・・長引かせても良いんだぞ?」
「遠慮するな。
早々に終わらせる。」
酒場の組合長2人が暗い顔で話し合っているのだった。
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総監局庁舎にて。
「フレデリック様、酒場組合長、レストラン組合長、スイーツ組合長の各店に伝達実施済みです。
その後店外で様子を見ていますが、主だった組合員が集合しているようです。」
文官が報告してくる。
「・・・主、アリス様。
準備は整いました。
原稿は読まれましたか?」
「私は平気ですよ。
お爺さまはどうですか?」
「すまん、ちょっとまってくれ。
ん~・・・これは厳しい言葉じゃのぉ。
もっと違う言い回しの方が良いのではないかの?
次の鶏と卵の件もある、あまり厳しく言っては委縮してしまうかもしれぬ。」
「そうですか?
そうですね・・・では、こういうのはどうでしょう?」
フレデリックが原稿に追記する。
「ふむ・・・まぁ大まかな流れがわかれば言葉が続くじゃろう。
・・・うむ、大丈夫だ。」
「よし、主達は終了と。
向こうからの反撃があった場合の質疑応答準備は?」
「問題ありません。
私達で対処します。」
文官が返事をする。
「うん、よろしくお願いします。
では、主、アリス様、まずは酒場組合長の店から参りましょう。」
「うむ。」
「はい。」
街中での演劇が始まるのだった。
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