第1725話 ラックのお店。3(退官後の再就職。)
「・・・隊長、何言っているんですか?」
横で聞いていたフォレットが呆れながら言う。
「至って真面目に隊長同士で話し合った結果だ!
異論は挟ません!」
ラックが言い放つ。
「はぁ・・・今年、第一近衛分隊長と第三魔法分隊長を採用したんですよ?
これに第一と第二情報分隊の隊長を取ったら総長から怒られると思うんですけど?」
武雄が諦めながら言う。
「いや、真面目な話、私達隊長格も良い年なんですよ。
もう夜通しの勤務や他国潜入も辛いですしね。
判断力も落ちてきましたので大きな失敗をする前に引退しないとと思っているんですよね。
まぁ・・・キタミザト殿に思いっきり後任を抜かれましたけど。」
「ん~・・・アーキンさんとブルックさんは子育て真っ最中ですよ。
いや~良い指導教官ですよ。
アニータやミルコも頑張っていてね。」
「才能豊か過ぎなエルフ2名でしたよね。
それに魔法師専門学院からも2名でしたか?
そっちは?」
「卒業したてですし・・・子供達は大きく育てば良いんじゃないですか?
伸びしろがある分だけ如何様にも育つ子をアーキンさん達に預けているつもりです。
良く育つかあまり育たないか・・・気長に待っていますよ。
どんな結果になろうと仕事内容も納期も変える気ありませんけどね。」
「・・・まぁ戦うのがメインじゃないなら鍛え方次第で何とかなるでしょうか。
と、そうそう私達の話ですよね。
王都守備隊員の退官後の就職先ってほとんどないんです。」
「引く手あまたではないのですか?」
フォレットが聞いてくる。
「そう思うのは身内のみ。
実際にあるとしたら魔法師専門学院の教師か軍務局だろう。
だが、ヒヨッコ未満の有象無象を魔法師にするというのは王都守備隊員の感覚では難しい。
王都守備隊では出来てきた者を更に鍛え上げるのみだからな。
魔法師専門学院の学院長職もあるにはあるが、今年1名入ったからな。
当分空きはしないだろう。
軍務局も入れるが、武官ではなく文官としてだ。
やる事は全て新しい事、書類の書き方、意見の通し方・・・すべてが未経験。
この年で一からやるのはちょっとな。
地方貴族の騎士団というのもあるだろうが、すでに生え抜きが居るだろうから軋轢にしかならないし、冒険者でその日暮らしもなぁ・・・
という事で研究所が良い再就職先に見えるという訳だ。」
ラックが言ってくる。
「・・・キタミザト殿、どう思いますか?」
「まぁ・・・毎週休みで有給は15日程度、やる気になれば4週間働き詰めでその後1週間休みも出来ますけどね。
最前線には基本的には行かないですし、徹夜も残業もない。
王都だ関だと国内をウロチョロとしますけど、戦争に行く際は表立ってというよりも裏方仕事。
私の護衛と偵察が主任務で戦えとかは言われない。
日常は剣の試験やら私が稀に兵器作って遊んでいますので、その性能試験をしながら過去の戦闘を紐解いて解説書と対応方法の検討・・・王都守備隊の時よりも動きは少ないですかね。
それに陛下から王都守備隊と第1騎士団のベテランの再就職先としてうちを活用したいと言われているのでラックさんの要望は適っていますね。」
「おぉぉ、では!」
「採用担当はマイヤーさんとアンダーセンさんに一任中。
私は最終確認するだけですよ。
私に言われても困ります。」
武雄がラックを止める。
「それにラック財政官殿はどうするんですか?
奥様に断りもなく決められないのでは?」
「ん?平気だな。
娘を王立学院に入れたのが一つの契機だと思っている。
今は日々の生活費と娘の学費と小遣いが必要なだけで、もう俺らもバリバリ最前線で働かなくても良いかな?とも思っていたんだ。
それなりに貯蓄はあるからな、下の息子はこれから考えれば良いだろう。
そうしたらこの願ってもない求人が出て来たじゃないか。
ちょうど第一情報も同じ事を考えていたようでな。
相談しあった結果、同時に辞めるかとなったんだ。」
ラックが考えながら言う。
「・・・何で同時に・・・
あ!まさか!?残った方に仕事が回されるとか考えたのですか!?」
フォレットが聞いてくる。
「・・・あはは!何言っているんだ。
そんな訳ないだろう。
お互いに年だったんだよ♪」
「何ですか?今の間は?」
「フォレットがあまりにも見当違いの考えを示したからな。
そういう考えもあるなと感心したからだ。」
「本当ですかねぇ?」
フォレットがジト目をしながら訝しむ。
「フォレットさん、財政官とは?」
武雄が聞いてくる。
「隊長の奥様の二つ名です。
実際はそんな役職はないんですけど、この店を創設したり女性隊員の待遇改善をしてくれた凄腕の財政局の文官です。
正式な肩書は財政局 予算管理部 次長殿です。」
「ふむ・・・財政局かぁ・・・
エルヴィス家に転職するなら向こうの文官達が決める事なので私では出来ないですね。
まぁキタミザト家に来て貰っても良いですけど、現在、王都の次長級の給金は出せませんからね。」
「うちの妻の事も考えてくださってる?
ありがとうございます!」
「いや・・・まぁ・・・どうしたいかに依りますけどね。
奥様の意向もあるでしょうからね。
とりあえず財政局の都合もありますから、夫婦揃って辞めるにしても一度じっくりと話し合ってくれないといけないですよ。
その上で辞めてうちにくるなら話し合い、エルヴィス家に転職する気ならこちらも話合いが必要です。」
武雄が考えながら言う。
「給金はお任せします。
私と妻が2人とも働くのなら多少安くても問題ありません。」
ラックが頭を下げる。
「ご主人様、採用されてはいかがですか?
有能な人材は多く居ても困りませんが?」
「そうは言ってもねぇ、役職付きだとそれなりに見合った給金にしてあげないと前職の評価を蔑ろにした風に周りから見られる可能性もありますからね。
私だけでなく私の下で働く皆さんの評価が下がりかねません。
なので最低限の給金は出さないとね。
今は余裕がねぇ。」
「お父さまと私はどうなのですか?」
「2人は私にはもったいないぐらいの人材ですからね。
今は低くても収入が増えたら即増額します・・・ってジーナさん?」
武雄がここに来て声の主を見る。
「はい、ご主人様。」
ジーナが武雄の座っている椅子の横に立っているのだった。
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