第1720話 王都で知り合いの店に行こう。1(おいおい、情報戦はどうなっている?)
武雄達は第八兵舎を一旦出て街中に来ていた。
そして1軒の材木問屋に入っていく。
「親父さん、お久しぶりですね。」
「ん?あ!キタミザト殿、いらっしゃったのですね。」
材木商兼輸入業者のアスカムが武雄が入って来たことに気が付き声をかけてくる。
「今日は忙しくなさそうですね。」
「新貴族方の改築や魔法師専門学院の増築の方の木材の搬入もとっくに終わっていますし、建て替えの件は少しありますけど、まだ先なのでね・・・今は閑散としていますが、この先の受注に向けて仕入れ先に行って確認していますよ。
それに大規模な建て替えとか改築とかの話はないですからね。
あればうちにも声がかかるはずですけど・・・キタミザト殿から情報はありますか?」
「ないですね~。」
「そうですか・・・そういった情報はすぐにくださいね。
仕入れの関係で動いておかないといけませんから。」
「はーい。」
「じゃあ、いつもの奥にどうぞ。」
武雄達は奥の会談場所に連れていかれるのだった。
・・
・
武雄達が席に座るとアスカムがお茶を出し自身も座る。
「キタミザト殿、カトランダ帝国方面とウィリプ連合国方面の兵士を増やす指針の話ですが、どうも本格的に動くだろうというのが入ってきました。」
「前にもそんな話でしたよね。」
武雄が首を傾げる。
「前回とは違う所からです。
3方向から同じ話がくるなら確定でしょう。」
「それで?確定事項を聞きたい訳ではないのでしょう?
はぁ・・・どこまで話を聞きましたか?」
武雄が「腹を探られても面倒ですね」と早々に本題を促す。
「・・・ん~・・・その言われ方ですと概要を知っていますか?」
「『概要は』ですよ。
企画は軍務局や外交局、財政局もあるかもしれませんが、総じて王城側ですね。
実施するのは他国に面する貴族であり、私の同期の一研所長アルダーソン男爵が補佐をします。
もちろん王家も加わるでしょうけども・・・さて、どうなる事やら。」
「・・・キタミザト殿、ここだけの話でお願いしたいのですが・・・」
「商売人と貴族と文官の『ここだけの話』は信用性なしなんですけど。」
武雄が苦笑しながら答える。
「手厳しいですね。
言い方を変えましょう。
率直にお伺いします、我が国は侵攻されるのですか?」
「根拠は?」
「・・・とある客・・・とある文官から『王都からとある町までの輸送について』の問い合わせが問屋街に数件きています。
うちがその1件に選ばれました。
そして内容としては、輸送したい木材が揃えられるか、荷馬車を揃えられるか、費用がどのくらいなのかの確認です。
・・・揃えるのは大量の木材なのですが、場所がウィリプ連合国の関から2つ目の町までなのです。
用意する量は村が1つ出来かねない感じです。
そんな量を領外からも調達するなんてありえませんよ。
あの地域で大規模な町の改造なんてあった試しがありません、ここにきて王城側から不意にです。
現地でも調達するでしょうから・・・私達が揃える木材と合わせると・・・町数個になる可能性すらあります。
そして他の情報源から兵士を増やすという情報。
兵士を増やすのが関から2つ目の町、侵攻するには1つ目か関の補強がされるでしょうが、2つ目。
これは王城側が戦争を見込み・・・そして負けるのではという予想が出来ます。」
アスカムが真面目な顔をさせながら言う。
「・・・結果としては勝ちに行く算段ですけどね。」
武雄が「軍務局の文官は情報の渡し方を失敗してるな」と思いながら諦め顔で言う。
「予測は近いという事ですね。」
「私の口からはなんとも。
概要は概要でしかないですし、どう戦争が推移するのかも想定なんですよ。
私も魔王国方面の戦術という戦い方を研究する部門の長ですから相談は来ていますけど、出来るのは王城側が用意した内容を精査し、無理と無駄の想定をしていないかの確認ぐらいですからね。
ですが・・・悪くはないという評価を私はしました。」
「ふむ・・・結果は勝つという事ですね?」
「負ける戦をしたくありませんからね。」
「それは誰しもがそう思うのではないですか?」
「そう・・・お互いにね。」
「戦争を回避する事は出来るのでしょうか?」
「・・・ギリギリまで外交局辺りが対応するでしょうけど・・・
『領地を無条件で渡せ』とか言われて『はい、上げます』とは言わないでしょう?」
「・・・あり得ませんね。
ウィリプ連合国はそこまで傲慢なのですか?」
「ええ、我が国に侵攻して何かしら旨味があるのでしょう。
私達からすれば意味の分からない理由で攻めてくるのではないですかね?」
「意味の分からない??
彼らは何様なのでしょうか?」
「人間様でしょう?」
「・・・はぁ・・・商売が上手い者が稼ぎ、そうでない者はちょっと貧乏になる・・・それは異種族関係なくですよ?
商売の基本は対面販売、人間だから上手く行って異種族だから騙されるなんてないのに。
筋が通って扱う商品がしっかりしていれば問題ないと思うんですけどね。」
「まったくもってその通りです。
ですが、彼らからすれば人間種こそが他種族を従えさせ利益を享受する種族なんでしょうよ。
私にはまったくもってわからない感覚ですけど。」
武雄が呆れながら言う。
「大多数の国民がキタミザト殿と同じように呆れるでしょうね。」
アスカムも呆れるのだった。
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