第1713話 専売局に行ってみたら。4(職業体験をさせたいね。)
「わら半紙・・・ですか。
昔の専売局では木綿や麻でしたね。
藁も試したようですが、保存がきかなくて断念したようですよ。
色も今のよりくすんでいたようですし。」
「キタミザト殿が言うように服の材料を使っていたんだな。」
専売局長が観念したように言うと経済局長が感心したように言う。
「ここまでくれば隠しても意味はないでしょう。
その辺の経緯はいろいろあるみたいですよ?
まぁ紙の歴史なんてここで言う事ではないので興味がおありなら専売局に来て本でも読んでください。
それとキタミザト殿は安価な紙をと思われているようですが・・・たぶん高額になると思います。
私達でさえ、作業の効率化を徹底して行い、更に専用器具を特注して時短を行って今の価格にまで落とせたのですからね。
初期の紙作りは手作業でしょうからね、品質も良くはないでしょうし、人件費も時間もかかります。」
専売局長が言う。
「ふむ・・・なら、少量で個人が楽しむ程度で良いでしょうかね?」
「よろしいのですか?」
専売局長が言ってくる。
「品質が悪くて価格も高いのなら需要は見込めません。
ですが、個人やちょっとした目的の為なら問題ないでしょう?
企画書は戻ってからそっちにおくりますから、精査してください。」
「はぁ・・・検討はさせて貰いますが・・・ちなみにどんな事を?」
「キタミザト家で子供のメイドを雇ったんですけどね。
その子達にいろいろ体験させたいんですよ。」
武雄が言う。
「物作りをさせると?」
経済局長が聞いてくる。
「ええ、今の世に生まれた子達は今の物がある事が当たり前の状態で生活をしています。
物を生産、製造するというのがどれほどの知識と経験が必要なのか。
先人達の英知の結晶なのかを確認する為にも初期の製造方法を経験をさせたいんですよ。」
「それが紙作りという事なのですね?」
専売局長が聞いてくる。
「正確には紙作りもですよ。
幸いな事に私の部下には農業一家が居ます。
協力工房は家具と文具工房、馬車工房、仕立て屋、ワイナリーとその販売店、工業品や武器を作る生産工房等があります。
各工房、店で何か1つの事が学べたら・・・食べ物や物を大事に使ってくれると思いませんか?
そして領内の子達にも体験させる事で将来何がしたいか考え、そしてそれに向かって努力する子が増えると思いませんか?」
武雄が言う。
「職業の体験をさせるというのですか?」
「そこまでは言いませんけどね。
今の生活は人々の努力で成り立っていると知って欲しいんですよ。
そして今と過去を知る事で将来に繋げて欲しい。
もしかしたら今はなくとも将来の毎日使うような日用品を生み出す子が出てきたら面白いですしね。」
「「・・・」」
武雄の言葉に2人が考える。
「タケオ、私もそれ参加したいです。」
夕霧が言ってくる。
「夕霧もしてみたいですか?」
「ん、図鑑ばかりだとどうやって作られているかはまったくわからないです。
食材の野菜や穀物は何となくわかります。
種を植えて水をやり、大きくなったら回収するんです。
例えばメイド達が布を切って縫う・・・のはわかります。
でも縫い方がいろいろあるようなんです。
なぜなのかわかりません。」
「なるほど。
夕霧達も参加していろいろな経験をしてみましょう。」
「はい。」
夕霧が頷く。
「キタミザト殿、今のはどういう事で?」
「縫い方が違う・・・ですか?」
武雄は頷いたが、経済局長と専売局長がわからずに聞いてくる。
「肩口や腕回り、ボタン周辺といった部位で各々縫い方が違うじゃないですか。
この子だとなんでわざわざ違う縫い方をしているかわからないというのです。」
「それは・・・肩口とかは強度を増す為ではないですか?」
「なら全ての箇所を肩口と同じ縫い方でも良いとなりませんか?」
「それは時間と力がかからないからそこまでしっかりとした縫い方でなくて良いという無駄な労力をかけない為ですよね?」
「私もそう思いますけど。
違う見方をすればすべての箇所を強度を増す縫い方をすればそれだけ強度が増すという考えになりませんか?」
「・・・力がかからないのに強度を増しても・・・
ん~・・・そこの機微は経験なのでしょうね。」
「そうですね。
それに強度があるという事は着心地が良くなさそうですよね。
いくら強度が増しても布では高がしれますし・・・着心地を犠牲にしてまでもと思うのは私も大人になってしまったんですかね。」
「そうですね・・・純粋に物を見れなくなっているというのは寂しさを覚えますね。」
経済局長と専売局長がしみじみと言う。
「そうやって考えるのも経験と知識のお陰でしょう。
で、どうでしょう?
簡単な紙を作るというのは許可が下りそうですか?
出来れば子供達が作った物を実際に売って見て、販売の経験もさせたいのですけど。」
武雄が専売局長に言ってくる。
「ん~・・・子供達に職業体験をというのは良いですね。
その案は王都でも起案してみましょう。
ですが・・・紙を販売かぁ・・・」
専売局長が今後の審査内容を思い浮かべながら考えるのだった。
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