第1708話 人事局に行ってみたら。3(まさか・・・人海戦術?)
「それは・・・全体的な事ですか?
それとも能力別にですか?」
武雄が聞き返す。
「全体的と言えなくもないですが・・・一番値上がりしているのは安い奴隷だそうです。」
「ん~・・・4年後に向けてねぇ・・・
なんで最下層の兵士を・・・ですよね?」
武雄が考える。
「総監局長、兵士と部隊指揮官、どっちが育成期間がかかりますかね?」
「それはどんな組織でも指揮官でしょう。
これは兵士の身体能力だけではなく指揮の素質も必要ですからね。
でも・・・4年かぁ・・・
ギリギリ小隊長の育成が出来そうではありますが。
実際にはなかなか難しいんじゃないですかね?」
「安い奴隷で数小隊を組むという事がですか?」
「そもそも人を率いる適性がなければ、小隊長の人数が足らなくて、1人で数小隊分の兵士を見る可能性もありますからね。」
「今から大量に買っても・・・兵士としては使えても指揮官が少ないと・・・
そんな事をして戦争なんて出来るんでしょうかね?」
「さぁ?奴隷だからある程度指揮できれば他の事は奴隷契約で強制命令でもさせるんじゃないですかね?
そんな事してたら臨機応変な対応なんて出来ないでしょうに。
小隊長ならば全体の目的を理解して、部隊の置かれている状況、しなければならない事、したい事を瞬時に判断する能力が必要なんだと思うのですけどね。
奴隷契約で・・・いや、普通に考えて1人で何小隊分もの兵士をまとめあげて同時に状況判断し、命令を出すなんて不可能だと思いますよ。
それよりも既存の兵士達もいるわけですから・・・なんで大量に買うんですかね?
多少強い者を入れるのはわかりますけど、大量に買って全部を連れて行く訳でもないでしょうし、その後の維持が大変だと思うんですよね。」
「なに考えているんでしょうかね?」
「奴隷国家の考える事はわかりせんよ。」
人事局長と総監局長が話し合っている。
「・・・」
武雄は2人の会話を最初はボーっと聞いているのだが、徐々に眉間に皺が寄ってくる。
「キタミザト殿?」
外交局長が武雄の表情が変わっているのに気が付き声をかけてくる。
「いえ、何でもないです。
ちょっと・・・自分でも嫌になる事を思いついたんですよ。」
武雄が苦々しい顔をさせて答える。
「それは?」
外交局長が続きを促す。
「ん~・・・酷い事を考えたなぁと自分でも思うんですけどね。
潤沢な資金、決められた出陣数、その後の領地運営、人間至上主義的な考え・・・・
今行っているのは優秀な人材を確保する為の先行投資と考えました。」
「それがさっき言った安い奴隷の価格上昇に繋がると?
値が張る方の奴隷の方が良い人材が居るのではないですか?」
「ええ、だから今までと変わらない数の購入がされているのでしょう。
ん~・・・例えば上、中、下の3段階に分けた時、上と中は価格は高いが指揮能力がある者が比較的多いとします。
上は価格は高いが2人に1人が指揮能力がある、中は価格はちょっと高めとしながらも10人に1人がある、そして下はお手頃価格で指揮能力があるとは思われないが20人に1人はあるとします。」
「「「はい。」」」
「ウィリプ連合国の国々の中で戦争自体は支持しても積極的な参加はする気がない国があったとします。
そこで考えます。
どうすれば戦争後への影響を少なく出来るかと。」
「それは領地運営という所ですか?」
「ええ、治安維持や周辺国への睨みを利かせるのも領地運営の1つですからね。
それに指揮能力が高い者は普通に考えて人を動かすのが上手いと考えられます。
文官として仕事をさせていても問題ないでしょう。
では、想定を再開しましょう。
施政者や組織の上層部では普通に有能な人材を確保したいという欲求があるものです。
要は使い勝手が良いが優秀過ぎない程度の優秀な者を多く揃えるという事です。
まぁそう言った人材はなかなか出会える物ではありませんが。」
武雄がそう言うと3人が苦笑する。
「そこで戦争にあまり積極的に参加をしたくない国はこう考えたとします。
『アズパール王国への戦争で優秀な人材を消費させるにはもったいない』と。
そこで取るべきとしたのが。」
「・・・戦争用の部隊を作るという事ですか?」
総監局長が言ってくる。
「潤沢な資金があれば可能でしょう。
さらに新たに買い取った中から優秀な者が居たなら有能ではない人材と入れ替えも出来るでしょう。
そうですね・・・『古参なのだから新人の部隊を率いろ』とかなんとか言って、配置転換を実施。
戦争にはそういった施政者側で要らない人材を配置する事で手元には有能で優秀な人材が置けるでしょう。
これなら戦後の優位性が増すと思いますね。」
「・・・ですが、ウィリプ連合国は勝つ気で挑んできますよね?
結局は抱える兵士数が多くなってしまいませんか?
キタミザト殿の話をそのまま実施すると今の部隊をもう1つ、維持に必要な軍団をもう1個作るような事になります。
一時的な費用は賄えるとしても・・・戦争後も維持が出来ますかね?」
人事局長が言ってくる。
「・・・国境間の関は激戦が予想されますよね。
部隊の損耗を考えないので突撃に次ぐ突撃を強行させる事は出来ますよね。
間引きを戦術に組み込んだ策が有効でしょう。」
武雄が考えながら言う。
「・・・不要人員を消費し、代わりに関を攻略した名声を得ると?
確かに実施は可能ですが・・・それは・・・」
外交局長が目を細めながら言う。
「短期で関の攻略を実施出来ればウィリプ連合国内でもアズパール王国への侵攻の糸口を作ったと発言力は上がるでしょう。
その後の他地域の兵士達に対しても気持ち的にしないといけないという強迫効果が期待できます。
さらにその国の者は損耗が激しかったからと早々に国に帰り領地運営が出来ますからね。
時間を金で買ったと捉えれば・・・出来なくもないですよ。」
武雄が難しい顔をさせて言う。
「あり得ない・・・とは言い切れませんな。
早々に関を落とす事は部隊の士気に良い影響があるでしょう。」
「ですが・・・人材を消費させる事が名声に繋がるなんて考えもつきません。
我々は人材は育てるものであって、消費するものではありませんので。」
「ですが、やり方としては間違っていない感がありますね。
それには莫大な費用がかかるという事を除きという事になるでしょうけども。」
3人の局長が武雄の考えを聞いて唸るのだった。
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