第1692話 エルヴィス家とキタミザト家の見積もり。(さていくらで売りますか?)
「まぁ・・・結局の所は魔王国の中枢部がこちらに敵意を向けていないという確証が高いという結論じゃな。」
エルヴィス爺さんがまとめを言うと皆が頷く。
「ふむ・・・アリス、タケオが居ない今決定権はアリスとヴィクターが担っておる。
キタミザト家の意向を聞こうかの。」
「・・・ヴィクター、平気ですか?」
「問題ございません、アリス様の決定に従います。」
アリスがヴィクターに聞く。
「そう・・・わかったわ。
・・・うん、私達キタミザト家としては今回のヴィクターの推測を確たる物としてエルヴィス家にご報告します。
本心としては、キタミザト家部下一同が奴隷を経験してる関係上・・・特にヴィクターやジーナ、ベルテ一家が奴隷になる際に経由した土地、関与したと思われる者達に対して行われる行為の為の買い付けであれば利益度外視での販売をと考えが頭を過ります。
ですが、私達キタミザト家はアズパール王国の貴族です。
我が国に利益が今の所なく、陛下の裁可が必要になるであろう利益なしでの敵国への支援搬送は出来ません。
一方で私達はエルヴィス家より対魔王国方面の輸出入を任されてもおります。
そして国家としても輸出入については制限が今の所ありません。
よって適正価格での販売なら対応できると判断します。」
「うむ、まぁ気持ちは十分にわかるし、そういった建前は必要じゃの。
それで?」
エルヴィス爺さんがアリスに続きを促す。
「エルヴィス家より買い付けを行わせて頂きたいと思います。
これは私共が街中で買い付けを行うと領民の小麦等の価格上昇を引き起こす可能性がある為です。
出来れば要望通り小麦は40000kg、干物は20000kgを販売して頂きたいですが、最大でどのくらい用意が出来るのか、販売価格と一緒にご提示頂けますでしょうか。」
アリスが頭を下げるとヴィクターとアスセナも頭を下げる。
「うむ、わかった。
フレデリック、現状で出せる最大はいくつじゃ?」
「はい、ちょうど東町の備蓄で賄える量になります。
量は・・・小麦は50000kg、干物は25000kgなら今の内なら放出しても構わないでしょう。
ただ、備蓄については放出した分を領外から買わないといけません。
価格については以前、スミス様が王都でライ麦の交渉準備の際に小麦の価格も確認しております。
この価格を基準に購入金額と考え、エルヴィス家の利益もと考えると・・・小麦が金貨2300枚、干物が金貨2015枚程度でしょうか。
これに輸送費等を加味すると・・・金貨4750枚相当になります。」
「うむ・・・まぁ親類じゃからの。
金貨4730枚にするかの。
あと向こうの関までの輸送費用もわしらが見ようかの。」
「はい、では、金貨4730枚が現状でキタミザト家にお売り出来る価格になります。」
フレデリックが言う。
「・・・」
アリスはわかってはいたが値の張る見積もりにどうしようか悩む。
「アリス様、元から損がない商談ですので、ご無理はする必要はないと思われますが。」
アスセナがアリスに声をかける。
「うん・・・アスセナさんはどう思いますか?」
「はい、現状確かに金額は高い風に見えています。
ですが、今のフレデリック様の見積もりを逆算すると。
全体の費用から輸送費が1割、小麦、干物双方にエルヴィス家の利益15%相当を加味したとみるべきです。
この場合、小麦の原価は10kg当たり銅貨40枚、干物は1kg当たり銅貨70枚となります。
少し利益と原価の所が難しいですが、それでもエルヴィス家は良心的な値段設定をして頂いていると捉える事が出来ます。
その上で金貨20枚の値引きと輸送の肩代わりをして頂いています。
なので現状これ以上の値引き交渉はされない方がよろしいかと思われます。」
アスセナがメモを見ながら言う。
「なるほど・・・本来はここで値引きかぁ・・・
する前に提示されてしまったのは交渉としてはいけないやり方かもしれませんね。
それと小麦の価格が少し高いのは王都基準だからですね。」
「はい。
エルヴィス領内なら小麦は銅貨30枚から35枚内に収まります。
干物に関しては領内の価格と大差ありません。
もしかするとエルヴィス家では干物は領内で調達する気なのかもしれません。」
「ほぉ。」
アスセナの言葉にフレデリックが少し嬉しそうに頷く。
「ん~・・・ヴィクター、これにキタミザト家の利益はどのくらい乗せるべきだと思いますか?」
アリスがヴィクターに聞く。
「そうですね・・・アスセナ、利益は10%で良いと思いますか?
私としては米の購入が控えていますからあまり利益という所は大きく出来ないと考えています。
まぁ何があっても良いように利益を持っておいた方が良いという判断なのですが。」
「そうですか・・・少し取引金額が高いので私も確実にという所ではありませんが・・・
ヴィクター様、その第1軍指揮官執務室という所に提出するまでに何軒挟みますか?」
「ふむ・・・シモーナの所とレバント様の所の2か所は最低挟む事になるでしょう。」
ヴィクターがアスセナの質問に答える。
「となると・・・うん・・・やれるかな?
アリス様、ヴィクター様。シモーナ様宛に最終見積もりと銘打って利益が10%のお見積りと利益が35%の見積もりの2つをお作りしてはいかがでしょうか。」
アスセナが考えながら言う。
「アスセナさん、その意図は?」
アリスが聞き返す。
「1つはもちろんシモーナ様への見積もり、もう1つは魔王国の王城に向けてです。
そうする事でシモーナ様、レバント様が介在しない・・・自分達の利益なしと思わせる交渉が出来ます。
値下げ交渉はされるかもしれませんが、シモーナ様はこちらの最終見積もりを見ていますので、こちらの利益を考えながらご自身の利益も考えてレバント様と交渉をしてくれるはずです。
それに今回は遠隔地での見積もりのやり取りです。
やり取りしている時間の短縮を考えれば妥当なやり方かと思います。
また、『小麦は50000kg、干物は25000kgを確実に発注する事を前提として』とか『1か月以内の注文に限り』と但し書を書いておけば、数量変更での再見積もりの依頼は少なくなる可能性もあります。
また数量は依頼よりも多いですが、そこまで過大な増量はしておりませんので・・・違いますね、依頼された数量の見積もりも用意し37%の利益を乗せてはいかがでしょう。
たぶん多い方を採用頂けると思います。
万が一、依頼数の方で値引き交渉をされたとしても数量が多い方の差額内で対応してくれると思いますから交渉が終わってからシモーナ様から依頼される依頼された量の最終見積もりでは8%の見積もりを再提出すればシモーナ様の利益をないがしろにせずにすんなりと受け入れられると思います。」
アスセナが提案するのだった。
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