第1679話 武雄とジーナ。(ジーナ、反省。)
武雄とジーナ、ビエラ、チビパナ、チビパラス、ミアが机でお茶を飲みながら報告会をしていた。
「はぁ・・・寄宿舎、宿舎、王立学院、各貴族会議と潜入する為の酒場・・・
ジーナ、随分と調べ上げましたね。」
武雄がジーナの報告書を見ながらため息をつく。
「はい。」
ジーナは「褒めて」という顔を武雄に向ける。
「・・・あまり無茶はしてはいけませんよ。」
武雄は「苦言を言っておいた方が良いのかな?」と思いながらジーナの頭を撫でる。
「はい、無茶はしていません。」
ジーナが目を細めて嬉しそうに頷く。
「ちなみにジーナ、潜入するスライム達に教育はしましたか?」
「き・・・教育ですか?
いえ・・・これといって何も。
・・・寄宿舎に居るロロの部下と一緒に行動をさせている程度です。」
ジーナの目が右往左往し始める。
「ジーナ、結果としては素晴らしい物が出来ています。
これは一貴族である私が手にする情報としては十分すぎる結果です。
これについてはジーナ、良くやりました。」
「・・・はい。」
「ですが、夕霧達エルダームーンスライムを潜入させていると知っているのは極少数です。
その存在自体も・・・ですが。」
「・・・」
「ジーナ、夕霧達エルダームーンスライムの体液事業を始めている私達・・・いやエルヴィス家はいつか夕霧達の存在を報告する時がきます。
その時に『うちの屋敷にスライムが居た』となるとエルヴィス家に疑惑の目が行ってしまいます。
確かに向こうの屋敷や建物の情報を取りに行っている時点で危ない橋を渡ってはいるのですけどね。
これはあくまでキタミザト家とエルヴィス家に害が及ばないように事前に情報を持っておこうという趣旨から来ています。」
「・・・はい。」
「やるからには完璧に近い隠密性が要求されます。
幸いスライム単体では魔物として感知はされにくいというのは事前に知っていました。
他の魔物達が騒ぎ出したりしないというのは建物内を騒がしくしないという事でジーナも私達もスライム達にその辺の事をお願いしているのですけどね。
ですが、スライム達も見ているのです。
相手を見るというのは相手からも見られていると考えないといけません。
どういった場所に潜めば発見され辛いのか、万が一の際はどう撤退させるのか。
王都の情報を集める立場にあるジーナはそこを考えてからスライム達に指示を出さないといけません。」
「はい・・・ご主人様の言葉を胸に再度潜入方法を考察しながら情報を収集いたします。」
ジーナが恐縮しながら頷く。
「でも・・・ジーナ、良かったですね。」
武雄はジーナを撫で続けながら言う。
「はい?」
「大事になる前に気が付けたのです。
まだまだジーナが思い描くよりももっと深くまで考えなければいけないと学べた。
そして自分に足らない事があったと認識し、すぐに対応しようとする。
ジーナは優秀ですね。
周りの人々もそう言っていませんか?」
「いえ・・・私はまだまだ足りないです。
各所にスライム達を入れられて満足してしまいました。
私は優秀ではありません。」
「・・・そうですね。
ジーナ、それが重要なんですよ。
回りからどんなに優秀な人材と言われていても見落としと慢心が絶対にあります。
だから優秀な者の隣には常に優秀な者が居ると思いませんか?」
「なるほど・・・伯爵様とフレデリック様のような事ですね。」
「それもですね。
片方の発案、提案、実施状況をもう片方が違う目線で確認する。
それは見落としが絶対にあるだろうという認識がお互いにあるからなのです。
ジーナ、1人で考え込んではダメですよ。
今回の件で言えば、スライムには秘匿性があるので誰にでも相談して良い事ではありません。
なので、ジーナが考えるであろう潜入計画を事前に秘密を知る中で最も安全な者に一度見て貰うというのは間違った事ではありません。
誰かに見せたから、相談したからと言って私がジーナに対する評価が変わるわけでもありませんからね。
わかりましたか?」
「はい、ご主人様。
ちなみにご主人様も優秀と言われる人材ですが、誰が確認しているのですか?」
「ん~・・・私は優秀ではありませんけど、部下に2人程超が付くほどの優秀な者がいるのでね。
・・・ヴィクターとマイヤーさんの2重のチェックがあるのは安心していられますよ。」
「お父さまとマイヤー様ですか。
・・・となるとご主人様は常に2人に相談を?」
「商売・外交的にはヴィクター、軍事・王都的にはマイヤーさん、そしてヴィクターとマイヤーさんとで相互に確認していますよ。
その後にエルヴィスさんやフレデリックさん、アリスにも相談して考えていますよ。」
「・・・常に相談しているのですね。
私に何が足らないか本当の意味でわかった気がします。」
ジーナが頷く。
「さて、ジーナに苦言も言えましたし、ジーナの報告書はありがたく滞在中に読んでおきましょうかね。
ほらジーナ、かりんとうをちゃんと食べなさい。
さっきから思っていましたが、ジーナ痩せたでしょう?
ジーナとヴィクター・・・いや、キタミザト家の人員全員に言える事ですけど、ちゃんと食べなさい。
一時期とはいえ満足に栄養が取れてなかったのです。
しっかり食べてゆっくり寝なさい!」
「・・・いや・・・あの・・・ご主人様?
私今ちょっと叱られて気落ちしているのですけど。」
「え?仕事の事でそれなりな事を言いましたけど、別に叱ったつもりはありませんよ?
成果である報告書は満足のいく物です。
『やり方を考えてね』という事だけですよ、それは後で考えれば良いんですから気にしない気にしない。
それに仕事は仕事、ジーナを甘やかすのは私の趣味ですかね。
ジーナが美味しそうに食べるのを見たいんですよ。」
「うぅ・・・私の気持ちの整理がまだなのですが・・・あ、美味しい。」
「うん、そうですね。
お茶は私が淹れますからね。
ジーナはゆっくりと食べなさい。」
武雄がジーナのお茶を温かいお茶に淹れ直すのだった。
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