第1664話 出立前日。12(夕食後の米打ち合わせ。)
夕食後の客間にて。
「ほぉ、おもしろい事を考えるの。
確かに領内の食糧事情が良くなればとも思って推進はするつもりであったの。
わしとしてはある程度収穫が出来れば王都に向けて少し卸そうかと思っておったのじゃが。
現状では領外に大量に輸出は出来んかのぉ。
タケオはどう思う?」
エルヴィス爺さんが武雄に顔を向ける。
「ん~・・・現状の輸入量は500kg、追加購入については今後協議ですね。
ヴィクターとシモーナさんでやりとりをして貰ってある程度はと思ってはいますが・・・多分領内で消費されてしまう可能性が高いですし、そもそも領内での生産量もまだ未知数ですよね。」
「タケオ、ベルテ一家の方はうーちゃんから報告があってもうすぐ種植えだって。
25kg使って200kgの収穫量を予定だって。」
「「「「!?」」」」
武雄以外の面々が驚く。
「ん~・・・足らないなぁ・・・」
武雄が腕を組む。
「だよね~。
珍しい穀物だけど売り上げはそんなになさそうだよね。」
「・・・1kgが銅貨20枚として、5kgで銀貨1枚、200kgとなれば、銀貨40枚かぁ・・・
籾付きなら実際はもう少し多く出回るでしょうけど・・・
ベルテ一家の土地は年間金貨45枚ですからね・・・土地代だけでも賄えたら良かったのですけどね。」
「タケオ、陸稲から水稲にする?
そっちなら同じ種植え量でも収穫量が上がるわよ?」
「それはまだ早いですよ。
それに上がったとしても劇的に上がるわけではないでしょう。
ベルテ一家の目的は米の栽培ですけど、農業試験場の意味合いもあります。
まずは順調に米を生産出来る事を示し、他の農家が見学に来た際に導入方法の説明をする為にあるのです。
ただでさえ見慣れない穀物の生産です、受け入れは難航が予想されます。
なので、今は他の農地でも出来る陸稲の普及の為に尽力しないといけないと思いますが。
ん~・・・まぁ予想はしていましたけど、後は野菜の品種改良事業とダンディ茶の生産で少し賄えれば良いとすべきでしょう。」
「そうねぇ・・・農業試験場として見るなら、後々水稲がこの地で合うのかの試験もすれば良いのか。
ベルテ一家に対しては採算度外視という事ね。」
「ええ、その為に副業が多くある・・・訳ではないんですけど。
結果として重要な位置を占める事になるでしょうね。
まぁ今は陸稲で安定して米の生産が出来る事を実証しながら、生育過程でどういった事に注意が必要かの確認をする段階です。
農業は焦ってはダメでしょう。
じっくりと腰を据えてしなくてはいけませんね。」
「わかった、うーちゃんには今の言葉伝えておくわ。
タケオの計画だと普及に向けては魔王国産の米を使うのね?」
「ええ、今は魔王国経由でブリアーニ王国産の米ですけど魔王国には貴族でエルフ領がありますからね。
そっちからも輸入出来るか確認が必要ですね。」
「そっちでしていれば良いけど、出来れば2地域から入れるのはありがたいわね。
もしかしたら違う品種かもしれないし、掛け合わせと地域性でこの地の品種が出来るかもしれないしね。」
「なので・・・ヴィクターに言って魔王国側からの輸入量を多くさせますかね。
エルヴィス伯爵、いくら必要ですか?」
武雄がエルヴィス爺さんに聞く。
「ん?・・・ん~・・・その前にの。
タケオ、前から聞いておったが、収穫量が多いの?」
「そうなのですか?」
「うむ、フレデリック、収穫量・・・多いの?」
「はい、実際の数値を言われたので実感が湧いてきました。
小麦の生産量は今回と同じ25kg使うとして、約120kg程度の収穫量になります。
作付面積等々もありますが・・・これが200kg・・・凄い事です。
前にタケオ様が仰っていた自給率を高めるのに米は必須になるでしょう。
ベルテ一家への補助的な事はエルヴィス家にお任せください。」
フレデリックが言ってくる。
「うむ、タケオ、頼むの。
それと際程『すいとう』とか言っておったが、あれはなんじゃ?」
「あ~・・・タケオ、伯爵に水稲の事話した?
アリスとエリカには話したけど。」
「いいえ、アリスとエリカさんには東町で話しましたが、エルヴィスさんにはしていませんね。」
「そう・・・伯爵、今ベルテ一家がしているのは陸稲という栽培方法なのよ。
収穫量は8倍から10倍を見込むわ、今回のうーちゃんの予想では8倍ね。
タケオとさっき話した後々試験する水稲は15倍から25倍・・・想定の最低値で考えるなら15倍。
つまり水稲が成功すれば収穫量は25kgで375㎏になるわよ。」
「なんと!」
「それは凄いですね。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが驚く。
「まぁそれはまだまだ先ね。
今の小麦の畑を転用するにしても水路とかの整備も必要だし、栽培方法も確約出来ないからね。
それに畑を知っている者に田の説明は難しいしね。
だからタケオも陸稲で推し進めるの。
なので当分は陸稲で行く事になるわ。
次の世代のスミスの時に改革をするしかないわね。」
「うむ・・・そうか・・・じゃが、希望があるというのは良い事じゃの。
フレデリック、今はその『おかぼ』というのを普及させないとの。」
「はい、どちらにしても多くなる穀物でこれほど味が良いのであれば推進するべきでしょう。」
エルヴィス爺さんの言葉にフレデリックも頷く。
「お爺さま、普及に向けていくらぐらい魔王国から輸入しますか?
出来れば、第3皇子一家向けとした少々の輸出もした方が良いと思いますが。」
アリスが聞いてくる、エリカも期待した目を向ける。
「ん~・・・そうじゃのぉ・・・」
エルヴィス爺さんが悩むのだった。
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