第1662話 出立前日。10(武雄研究所に一旦寄り道。)
ローチ工房からの帰り道、途中でベッドフォードの青果屋に寄ってミア達を回収し、ご近所に挨拶回りをして武雄達はエルヴィス伯爵邸への帰路についていた。
「主、挨拶回りは順調だったのですか?」
ミアが武雄の胸ポケットから顔を出して聞いてくる。
「皆元気そうでしたよ。
王都に行くので何かあれば動くとは言ったのですけど、皆さん今の所、仕事に手一杯で王都での用事は無いようです。」
「そうなんですかぁ。
それにしても子供達って本当に手がすぐ出るんですよ。
避けるのが上手くなりました。」
「ははは、人気者の証ですよ、潰されないようにね。」
「はーい。」
「タケオ・・・子供達・・・凄く元気!」
クゥを抱きながら歩いているビエラが武雄に言ってくる。
「きゅ!」
クゥは「あれは元気すぎだから!」と言ってくる。
「種族関係なく子供は元気が一番ですよ。
ですが、子供は何をするにも力いっぱいでしてきますからね。
握り潰されたり抱き潰されたり・・・まぁ大変そうです。」
「いや・・・主、それ結構死ぬ思いするんですよ。
ビエラは難なく抱かれていますけど、私とクゥは傷だらけです。」
「きゅ~・・・」
「ミアもクゥもご苦労様です。
屋敷に居る時はのんびりと過ごしなさい。」
「はい。」
「きゅ。」
ミアとクゥが返事をする。
「あ!研究所に寄らないといけないですね。
出て来る時に戻ると言った手前、戻らないと・・・処理する書類もあるでしょうからね。
ミア、ビエラ、クゥ、研究所に行きますよ。」
「「はーい。」」
「きゅ~。」
武雄がチビッ子を連れて研究所に向かうのだった。
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研究所の3階 総監室。
「・・・遅いって。」
「気が付いたら所長居なかったんです。」
「昼まで居ると思っていました。」
マイヤーがオールストンとブレアを前にため息をついている。
3人共ソファに座りながら武雄の帰りを待っていた。
「書類は昨日の内に出しておけば良い物を。
・・・私も01式小銃を持って行った方が良いのか?」
マイヤーが何かに気が付く。
「申請書・・・」
「サイン・・・」
オールストンとブレアが自分達の申請書を見ながら呟く。
「ま、良いか。
今回は移動時の小銃の持ち運びの方法の検証だしな。
私は所長の補佐をする事に徹していよう。
そう言えば小銃と一緒に入っていた肩掛け用の紐は取り付けてあるんだな?」
「はい、全小銃に説明書通りに付けましたよ。
全員が試してみましたが、移動時は肩から斜めにかけた方が良さそうですね。」
「前にアリス殿がしていたか・・・明日の出発時に所長と相談だな。
夕霧殿が今回は行くが、準備は終わっているな?」
マイヤーが聞いてくる。
「はい、問題なく。
ほとんどの物は所長が持って行く手はずになっています。」
「はぁ・・・それもどうかと思うが・・・
あの大袋を組み込んでいるリュックは便利だからな。」
「旅をする際には必須ですよね。」
「魔法具の『大袋 Ver.』を欲しいですよね。
金貨2000枚という大枚が飛びますけど。」
「第二研究所にそんな予算はない。」
「「ですよね。」」
マイヤーの宣言に2人が頷く。
「まぁ・・・次年度の予算案はヴィクター殿から見させてもらっているが・・・
来年の人員増強分の費用を賄うだけでも大変だ。
トレーシーの盾が早く売れる状態にして、売り上げも軌道に乗らないと雑用品もあまり買えないな。」
「「んん~・・・」」
「まぁ王都守備隊は消費しかしてこなかったからな。
ここに来て稼げというのは酷な話だろうが、何かしら実入りが良い仕事を発案しないといけないのかもな。
ん?誰か階段を上がって・・・ビエラ殿の声がするな。」
マイヤーが総監室の扉の方に顔を向ける。
「「所長ですね。」」
オールストンとブレアが席を立つのだった。
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研究所の2階から3階に向かう階段。
「そう言えばビエラとクゥは研究所初めてでしたか?」
「はい!」
「きゅ。」
「私はこの前きましたけどね、ビエラ、主の仕事場何もないんですよ。
暇で暇で。」
ミアが呆れながら言う。
「あ~?」
ビエラが首を捻りながら武雄を見る。
「仕事場に楽しさはないですよ。
といっても私が好き勝手していて、たまに書類を見る仕事ですからしょうがないんですけどね。
ミアにはつまらなかったようです。」
「タケオ・・・楽しい・・くない?」
「私個人は楽しいですけど、他の人が見たらつまらないと思ってしまうのかもしれませんね。
ほら、兵士みたいに体を鍛えるのが楽しいと思っている人が居た場合、興味のない人達からすれば何が楽しくて体を苛めているのかわからないでしょうし、料理を作るのが楽しいと思っている人を興味のない人からすれば何が楽しくて料理研究しているのかわからないという事があるのですよ。
ビエラだって興味のない事をしている人の気持ちはわからないでしょう?」
「気持ち・・・わかりゃない・・・ん~・・・
ミア!」
「失礼な!」
ビエラに指さされたミアが怒る。
「他人の気持ちがわかるというのは経験と観察力、そして想像力が無ければ出来ませんよ。
ミアもビエラもクゥもジーナだってそうですが、人間社会で学びなさいというのは、街や国家、学院といった場所で過ごしてる人を観察し、いろいろな事を見聞きし、体験する事によって相手の気持ちがわかるようになりましょうという側面もあります。
だからビエラ達はいろんな事を体験する必要があるのですよ。」
「はい!」
「きゅ!」
「ただし、いろんな体験と言っても法に触れるような事は法治国家として認められません。
そこはちゃんと学んで迷惑をかけない範囲で学ぶ事が重要ですね。」
武雄がビエラに話しかける。
と3階に着く。
「「所長待ってました!サインください!」」
オールストンとブレアが待ち構えていた。
「・・・私も昔判子貰いに上司を待っていた事はありますけど、待たれるというのは罪悪感があるのですね。
何の書類かわかりませんが、用意はしていますね?」
「「はい!」」
「はい、じゃあ、所長室で見ますか。
ヴィクター、アスセナさん、戻りましたよ。」
「「おかえりなさいませ。」」
ヴィクターとアスセナが礼をするのだった。
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