第1660話 出立前日。8(青果屋さんでの聞き取り。)
ベッドフォードの青果店の奥。
「あ、トマト美味しい。」
武雄がトマトを数個買い上げ、氷水を作りだし冷やしてトマトを堪能していた。
「主~、トマトの売り上げが良いですよ。
私はリンゴも美味しいと思うんですけど、トマトには売り上げが負けます。」
「あ~♪」
「きゅ♪」
ミア、ビエラ、クゥが武雄と一緒にリンゴを食べている。
最近この3人は昼はここにいるらしく、ベッドフォード達も3人を目当てにくる客もいるので何も言わないで昼食を賄っているようだ。
「奥さんすみません。
3人が迷惑かけているようで。」
「いえ、良いんですよ~、3人が来てくれると若い子連れの奥さん方も寄ってくれてね。
子供達が3人に夢中になっている間に他の買い物が出来ると近所でも評判でね。
うちの売り上げも伸びていますから問題ないですよ。
あ、ちなみに3人の昼食はこの界隈の皆からの差し入れです。
うちだけの出費じゃないんで痛くはないですよ。」
「あ~・・・それはそれで皆さんに挨拶に行かないと・・・
奥さん、商店としてはどこですか?」
「向かいの精肉屋とかこの通り沿いの酒場とかですよ。
今簡単な地図渡しますからね。」
奥さんが紙に書き始める。
「主?ダメなんですか?」
「タケオ?」
「きゅ?」
3人が心配そうに武雄に聞いてくる。
「いえ、3人は問題ないですよ。
子供の相手というのはなかなか出来る物ではありません。
お母さん達が安心して預けられるというのは信用があってこそ、それだけ3人は街の方達に信頼されているという証拠です。
なので、今後も気にせずに通って良いですからね。
ですけど、3人の上役としてお世話になっている方々には挨拶をしておくのがもっと信頼を頂けるやり方なんですよ。
あ、ただ、明日からはミアとビエラは王都に私と行きますから、クゥは1人では来てはダメですよ?
アリスに聞いてから行動しましょうね?」
「きゅ。」
クゥが頷く。
「はい、キタミザト様、出来ましたよ。」
ベッドフォードの奥さんが地図を武雄に渡す。
「すみません。
あとこの辺でお菓子の詰め合わせとか扱っている所ありますか?」
「そうねぇ・・・4軒隣にビスケットを売っている店がありますね。
あそこならすぐに用意してくれるでしょう。
そこまで気を使わなくて良いんですよ?」
「まぁ・・・そうなんでしょうけど、知ってしまいましたし。
それにここ以外の店には私はほとんど行きませんからね。
かと言って今後新しく食材を持ってきた所に行くという訳でもないんですけど。
何はともあれ、善意でしてくれたのなら挨拶ぐらいはしますよ。」
「そうですね・・・私達も今後は注意しておきますよ。
それにキタミザト様も忙しいですしね。
行けないのは致し方ないですし。」
「本当、なんでこんな事になったのだか・・・もっと楽してのほほんと過ごす予定でしたのに。
あれやこれやと欲しい物を話していたらこんなんですよ。
アリスとはのほほんと隠遁生活をする予定だったんですよ。」
「それはまだ早いですよ。
最低でも子供を作って成人させてから隠遁生活を目指してくださいね。」
「先は長いですね。」
「世の中そういう物ですよ。
あ、うちの旦那が帰って来たみたいですね。
じゃあ、私は店先に戻りますよ。」
ベッドフォードの奥さんが席を立つ。
「お、キタミザト様、居たのか。」
「お邪魔してます、大将。
工場はどうですか?」
「順調、順調。
品質も落ちていないな。
まぁ・・・何とか安定してきたという所か。
ん?トマトか?」
「ええ、買って冷やしてみました。」
「どれどれ、お、良い感じだな。
冷やしトマトは良いがここまで冷えた物となると魔法師か魔法が使える者を雇わないといけないから中々食べられないんだよな。」
ベッドフォードが席に着きながらトマトをかじる。
「なるほどね~・・・冷やし関係は需要があるのかぁ・・・」
「うん?どうした?」
「いえ、こっちの話ですよ。
それより最近の青果価格はどうですか?」
「一時期よりかは落ち着いたな。
酒場とかで出す野菜炒めを皆が工夫してくれているのが功を奏しているが、まぁ正直もう少し野菜の供給が増えればとは思うな。」
「西の町の政策が上手く行けば多少は良くなりますかね。」
「ん~・・・なんとも言えないなぁ。
確かに今の価格上昇の要因はウスターソースにより一部の野菜の買い占めもあるがな。
これはこの街のみに卸しているからだ。
これが領内へと順次卸されていくなら各町で同様な事が起こるだろう、そうすればこの街に卸される価格がまた上がると考えている。
まぁ一時的な物かもしれないが、起こらないと言えないのは確かだな。
ちなみに仲間内の青果店の皆が言っている事だ。」
「んん~・・・収入だけを見れば嬉しい悲鳴とも言えますけど、その分支出も多い訳ですし、街の人達への食生活への影響はあまり嬉しくはないですよね。」
「そうだな。
高いから買い控えるとなってしまうとその後にも影響するからなぁ。
まぁこれは青果だけでなく肉も穀物もなんだがな。」
「難しいですね。
エルヴィス伯爵達には伝えておきます、といっても向こうでも動向は知っているでしょうけどね。」
「まぁ街中ではそう言っていたと軽く言ってくれ。
今の政策に反対している者は皆無だよ。
それに野菜が不足しだせば各農家も少しずつ増やしてくれるだろうしな。
あまり深刻には考えていないよ。」
「はい、わかりました。」
武雄が頷くのだった。
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