第1651話 その頃の冒険者は。2(現地情勢の検討。)
「デムーロ国へ・・・か、陛下だけでなく全軍が動かれるのですか。
これはとんでもない事が始まるね。」
イルダが書類を見ながら呟く。
「はい、全軍での攻撃は私は経験がありませんが、凄い物になるだろうと思っています。
それと今回対象の者を警護していたのは情報提供者からの依頼があった為です。」
「ふむ・・・なるほど、そう書かれているね。
アズパール王国の子爵様が・・・向こうからすれば異種族を保護して従業員にか。
ふーん・・・奴隷に寛容とはアズパール王国は魔王国にとっては理解できる隣人という事ね。」
「理解できる・・・ですか。」
「ええ、ドローレス国に居ると人間種の汚い面を良く見かける。
まぁ魔王国の国の隣でも同じような事なんだろうけど、種族が違うだけで奴隷とは・・・魔王国出身者には正直厳しい現実がここにはあるの。
それに他種族を雇用してくれる貴族が居るというのは住んでいる街が異種族を受け入れているという事。
住み心地はここと雲泥の差だろうね。
異種族を奴隷としないという領地を持っている貴族や国には敵対する気は私はしない。」
「ヴァレーリ陛下も同じような事を言っていたと聞いた事があります。」
「それはそうだろうね。
ヴァレーリ陛下は元はこの地の人間で奴隷として魔王国に来て、いろいろと厳しい体験を経て最高位に登られた方だし。
奴隷国家を憎んでおいででしょう。」
「そうでしたか。」
「まぁ・・・そんな所よ。
中隊長殿、今後の予定は?」
「特に指示がないのですよね。
ウィリプ連合国の諸国とカトランダ帝国、アズパール王国を見てこいとのお達しのみで。」
「気ままな任務ね。
費用は足りてますか?」
「贅沢をしなければ2か月分の宿賃は持っています。
私達も1か月半程度で向こうに戻ろうかと思っています。」
「ふむ・・・そのぐらいか。
出立は?」
「とりあえず3日後を予定しています。
何かありますか?」
「ん?奴隷船で来たのでしょう?
競売が始まるわ。
まぁ私達からすれば補助要員が着いたという事なので招集してこないとね。
それに人員を割くからちょっと相手が出来ないので5日程街を見学しててね。
出立はその後で良いでしょう?」
「はぁ・・・何かあるのですか?」
「いや、ちょうどこっちから魔王国に戻る辞令が出ている人員も居てね。
まぁ3人なんだけど、一緒に連れて行って。
あ~・・・前に招集し損ねた子がアズパール王国の王都で兵士体験中だったわね。
アズパール王国に行くなら出来たらこの子に会って来て。
テーア・コンカートと言う名なんだけどね。」
「所属がわからねば訪問も難しそうです。」
「そうかぁ・・・一言謝っておいて欲しかったのよね。
こちらの人員が足らなくてね・・・どんな言い訳をしても手違いという事は変わらないか。
・・・生きてて良かった。」
イルダが呟く。
「そこだけは本当に他軍である我々も聞いた際には安堵したものです。
そして他国とはいえちゃんとした待遇で雇用されたという事もです。」
「うん、そうだね。
本当、ありがたい国家が横に居てくれる。
だが・・・そんな良き隣人国家が今、それとなく危うい事になっている。」
「と、申されますと?」
「報告はしているが、どうも最近下級層の奴隷の購入費が高くなってきていてね。
上級はまぁ昔から高いのだけどね。
一応、偽装をしてうちの者達は下級層という区分けで入ってきているわ。」
「はい、それで取引価格が高まっているのですね?」
「ええ、そして我々は各所の情報を元に検討をした結果、数年後にウィリプ連合国はアズパール王国に戦争を仕掛けるという結論になったわ。」
「「「・・・」」」
3人が黙って聞いている。
「最下層の奴隷がというのはもしかしたらそこに向けての囲い込みと思うね。」
「根拠は?」
「ウィリプ連合国というのは、7つの国が統治する国の集まりなの。
1つ目には現在大規模に農地を拡張する、大規模な工房を作るという噂がない。
2つ目に最近、カトランダ帝国との間で全品目の輸出入が可能となっているが、あ、これは奴隷も含めてとなっているんだが、導入時以降の今までそこまで大きな変動はなかった。
3つ目に買っているのがどうもドローレス国・・・この地の領主なんだけど。
この者の代理人カファロは基本的にはどの階層も能力的にも満遍なく買っていくんだが、どうも最下層の攻撃力がある者を増やそうという意図が見えている。
まぁまだ数回だけだけど・・・どうも気になるんだよね。
4つ目にアズパール王国に面している国の代理人達が今後の購入費上昇について噂し合っている。
結果として、買い取り業者の2大派閥・・・カプートとカファロ両陣営に与する者双方から言われている。
そして・・・5つ目として最近アズパール王国の者がアズパール王国に面しているファルケ国に頻繁に出入りするようになったという報告も来ている。」
「カトランダ帝国へというのは?」
「なくはないけど現状ではないだろうと思っている。
カトランダ帝国は人間種で構成されているし、経済連携がある。
対してアズパール王国は異種族関係なく雇用をし、奴隷を嫌っている。
ウィリプ連合国はアズパール王国へは人間至上主義を思い出させる名目で攻め込むのだと考えているわ。」
「無茶苦茶な名分ですね。」
「まぁ・・・私らはそう見るし、アズパール王国もそう見るだろうね。
だが、こちらとしてはそれが通ると考えているんだよ。
戦争を始める方法なんてそんなものでしょう?
違うかな?」
「一介の兵士ではわかりかねます。」
「うん、それで良い。
まぁそんなわけで、現場としては指揮官殿に対し、表立った形でなくて良いので出来る範囲内でアズパール王国を支援して欲しいという報告書を書く予定。
持って行ってくださいね。
同じ物は送付する事にしているから万が一捨てても構わないけど、ちゃんと焼いといてね。」
「ちゃんと持って行きますよ。」
「そうかぁ。
じゃ、宿代も馬鹿にならないだろうからね。
当分はうちの部屋が空いているからそこに寝泊まりしながらのんびりしていってくれ。
おーい、部屋に案内して~。」
イルダが奥に声をかけるのだった。
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