第1649話 その頃の王都では。4(外交局とパットの街中視察の目的。)
外交局内会議室。
数人の者達が会議をしていた。
「・・・ふむ・・・」
「これは・・・早まりそうですね。」
「前回、キタミザト殿に教えた情報の伝達方法ですが・・・これは厳しいですね。」
皆が資料を見ながら難しい顔をさせている。
「カトランダ帝国は問題ないだろう。
潜入先の目途も付いたし、人員も教育中で順調との事・・・問題はウィリプ連合国か。
ドローレス国での売買されている奴隷の価格が上昇傾向にあり・・・とはな。」
「5年・・・いや、4年後に向けてという事でしょうか。」
「そう捉えるのが普通だろう。
何もなければ増やしても意味がないのはわかりきっている。」
「奴隷と言えど生きているのです。
4年間の生活費だけでも相当費用がかさむと思っていたので、早くて来年あたりから価格上昇があるだろうと見込んでの計画でしたが・・・」
「早すぎるというのは私だけの感覚ではないようですね。」
「これでは我々の考えている『侵攻計画の漏洩』から『ウィリプ連合国の予想以上の動員』による『侵攻計画の破綻』と『防衛計画への転換』までが狂いかねません。
ウィリプ連合国には我々を侮って貰わないと困るのです。」
「そうだな。
そもそものこちらの計画が原因での上昇と向こうの国民に思わせる狙いがあったのだがな。」
「奴隷という一商品の急激な価格上昇は結果全ての品目に波及し、経済を圧迫さるという目論見でしたが、上手く行かない物ですね。」
「全くだな。
さて・・・起きている事を我らの予定と擦り合わせるのも仕事か。
幸いまだ噂を流してはいないのだが・・・どうやれば我々を侮ってくれるのか・・・」
「要はアズパール王国が腰抜けと思わせれば良いのですよね。」
「あぁそうだ。
だから今回は『傲慢にも侵攻計画を立てたが対応力を見て逃げた』と思わせるようにしようと思ったんだが・・・
向こうが主導で起こす戦争だからな。
人員の補充も今から少しずつという方針を出した国があるという事だろう。」
「下手な小細工は止めて、人員増強を見守った方が良いのではないですか?
財政局がキタミザト殿に言われて赤っ恥をかいた金貨確保の件もありますし、変な情報を出す事はせずに我々は敵国内の情報収集に力を注ぐという形の方が良いかもしれません。」
「それも手ではあるが・・・
本気になって主力を連れて来られても困るからな。
少しでもこちらが弱小国家と思わせないと被害が増えるばかりになってしまう。
それにカトランダ帝国相手に有利な立場を確立する為にはどうしてもファルケ国の南側の占領と併合が絶対必要だ。
兵士を無駄に消費させる余裕はない。」
「そう言えば軍務局が想定しているのは、ファルケ国の南側の海沿いでドローレス国との国境まででしたね。
広大すぎます。
ファルケ国の3割から4割ですよ。
こんな領土を持ったとして治められるのでしょうか。」
「統治が出来るかは軍務局と経済局に検討させれば良い。
私達は外交局だ、国外の情報整理と情報の拡散、交渉材料の発掘と収集が仕事ではあるのだが。
・・・やはり犠牲を少なくするには事前情報でどれだけ我らを低く見せれるのかが鍵だろうな。
キタミザト殿が来るまでに大まかな流れを作っておかないと他の局に何を言われるか・・・
とりあえず各部署に持ち帰って検討だな。」
「「困りましたね。」」
外交局の幹部達は頭を悩ませるのだった。
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第3皇子一家執務室。
「・・・ねぇ、レイラ。」
「はい、何ですか?アルマお姉様。」
「うん・・・クリフお義兄さまとニールお義兄さまが来るような事が書かれている書類があるのだけど。」
「なんで?」
アルマが書面を見ての呟きにレイラが呆れた声を出す。
「・・・あぁ、それか。
パット何か聞いている?」
「いえ、何も。」
ウィリアムがパットに聞くが息子には通達が来ていないようだ。
「タケオさんが王都に来るからかな?
研究所3機関の会議でしょう?
お義兄さま方が来るのは・・・何かあるのかな?
ウィリアム知ってる?」
「まぁ会議だよ。
タケオさんも来るからというのはあるだろうけど、どちらかと言えば僕達第3皇子一家に異動する者達の最終合意の確立とか異動時期、受け入れ側である僕達の進捗状況を見ながらの修正。
あとは専売局がクリフ兄上の所から来るからその準備と稼働が止まるから代替案の確認と言った事だね。」
ウィリアムはそう答えるが「あとはウィリプ連合国がらみの打ち合わせだね」と心の中で思う。
「パットも私達も知らなくて良いの?」
「今回は文官達の会合に王領の領主が立ち会う形での話し合いだしね。
終わったら報告書が回るからその時にアルマとレイラはわかれば良いんだよ。
パットについてはクリフ兄上が話す事だしね。
なにも話が来ていないなら僕は何も言わないよ。」
「そう、なら良いけど。」
「パットも大変ねぇ。
まぁ久しぶりに父親が来るんだし、今後の事も話し合っておきなよ。」
「わかりました。
そうさせて貰います。」
パットが頷く。
「・・・パット、お妃リスト進んでる?
あれも今回クリフお義兄さまに報告した方が良いわよ?」
「う・・・それは・・・
リストなんてそう簡単には出来ませんよ。」
「誰でも良い訳ではないけど、見繕われてしまうわよ?
まぁそれも良いのかもしれないけどさ。」
アルマが言ってくる。
「そしてパットは意に沿わない女性と結婚、親の選定した者だからと愛はないが皇子と皇子妃として過ごすが、パットがふらりと街中に散歩に出かけた際にとある女性に一目惚れして、通いつめ相思相愛になり側室に入れる。
正室と冷めた関係のまま側室のみに愛をささげ、正室と側室の泥沼の関係へ。
子供も側室にしか出来なく、側室は正室の顔色を窺いながら子供を育てるが正室の嫉妬はその子供に。
まぁ・・・こんな展開じゃない?」
レイラがパット物語をさらりと作る。
「不幸な物語ね。」
「そんな事あるわけないでしょう・・・」
アルマが頷きパットが呆れる。
「はぁ・・・まぁレイラの話は物語でしかないけどあながちなくはない話だよ。
親からの紹介だからと気持ちがないまま結婚すればこうなる事もあるという事さ。
だから親からの紹介だろうが自分が探そうがちゃんと相手を愛さないといけないという戒めだね。
今街中に行っているのはパットが結婚したいと思える女性と会う機会を増やす為なんだよ。
出来ればリストが出来る事が理想だけど・・・出会いの数を増やしていく事が重要なんだよ。
だから同じ所を毎日歩いていても意味ないからね?」
「・・・今後はいろいろ歩いてみます。」
「あぁ、そうすれば出会える人の数も増えるだろうね。
それと気持ちがないまま結婚しても行く末は破綻しかないと思った方が良いよ。
パットには残念ながら権力が付いてきてしまう。
王妃になった者、その関係者はパットが思うよりも権力に溺れるだろう。
子供が出来ればなおの事執着する物でもある。
まぁその辺の裏はクリフ兄上達が確認する事かな・・・とりあえずパットはいろいろな女性と会ってくる事が大事という事だから・・・ま、明日も頑張って街中に行って来てね。」
「はぁ・・・わかりました。」
パットが疲れた顔をさせて答えるのだった。
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