第1646話 その頃の王都では。1(費用はどうしようもない。)
王城にて。
「・・・なるほどなぁ・・・」
アズパール王が執務室で報告書を見ている。
「陛下、開始数か月ですが・・・相当困っているようですね。」
オルコットがアズパール王の机の前に椅子を持ち出し、座りながら聞いてくる。
「タケオから同様な事は言われていないぞ?」
「我慢しているのではないですか?
アルダーソン殿からの陳情では貴族報酬も少なく雇用が難しいとなっていますし、研究所の方も金貨1750枚というのは研究所として少なかったのですね。」
「・・・ん~・・・まぁ・・・そうだなぁ。
ちなみに王家専属魔法師部隊はいくつだ?」
「あそこは金貨1600枚でしたね。
初回という事で同程度の金貨1750枚としましたが・・・ん~・・・
この後2小隊分増加という事で金貨5000枚にする予定なのですけどね。」
「それに新貴族達も困窮しているようだな。」
「居なくなった方々の不動産等の副収入の分配が難航していますからね。
現状ではアルダーソン殿と同じように貴族報酬だけで運営をしていますから屋敷のメイドや執事の雇用数が少ないという事でしょうが、もう少し待って貰いましょう。
バビントン殿はまだ領地が発展もしていませんし、手を付けたばかりなので支出が膨大になっているのでしょうね。」
「・・・ん~・・・どうしたものか・・・
領地持ちも王都勤めも収入源があると見込んでいるんだよな。
研究所も考察した物が売れれば・・・ん?1割だったよな?」
「はい、貴族には1割入りますね。」
オルコットが頷く。
「・・・売れる物が出てくれば・・・だよな?」
「そうですね。」
「ん~・・・研究所だけに増額すれば貴族会議が反対するだろうな。」
「容易に想定できますね。」
「かと言って貴族報酬を上げると新貴族だけでなく他の面々の・・・潤っている者達にも渡す事になる。
これは文官が黙ってないな。
特に財政局がだが。」
「ですね。」
「発足したてで困窮されるのは困るのだが・・・
まぁ我らの想定が低かったと言われればそれまでなんだが・・・」
「それをやりくりするのが貴族でしょう。」
「まぁそうとも言うな・・・
ふむ・・・研究所の資金増やしてやるか?」
「どの程度ですか?」
「研究所3部門でそれぞれ金貨2000枚としてはどうだ?」
「・・・予算案は文官に言ってください。
そこで了承が出たのなら貴族会議にかける必要もありますね。
説明は陛下がしてください。」
「・・・うん、手はないな。」
「はい、頑張って貰いましょう。」
アズパール王とオルコットが頷く。
「そう言えばオルコット、タケオとアルダーソンが来るのだろう?」
「はい、調整も終わりまして5月15日に研究所3部門の会議を実施します。
いつ到着されるとはわかりませんが・・・数日前には連絡が来るでしょう。
お二人とも王城内で宿泊して頂いてよろしいのですね?」
「うむ、問題ないだろう。」
「はい、それに王城内なら監禁が出来ますしね。」
オルコットが頷く。
「会議漬けは大変なんだがなぁ・・・
まぁ外に逃がす手もないか。
軍務局と外交局には連絡しているのか?」
「はい、万全を期しています。
いろいろ詰めないといけない事項があるようです。」
「今後を知る者達での協議は必要だからな。
・・・我もそれに付き合わないといけないか?」
「そこは当たり前です。」
「はぁ・・・もうすぐなのか・・・」
アズパール王が窓の外を眺めるのだった。
------------------------
王立学院の1年の教室。
「以上、5月12日から14日に渡って課外授業を実施します。
皆さんに配った書類を見ながら必要な物を用意してください。
では、今日はこれまで。」
教師が教室を退出していく。
すると教室内で各々のグループで話し合いがされ始める。
「・・・ジーナ、これ予定表にあった?」
「さて・・・年間予定表にあったかもしれませんが・・・文言だけだったかもしれません。
全く気にしていませんでした。」
スミスの問いかけにジーナが答える。
「スミス!課外授業だ!
買い物行くぞ!今回は俺らの見せ場だからな!」
スミスの肩を抱きながらアルダーソンの息子のイーデンが言ってくる。
ジーナは軽く会釈するとスミスの下を離れる。
「・・・イーデン、まずは配られた内容を確認しないと何を買えば良いかわからないでしょう?
それとその『俺ら』というのは誰を指しているんです?」
ボールドの息子のカイルが呆れながら言ってくる。
「もちろんカイルだ!
同じ騎士団長の息子という立場!
今までは座学ばかりだった・・・今回はグレース殿下にも良い所を見せれるだろう!
回答が返ってきた際の殿下の目が怖い・・・」
イーデンが軽く震える。
「イーデン・・・貴方、しっかり中身を見てから考えなさい。
それに座学は座学で楽しいでしょう?」
「いや、ぜんぜん・・・」
「はぁ・・・それに課外授業であっても体力勝負とは書いていないわよ。
必要な物はざっと見たけど、特に何か体力を使う事ではないようです。
なのでスミスを巻き込まない!」
王家のグレースがイーデンを制す。
「・・・えーっと・・・何を買い足せば良いのかな。」
スミスが周辺の3人をよそに配られた書類を見始める。
少し離れた場所では。
「さて・・・皆さんの主達はああですが。」
「場所は半日程度東に馬車で向かった先になるようです。」
「この中でこの場所を知っているのは・・・バウアー様は?」
「私の記憶ではこの場所は森だったかと。
街道から少し入った森の中に広場があるのだと思います。
持ち物を見る限りでは野宿経験をさせるという事が主眼で2泊という事でしょう。」
ジーナ、バイロン、ブル、バウアーの特権階級のお付きが集まって話している。
「野宿訓練だと・・・万が一があり得るでしょうね?」
「対応は私達でするしかないでしょうけど。
ジーナ様は戦闘は?」
「率先して出来ますが、守りはどうしますか?
バウアー様は戦闘は出来ませんでしたよね?」
「すみません、私は非戦闘員です。
ブル様とバイロン様が守り、ジーナ様が少し前で迎撃に出るというのが基本かと思われます。」
バウアーが言ってくる。
「それが一番かもしれませんね。
そしていかにして各主とバウアー様に被害がいかないようにするか・・・ポーションを買いに行った方が良いでしょうね。」
ブルが言う。
「各自3本は用意した方が良いと思いますね。
たぶん宿舎の皆も買いに行くから今日中に入手はしたいな。」
バイロンが言う。
「バイロン様はイーデン様が行く気ですから街に出ますよね。
皆の分を買って来て貰えますか?」
バウアーが言う。
「わかりました。
他に品薄になりそうな物は今日中に買っておきます。
とりあえず必ず持って行く事と書かれている物を確認しましょう。」
お付きの準備が始まるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




