第1643話 また新商品の話。(最強級な構造体。)
「ただ、ランタンがそこそこ売れそうという勘はしています。
町や村でも夜他家に行く際とかに使いそうですしね。
領民の生活向上に役立てば良いので、あまり高い物にはしたくないですし、ある程度量産出来るのなら夕霧達の仕事増加にもなりますからね。
悪い事は少なそうですね。」
武雄が考えながら言う。
「どこで頼みますか?」
トレーシーが聞いてくる。
「ステノ技研は結構仕事が山積しているのに加え、これから盾でお世話になるでしょうし、それに素材製作の依頼をします。
サテラ製作所はミシンの製作やコンテナの研究とかやっていますし、馬車にも関わっていますから小物を扱う余裕はなさそうですよね。
ハワース商会はこれ以上頼むとモニカさんに刺されそうなので今は止めときましょうか。」
武雄が考えながら言う。
「なら新たな工房を探さないといけませんね。
でも・・・ランタンだけとなると難しいからあと数点は依頼して実入りを良くした方が協力してくれそうですよね。」
鈴音が言う。
「スズネさんも所長に似てきましたね。
まぁ言っている事は確かですけど。
なら他に何か依頼するのですか?
たぶん、説明の通りならガラスを多く使うのでしょうから、ガラス細工を専門にする工房かガラスを作る工房で商品化が出来そうですね。」
トレーシーが考えながら言う。
「そうですね・・・ふむ・・・ガラスを中心にいろいろ考えてみましょうか。
鈴音、スコープの凸と凹レンズを作っているのはどこですか?」
「ん~・・・最終的な仕上げはベインズさんですが、ガラスを製造し、ある程度加工して納品してくれる工房は知っています・・・そこで良いですか?
メガネのレンズを作っていて腕は確かですよ。
要望もきっちりと仕上げてくれます。
アルコールランプのガラス容器もここでほとんど作っているみたいです。
日用品から特殊依頼まで何でも熟すというのがこの工房らしいですよ。」
鈴音が言ってくる。
「ほぉ・・・このメガネのレンズを・・・良い品質のガラスを作るみたいですね。」
「透明度が凄いですよ。
変な所に頼むと配合か火の加減なのかわかりませんが、完成品を見た際に光が歪むんですよ。
その工房は歪みもありませんから一級品ですね。」
「信頼性はあるのですね?」
「はい、高いですけど求める物を作ってくれます。
ただ・・・一見さんお断りなんですよね・・・親方に言って紹介状用意しますか?」
「あ~・・・そうですね。
うん、紹介状が用意出来るのならした方が良いでしょう。
鈴音、ブラッドリーさん達にお願いして用意してください。
ま、無理なら他を当たってみます。」
「はーい、たぶん大丈夫ですよ。」
武雄と鈴音がそう話している横で「いや、キタミザト様、貴方は特権階級です、一見とかの枠ではないです」とトレーシーが心の中で思うのだった。
「それと盾ですけどね。
今の私の構想というのはこんな感じです。」
武雄がノートを取り出してトレーシーの前に開いておく。
「・・・既存の曲面のようにはしないのですね?」
トレーシーが武雄が書いたラフ画を見ながら言う。
「ええ、加工が大変ですしね。
それに曲面にしているのが衝撃緩和の処置でしょう。
が、盾に曲面構造での衝撃緩和が必要なのかというそもそもの疑問はありますけど。」
武雄が言う。
「確か・・曲面加工をするのは盾の変形を抑えるという趣旨があったと思いますよ。
常に力をかけておけば波打たないらしいですから。」
鈴音が言う。
「あ~・・・木は収縮しますからね。
なるほど・・・ま、それは良いとして。
トレーシーさんにお願いするのは加工費も含めて総額で同じ額で購入出来、小銃の攻撃にも耐えられる仕様です。
まぁ・・・はっきり言って今のままでは小銃の前に立たせても紙を持っているみたいに貫通しますからね。
何とか防がないといけません。」
「陛下と所長の懸案事項ですからね・・・実際問題として対応方法はあるのですか?」
トレーシーが聞いてくる。
「騎士団が使っているフルプレートの鉄板は貫通しません。
なので最低でも鉄板を組み込みます。
が、費用的な話で鉄板は出来るだけ薄くと考えています。」
「フルプレートに使われている鉄板の厚さは調査しておきます。
あと、市販されているであろう鉄板の厚さもですね。
・・・最薄を目指すのですか?」
トレーシーが「大丈夫ですか?」と聞いてくる。
「薄いという事は原材料が安いという事、ならば安ければ安いほど良いというのは当たり前ではあるのですけどね。
・・・先に答えを教えておきましょう。
トレーシーさん、部材が薄くても高圧力に屈しない構造という物はあります。
これは今回のクローイさんが考えている事にも重なる事でしょうけど。
例えば・・・こうやって・・・」
武雄が間隔を取って鉛筆を置き、その上に紙を広げて置く。
「紙が今は鉛筆の上に張って置かれていますけど、コップを置くと・・・まぁこうなります。」
武雄が紙の上にコップを置くと紙が鉛筆の支えから落ち、コップと一緒に机に落ちる。
「そうですね・・・当たり前です。」
「そうです、当たり前です。
今の世の中の考えではコップの圧力には紙を厚くして紙自体を強くするという方法を取っています。」
武雄が数枚重ねた紙を先ほどのように乗せてコップを置くと紙が耐えてコップが机に落ちる事はなかった。
「まぁ・・・そうですね。」
「そこでは私は・・・こう考えました・・・」
武雄が1枚の紙を段々に折り始め、そして広げ机の上に置きコップを置く。
「え?・・・潰れないのですか?」
「ええ、1枚では潰れてしまうのにこうやってちょっと手を加えると潰れない。
・・・これはトラス構造という物です。
この時代でも建築では経験的、伝統的に使われているであろう構造体ではありますが・・・
手に取れる文献を確認しましたが、どうもちゃんとした理論は無いに等しい分野ですね。
まぁ三角関数を使えという時点でこの時代での計算的な裏付けというのは難しいのでしょうけども・・・
鈴音、三角関数出来ますね?」
「あ~・・・sin、cos・・・タンジェスト?」
「惜しい、まぁ微積までとは言いませんが、三角関数は物理や構造の基礎ですからね。
では、鈴音には復習がてら、トレーシーさんには基礎となる考え方として講義しますか。
まぁ今後は何か作る際には大まかに計算で裏付けしなさいという所の為の講義と捉えれば良いですからね。
厳密な計算は今は必要ないです。
さ・・・講義しますか。
黒板はどこかな?」
「あ、すぐに用意します。」
「久々に数学かぁ・・・」
「私は補助で。」
研究室での講義が始まるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




