第1642話 研究所での雑談。(ランタンかぁ。)
研究所の2階 研究室。
真新しい会議机を挟んで武雄はトレーシーと鈴音、パナに先ほどのダンとクローイの事を説明していた。
ちなみに机の上には万が一の際に横に倒し盾として使う為にスライム黒の体液の板が上面に張り付けられており、ネジで止めているはずなのにネジ頭は見えないようにされている。
もちろんやったのは武雄で少し深めのザグリ加工をして取り付け後、何事もなかったかのように上からスライム黒の体液を流し込み綺麗に仕上げたのだった。
「わかりました、資料は用意しておきます。」
鈴音が頷く。
「それにしても・・・そこまで思い詰めているのですか。」
トレーシーが呆れながら言う。
「乞われてこの地に来て新しい考えの物を作れと言われ、結果を出さなきゃいけないと思っているんですからこうなる事自体は考えていましたが、私が思うより早いですかね。
最初なんですから、とんでもない設計をしてくる事を予想していましたし、そこから数式等を教えて少しずつ物にしていければと思っていたんですけどね。
はぁ・・・これは想像以上に優秀な人材が来たという事でしょうね。
それにしても今の段階でこんなだと試作を始めるともっと大変でしょうね。
何か対策を打っておいた方が良いのかなぁ。」
武雄がため息をつきながら言う。
「そうですよね。
初めて図面を描いて実物作るといろいろ問題が出るんですよね。」
鈴音が思い出しながら言ってくる。
「トレーシーさんはそういった経験は?」
「図面という感じではないですね。
王家専属魔法師部隊は基礎理論と魔法体系が主な研究ですからね。
古い文献の確認や既存の魔法の理論形成と効率化とかしているんですよ。
あ、テイラーがしている魔法刻印は元々テイラーの研究課題なんですけど、ほぼ失われていて、特定工房でしか教えられない門外不出とされていて、研究が進んでいませんでしたね。
それで王家の宝物庫に通っているうちに精霊魔法師になったんです。
ある意味テイラーは運が良いですね、ステノ技研で魔法刻印を教えて貰えるなんてこの国では凄い事なんです。」
とトレーシーが言う。
「という事はトレーシーさんは図面を引いたことがないんですね?」
武雄がトレーシーに聞く。
「引く?・・・ええ、描いた事はないですね。
あっても指輪とか魔法具の外形とかですかね。
詳細は無いですね。」
「ふむ・・・まぁトレーシーさんに詳細図まで描けとは言いませんけど、その分ステノ技研に行って説明する必要がありはしますかね。
絵が描けないならその分職人がわかるように説明してきなさい。」
「はい、わかりました。」
トレーシーが頷く。
「パナ、アルコールランプはどうですか?」
「一応、満タン状態からどのくらい保つのか確認しましたが、約4時間ですね。
容量を大きくすればもっと行けるでしょうけど、容器が熱を持っている感じがしますからする必要はないと思われます。
それよりも個数を多くして定期的に入れ替えた方が良いと思われます。」
「やり方は任せます。
火を点けるのは何とかなりますか?」
武雄がライターで火を出すときのように親指を横に数回往復させる。
「大丈夫です。
正直に言えば点ける際に癖がありますから商品化にはまだ課題がありそうです。」
パナが報告してくる。
「ですよね。
作っておいてなんですけど、私も最初火を点けるのに苦労しました。
ライターって安かったからもっと簡単に出来ると思っていましたけど、結構考えられて作られていたというのが製作してわかった事ですね。」
鈴音が疲れた顔をさせて言う。
「ふむ・・・それに火事の心配もあるから当分は様子見でしょうかね。
応用を考えるのなら出来ればランタンを作ってみたいですが・・・」
「ランタンですか?」
「うん、ある程度の距離があった場合の通信手段の最初はランタン等の光を使ったモールスだと思います。
こっちではルクスの魔法がありますが、通信手段としては使っていませんしね。
それに部屋の明かりは・・・まぁこうですし。」
武雄が天井を見ながら言う。
「武雄さん、電気がないのになぜか電灯があると私も最初不思議だったんですよ。
仕組み教わりました?」
「いいえ、気にはなりますが、深みに嵌りそうなので『そういう物なのだろう』と気にしない事にしました。」
「あ、なるほど。
でもそれが良いのかもしれませんね。
機会があったら教えますよ。」
「あ~・・・鈴音、時間がある時に冊子にしておいてください。
気が向いたら読みます。」
「はーい。」
鈴音と武雄が自分達にしかわからない事を話し、結論付けている。
「で、所長、ランタンというのは?」
「ん~・・・簡単に言えばアルコールランプの周りをガラス張りの箱で覆って風が当たらないようにしたものです。
最初は街路樹灯や玄関の明かりなんですけど・・・鈴音、他に言い方ありますかね?」
「簡易的な屋外照明です。
馬車に取り付ければ明かりを照らしながら室内で本も読めますが・・・高めの馬車はこの照明を馬車に組み込んだりしますけど、それをスライムの体液で賄うんです。
いわば安い価格帯での馬車用の照明という感じですね。」
「あ、なるほど。」
トレーシーが納得する。
「それで納得するんですか・・・
ちなみに魔法が無くても明かりが点けられるようにしたいので、魔法適性が無い方もちょっとした夜道の出歩きに重宝しますよ。」
「・・・酔っ払いに人気が出そうですね。」
「酔っ払いに火を持たせると火事になりそうですから却下ですね。」
「それもそうですね。」
武雄の指摘にトレーシーが苦笑するのだった。
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