第1635話 スライム姉妹。(意外と初雪は狂犬気質?)
武雄と初雪と時雨はテイラーの店を後にして研究所に向かっていました。
「タケオ、領内は順調っスよ。
他に何するっスか?」
「タケオ、何かする事ない?」
「のんびり過ごしなさい。
急いで仕事をする事もありませんからね。」
「「ん~・・・」」
時雨と初雪は現状、暇なようだ。
「時雨は領内監視は常にしているんですから忙しくないというのは良い事ですよ。
それに町-街間の環状線と放射線のスライム専用通路に着手しているんでしょう?」
「あれはスライム達がやってるっスよ。」
「その情報の管理も時雨がするんですから今は暇なぐらいがちょうど良いのですよ。」
「そういうもんっスかね。」
「初雪だって研究室が始まれば紫雲と彩雲と協力して領内の地図作りでしょう?」
「そんなに大変?」
「絶対大変ですよ。
書き方自体が確立されていないので手探りで始めはしますけど。
あの2人が見た景色をそのまま絵にするんですからね。
初雪も大変になりますよ。」
「ふーん・・・書き方覚える。」
「あ、そうか、初雪には鉛筆の使い方と書き方を教えないといけないか。
それと図面台はあっても道具があるかなんだよなぁ。
製図室があるステノ技研や各工房に頼んでどこで買っているか聞いてみるか。
製図はしているはずだし。」
「タケオ、物がないの?」
「ええ、頼んでおきます。
まずは初雪は線の書き方を知る必要がありますね。」
「はい、わかりました。」
初雪が頷くのだった。
「あ、もうエルヴィス伯爵邸ですね。
初雪は今日は小銃の訓練をして疲れたでしょう、今日のお仕事は終わりです、休みなさい。」
「タケオ、疲れてはいない。
けど、様子を見るのは約束。
ユウギリ達と共有しておく。」
「はい、しっかりと休む事も仕事の内ですよ。」
武雄が頷くのだった。
・・・
・・
・
研究所の3階 所長室前。
「ただいま~。」
「「おかえりなさいませ。」」
武雄がヴィクターとアスセナに声をかける。
「何かありましたか?」
「研究室の備品が納入されました。
打ち合わせ用の大机が搬入の際に少し傷つきましたので割引にして貰っています。」
ヴィクターが報告してくる。
「・・・モニカさん達の事だから作り直すとか言っていませんでしたか?」
「言いましたが、材料を無駄にするのももったいないですし、特に誰かに見せる訳でもない。
机の角が少し傷ついた程度ですのでそのままにして貰いました。
替えた方がよろしかったですか?」
アスセナが聞いてくる。
「いえ、その判断で問題ないです。
これが客間とか他人の目にさらされるなら考えたでしょうけど、所員のですからね。
機能に問題ないなら無駄にする事はありませんよ。
値引きになって財政面が少し潤うのは良い事です。」
武雄がそう言いながら所長室に入っていく。
ヴィクター達も武雄に続いて入ってくるのだが。
「・・・主、試験小隊から上申が来ております。」
「ん?」
「木で作った模造小銃を作って欲しいとの事です。
小銃を抱えてのほふく前進等の訓練で小銃を使って傷付けるのは嫌だそうで。」
「ふむ・・・良い心掛けですが・・・費用がいくらかかるかですね。」
「ステノ技研かハワース商会に見積もりを依頼しようかと考えております。」
「妥当な選択ですね。
ただ・・・ハワース商会の方が木材を扱っている関係上、上手く作ってくれそうな感じはしますが。」
「はい、私もそう考えます。
ですが、まずは見積もりを見て考えようかと。
あまり値段に差がなかった場合、高くてもハワース商会にお願いしてもよろしいでしょうか。」
「良いですよ。
今回の事で値段も頑張るでしょうしね。」
「畏まりました。
その際に小銃を1丁貸し出す事になると思います。」
「・・・貸出書を用意しておきなさい。
サインを貰うのも忘れずに。」
「はい、その際は用意いたします。
では。」
ヴィクターとアスセナが所長室を出て行く。
「・・・ん~・・・」
武雄が自分の執務机に座り、引き出しからノートを取り出すと何やら書き始めるのだった。
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エルヴィス伯爵邸のエルヴィス爺さんの執務室。
「・・・シグレ、凄い経験だったね。」
「結構衝撃があるみたいっスね。」
「全身に振動が響く。
あれは実際に経験してみるのを勧める。
共有しただけでは伝えきれていない気がする。」
「ん、タケオと相談してシグレと私も小銃の訓練をしてみましょう。」
夕霧が頷く。
「初雪、小銃の訓練は為になったかの?」
エルヴィス爺さんが書類から顔を上げて初雪に聞く。
「はい、他者を攻撃する手段としてもスライムにとっても有効。
今まで逃げるしかなかったスライムに防衛する力が手に入る。
遠くから撃てるというのも体が最弱なスライムにとって良い事。」
初雪がエルヴィス爺さんに言う。
「そうかの・・・じゃが、タケオの撃っている様は見ているが、あれは人型でしか使えんじゃろうの。
そう考えると夕霧、時雨、初雪の3人しかいないからのぉ。
表立って種族の防衛や攻撃力という点ではまだまだじゃ、良くて自身を守るための武器という所止まりじゃの。
力が手に入ったからといって他者や他種族を貶めるのは間違いじゃぞ。
そんな事をすればいつか自分達が滅ぼされるじゃろう。
慢心はいかん。」
「ん、伯爵の言う通り。
ハツユキ、強い武器を持ったからといって私達が最弱なスライムという種族は変わらない。
不用意な事をすれば、この世から駆逐されてしまうか棲みかを失う。
それに折角、伯爵やタケオと知り合ったのに迷惑をかけることもない。
伯爵達は優しい、でもそれは友好関係があるから。
ここで私達が敵対すれば伯爵の好意はどうあれ、伯爵は領民を守る為に私達を駆逐しないといけない。
ハツユキ、初めて攻撃力を持ったことで選択肢が広がったように感じるかもしれないけど、実際は何も変わっていない。
私達の仕事は伯爵やタケオに領内の情報を迅速に知らせる事とタケオの物作りに協力する事。
そしてスライム皆が安心して過ごせる地域を守る事。
それを忘れてはダメ。」
「そうっスよ、ハツユキ。
私達は皆で仲良く暮らして美味しい残飯を貰って適度に仕事をするっスよ。
タケオも私達にどんどん仕事くれるって言ってたっス。
こちらから誰かを攻撃する必要はないっス。
誰かに攻められるなら守る必要はあるかもしれないっスけど、実際はタケオや伯爵にお願いして人間種が誰かからの攻撃から私達を守るっス。
私達はその補助をする事がお仕事っス。」
「はい、ユウギリ、シグレ、わかりました。
でも個人で防衛できる方法は経験しておいた方が良い。
あれは画期的という表現が適切。」
「ん、ハツユキがそこまで言うなら早めにタケオにお願いして小銃を撃ってみましょう。」
「そうっスね。」
夕霧と時雨が頷くのだった。
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