第1633話 帰りに寄り道と押しかけ職人。(あ、休憩は長くなりそうです。)
テイラーの魔法具商店。
「結局、川からの流入は無かったのですか。」
「ええ、取り越し苦労でした。
まぁこれで少々の雨なら排水が上手く行くというのがわかりましたし。
時雨達も定期的に排水溝が壊れていないか確認してくれるそうです。」
「便利ですね、スライムは。」
「便利過ぎで真面目過ぎです。
対価が少なく感じますから近々残飯を1つ上げますかね。」
「射撃場の整備ですから広さもありますしね。
人手でやったら費用も馬鹿にならないでしょう。」
「ええ、そうですね。」
武雄が頷く。
「えーっと・・・なら、小銃の立て掛け台は前にキタミザト様が持って行かれた剣用のを用意します。
小銃改1と3はもう1組注文ですね。」
「はい。
・・・そういえばブラッドリーさん達はどうしていますか?
工房が静かですね。」
武雄が店の奥を見ながら言う。
「あぁ、ブラッドリーさん達は研究所に行っていますよ。」
「ん?何かありましたか?」
武雄が首を傾げる。
「いえ、スズネさんから今日は実弾演習日と聞いていたので『どうせ、何も考えずバカスカ撃つんだろう、銃身が熱で膨張しているかもしれないから再調整してくる』と皆で押しかけていますよ。」
テイラーが苦笑しながら言う。
「あ~・・・熱かぁ・・・
小銃改はバカスカ撃っても熱くならないですしね。」
「当たり前です、どれだけ魔法を組み込んでいるか。
キタミザト様のは熱膨張なんてするわけないです。
まぁ私もブラッドリーさん達に教えて貰って『へぇ~』と思いましたけどね。」
「・・・鈴音は何も言っていませんでしたね。」
武雄がさらに首を傾げる。
「スズネさんは口止めされています。
なんでも『小銃を本格的に使用するのは初めてだから実戦に近い撃ち方をして貰って、どう歪みが出るかの確認も兼ねたい』との事ですよ。」
「・・・試験小隊の本来の姿っぽくて良いですけどね。
ということは今頃は・・・」
「怒られているんじゃないですか?」
「熱かぁ・・・少々照準もズレているでしょうね。」
「ええ・・・あ、そういえば、あれ一応出荷時点で100mに全て合わせているらしいですよ。」
「初めて聞きましたが?」
「ブラッドリーさん達の話だと照準を合わせてから納品しているそうです。
スズネさんの講義で微調整の方法が教えられているはずなんですけど・・・
ブラッドリーさん達が今日は行っているので詳しく教えられているでしょうね。」
「そうだと良いんですけどね。
あ、お茶のおかわりを。」
「帰る気ないですね。
すぐに用意します。」
テイラーが奥に行く。
「そうだ、仁王様。」
「なんだ?タケオ。
暇なら柔道をしていくか?」
チビニオがカウンターに姿を現す。
「暇ですけど、運動はする気ないですね。
この間、アップルパイを作ったんですよ。」
「ほぉ、そういえば鈴音が満足げに帰って来た日があったな。」
「ちょうどリュックに入れているので、奉納しますから食べましょうか。」
「ふむ・・・では、我は高級茶葉のお茶を持ってこよう。
少し待っておれ。」
ニオがテイラーを追って奥に行くのだった。
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研究所の1階 試験小隊詰め所。
「・・・え~???この状態から調整ですか?
難しいですよ?」
ブルックが伏せ撃ちの状態で横に立っているブラッドリーを見る。
「だが、そうやって照準は合わせる物だ。
まぁ上下の方は調整出来ないが左右は出来るようになっている。
照門の付け根に小さい穴があるだろう?
そこに針を刺している間だけ少しだけ動くようになっている。」
「出来ません!
というかですね・・・こうやって構えていて・・・ここに針穴があるんですよね?
一度、体を起こさないといけないじゃないですか。」
「そういう物だからな。
さ、次回の訓練時に調整出来るように今から訓練だ。
さ、構えて。」
「うぅ・・・わかりました・・・構えて・・撃ちました。」
「的に対して右斜め上に当たった、さぁどうする?」
「えーっと・・・今の説明を鑑みて・・・右上だから・・・銃身に対して左を向いているという事だし・・・左にズラす?」
ブルックが真剣にどう調整するか考えている。
「ん~・・・わずかに歪んでいるの。
右かの?このぐらいならすぐに直るかの。
サリタ。」
ボイドが01式小銃の銃身の真ん中に糸を張り、さらに照星と照門にも糸を張って歪みを見ている。
「はい、じゃあ、すぐに直しちゃいましょうか。
おじいちゃん、押さえてて。」
サリタが銃口に専用の鉄の棒をねじ込んでいく。
「・・・なんか凄い。」
「筒の歪み直しってこうやるんだ。」
ベイノンとアーリスがサリタとボイドの作業を見ながら感心している。
「あ・・・ここだね・・・ゆっくりゆっくり・・・」
サリタが手の感覚で歪み個所を直し始める。
歪み直しは繊細で小銃を固定しての作業のはずがなぜだかこの工房の人間達は普通に手作業で直している。
「凄い・・・」
「職人技だ・・・」
ベイノンとアーリスがサリタに尊敬の眼差しを向けるのだった。
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