第1593話 試験小隊の特別訓練。2(あっちとこっちの温度差。)
「はぁ・・・はぁ・・・」
ベイノンは一心不乱にほふく前進をしていた。
いつぞやの武雄の時の試験のように、エクスの爆風とその爆風に飛ばされた石粒がベイノンを襲っている。
「くっ・・・これは凄いっ!!・・・はぁ・・・はぁ・・・」
ベイノンは溝を一生懸命にほふく前進する。
武雄に言われていた腹を付けるの意味が身に染みてわかる。
「まだ先か・・・先導がいるというのも不思議な・・・ものだがな!」
ベイノンの前1m程度には以前武雄が作ったお手製の簡易ヘルメット(麦わら帽子型)を被った黒スライムが案内役で居る。
左の土手沿いに沿って動いており、小石等の影響は受けていない。
「はぁ・・・はぁ・・・あ!ヤバっ!」
ベイノン自身も気が付いたが、溝から著しく顔を上げてしまうと。
カッカカカカン!
小粒の氷が右側からヘルメットを襲う。
正確には右側の地面に大量のブリザドが着弾し砕けた物が当たってくる。
なのですぐに頭を引っ込めて前進を再開する。
「くそっ!・・・はぁ・・・はぁ・・・」
訓練は熾烈なのだった。
------------------------
「ミルコ!少し溝に寄り始めている!
気を付けなさい!」
「はい!」
「アニータ!少し発動する間隔が遅いぞ!
落とすタイミングをミルコに合わせろ!」
「はい!」
アーキンとブルックはアニータとミルコに指示を出しながらも2人が作り出した落ちてくる石から注意を外さない。
アーキンとブルック、アニータとミルコは前回同様、アニータとミルコが石を落とし、アーキンとブルックが石の上面にのみエクスを当て上半分を吹き飛ばし、下半分にはエクスでの加速を付け、地上に到達した際に割れないように強化をする。
そして後から落ちてくる石にも同様に強化をし、先に落ちた石に当てさらに爆発させていた。
「これはまた・・・あ、顔をまたあげた。」
「こらこら首持ってかれるよ?」
マイヤーが呟いた瞬間、隣の武雄がブリザドを溝の手前50㎝くらいの所にばら撒く。
一見して本当に戦争映画のような感じになっているのだった。
------------------------
訓練場の休憩所前。
「わぁ・・・これ酷いわね。」
エリカが呆れていた。
「アリス!エリカ!お茶・・・だふ!」
ビエラがヴィクターが淹れたお茶を2人の前に配膳していく。
「ビエラ殿、ありがとうございます。」
「あ、ビエラちゃん、ありがとう。
ヴィクターもありがとう。」
エリカとアリスがお礼を言う。
「はい!」
ビエラは自分の席に戻る。
「労いありがとうございます。
しかしながら改めて拝見すると苛烈な訓練ですね。」
ヴィクターがスープをかき混ぜながら小道を見て言う。
「まぁ・・・あの状況こそがタケオ様の故郷の戦争の一端らしいですね。」
アリスが試験小隊の奮戦を見ながら答える。
「これが?
タケオさんがしているという事は、タケオさんが居た国に敵対する所も同じ訓練をするという事よね。
ん~・・・戦争の仕方が違うということなのかしら。」
「小銃が主装備と説明がありましたしね。」
「魔法がない世界か・・・想像もつきませんね。
でも、だからこそ魔法の代わりに小銃のような武器を使って鉄を飛ばす事を可能にした・・・か。
魔法がなくても魔法のような武器は作れるという事ですね。」
「そうなりますね。
もっと驚きなのは、お金さえあれば皆が手に入れられるという状況ですよ。
まぁ領民皆がとは言わないでしょうが、施政者達の要望によっては数千、数万、下手したら数十万の兵士用に小銃を常に供給する体制がある。
この事こそが恐るべき内容だと思います。」
「あの小銃を数十万か・・・街1つぐらいが全部工房になっていてもおかしくないわね。
でもそれで生活が成り立つのかしら?」
エリカが首を傾げる。
「確かに私達にとってはとんでもない事なんでしょうけど。
エリカさん、タケオ様の出身国の総人口聞きましたか?」
アリスが真面目顔でエリカを見る。
「え?聞いていませんね。
アズパール王国が約220万でしょ?・・・あれだけ食文化が華々しいとなると10倍は・・・居るかな?」
エリカが「かなり盛ってみた!」という顔をアリスに向ける。
「残念、タケオ様の出身国は1億2000万人だったそうです。」
「え゛!?」
「!?」
アリスの呟きにエリカとヴィクターが驚く。
「まったく、一体どうやったら1国を1億2000万人もの人口に出来るのか、タケオ様の国の施政者に聞きたいものですよね。
あ~・・・ちなみにエルヴィス伯爵家くらいの領地だと最低100万人は居たらしいですよ。」
「100万・・・ちなみにエルヴィス家は?」
「6万ちょっと、ゴドウィン家は確か18万ちょっと。
エリカさん、王都は?」
「・・・30万ちょっと。」
「ヴィクター、魔王国のファロン子爵領は?」
「獣人のみなら約1万、オーク等も含めて良いなら6万8000程度です。」
「地方都市の最低人口が100万人、約2%が兵士としても地方都市が抱える兵士は約2万人、国家としては240万人があの小銃を装備するなんて・・・脅威以外の何物でもない。
そしてそれを支える農場と工房は果てしない努力をしているというのもわかるという事です。」
「タケオさんの知識はそこら辺から来ているのですね。」
「240万の兵士用の武具、食事だけでなく、1億2000万人の生活基盤の安定性も考えると・・・タケオ様が考える工程を少なくさせる方法とは、皆が皆で国を支える為に考え付いた英知なのかもしれませんね。」
アリスがそう締めくくる。
「対象の数が違い過ぎて、私達ではタケオさんの考えに付いて行けないのは当然なのかな?」
「ですが、逆に言えばその英知を惜しみなくこの地に根付かせようという主の試みは、先々を考えればしておいて損がないという事になりますね。」
エリカが呆れるが、ヴィクターは何か納得したように頷きながら言う。
「そうね。
タケオ様のお陰でこれからエルヴィス伯爵領だけでなくアズパール王国全体の人口が伸びて来るでしょうね。
先んじて私達が手を打っておいても問題ないでしょう?
周りから馬鹿にされるかもしれませんが、タケオ様のあの勢いだとしっかりと考えておかないといけない気がするんですよね。」
「私もウィリアム殿下領で着手しておかないとなぁ。
人口が増加するのなら、しておかないといけない事は多々あるし。」
「まぁすぐにという結果にはならないと思いますけどね。
あと10年、20年・・・遠くはないけど近くはない将来、もっと人が多くなるでしょうね。
どんな未来になるんでしょうね?」
アリスが笑いながら言う。
「タケオさん・・・力加減を間違えないと良いけどね。」
エリカが考えながら言う。
「すでに間違えているかもしれませんけどね♪」
「ふふふ、そうね。
でも楽しいから良いか♪」
「それは確かに。」
アリスとエリカ、ヴィクターが雑談に華を咲かせ楽しんでいるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




