第1570話 演習中。3(鮮紅と先駆の凄さ。)
一連の魔法攻撃が終わった瞬間。
「!?」
盾を構えていた兵士が驚く。
土埃が晴れる前にアリスが飛び出して来ていた、それも自分達に向かって!
「せいやぁぁぁ!!」
アリスが自身の左側から木剣を振り抜いてくる。
アリスは武雄の後ろから飛び出した瞬間に魔眼を発動、最速を持って肉薄し盾ごと薙ぎ飛ばす。
「あー!!!」
ビエラも遅れじとアリスの左に入り1人を蹴り飛ばしていた。
「ビエラちゃん!右!」
「はい!あー!」
アリスは正面に斬り込んですぐに右にいる兵士達を飛ばしにかかる、今度は振り上げた木剣をそのままの状態で体を入れ、左少し上からの右に薙ぎ払う。
「・・・やりすぎないようにね~・・・」
武雄はシールドをすぐに止め、両手にそれぞれ「ファイア×20 ブリザド×20 ガトリング ランダム発動」として左翼と右翼それぞれの兵士達にファイアを当てながら牽制している。
端から見れば武雄が両手をパタパタと少し振っているように見えるが・・・受けている方は溜まった物じゃない。
威力は小さいと盾に当たる音でなんとなく分かっていても気を抜くと怪我をするかもしれない。
それに輪をかけアリスが暴れ始めたのだ。
「次は自分達だ・・・」兵士達は武雄の魔法を浴びせられながら、身を寄せ合いその時を待つのだった。
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兵士隊の後方では。
「・・・兵士長、槍の攻撃はなしという事で。」
ニオが兵士長に言う。
「そのようで・・・事前の想定どおり・・・ではありませんが、想定されていた乱打戦に移行しましたので意表を突いた槍での初撃は見送りましょう。
総員に伝達!半包囲継続実施!先ほどまで槍を習っていた者達も一旦後方に下がれ!
槍の柄を回収、ステノ技研に返納する!
魔法師小隊は各小隊に張り付け!回復戦法に移行!」
「「はっ!」」
伝令達が走っていく。
「・・・やり過ぎた?」
「怒られますよ~・・・」
トレーシーとテイラーがニオと兵士長の下にやってくる。
「兵士長殿、要望通りでしたか?
王都の部隊が使用する魔法でベテラン達ぐらいしかしませんが・・・所長は初見ですから行動を遅らせられたと思います。」
トレーシーが悪びれもせずに言ってくる。
「お見事でした。
ギリギリまでキタミザト様とアリス様を釘付けに出来ました。
槍の出番はありませんでしたが、概ね向こうに危機感は与えられたでしょう。」
兵士長がにこやかに言ってくる。
「で・・・これですか。」
トレーシーが兵士が飛んでいる現状を見て感想を言う。
「まぁ・・・ここからが我らの試練なので・・・
お二人もお下がりください。
ここから先は魔法師は回復が主任務になりますので、ご助力は必要ありません。
ニオ殿、ご指導ありがとうございました。
槍が正式に出来上がりましたらまたご指導をお願いいたします。」
「うむ、とりあえず今は兵士達の奮戦を期待するぞ。
テイラー、行こうか。」
ニオがチビ状態になってテイラーの肩に乗る。
「では、兵士長殿、失礼します。」
「失礼します。」
トレーシーとテイラーが去っていく。
・・
・
「・・・なんという魔法を放つんだ・・・
キタミザト様が防いだから良いような物の・・・はぁ・・・王都の部隊出身者には演習では助力は頼まないようにしないと・・・」
兵士長が頭を抱えるのだった。
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城門の上では。
「おー♪これが鮮紅の戦い。」
エリカが楽しそうに見ている。
「エリカ様?楽しそうなのは良いんですけど・・・あれ、脅威以外の何物でもないですからね?」
カサンドラがアリスを指さして言ってくる。
「ねー?
なんでこうもばったばったと薙ぎ払っていけるのでしょうね?
これは見ごたえがあるわ。」
エリカは驚きを通り越して楽しんでいる。
「はぁ・・・これに初対面の時に喧嘩を売ったんですよ?
どれだけ命知らずだったか・・・」
カサンドラがため息をつく。
「良いじゃない、だからこそこうやってこの場で友好を深められているんだし。
あ!アリス殿も右に左に縦横無尽というのはこういうことをいうのね。」
「違うと思いますが・・・ま、好き勝手に飛ばしていますね。
・・・なるほどこれがエルヴィス家が考え出した回復戦法ですか。
飛ばされている兵士達を2人1組で即回復、前線に送り出すと・・・鬼畜ですね。」
「カサンドラこれって普通の事よね?
怪我を負った兵士を回復させて前線に立たせるのって。」
「普通・・・まぁ誰しもが考えそうだし、誰もが諦める方法ですね。
魔法師は攻撃力です。
攻撃力をなくしてでも魔法師を回復させるのに回すのは指揮官としても並大抵の決断力ではないでしょう。」
「ん~・・・そうかぁ、攻撃力があれば兵士と当たる前に相手の数を削れるしね・・・
それを全て回復に回すのは難しいかぁ。」
エリカが考える。
「こういった事は中途半端が一番危険です。
やるなら全力でやらないと良い結果は出ないでしょう。
兵士長殿は長時間の戦闘を覚悟してでも兵士達の回復を優先的にしているという事です。
魔法師達は不満があるでしょうが・・・初撃で魔法を使わせる事で不満を抑えているのでしょう。」
「なるほどね・・・これを殿下領でも出来るかしら?」
「エリカ様の説明次第でしょう。
殿下方は了承しても実行部隊が納得するとは思いません。
そこを説き伏せないといけませんからね。」
「んん~・・・兵士出身でない私が言っても説得力がないよなぁ・・・」
エリカが悩むのだった。
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