第1558話 ジーナとスミスの訓練。4(ジーナが1つ上に登る。)
「くっ・・・これほどとは・・・」
ジーナの相手をしている女性隊員が眉間に皺をよせ剣を構えながら呟く。
「・・・」
一方のジーナは左足を前にし、剣を握る両手を顔の右に持っていく。
タイ捨流の独特の構えをする。
対する女性隊員も剣を上段に構え、若干右に剣先を傾けた状態で間合いの取り合いを始める。
ジリジリ・・・
両者が近づいてくる。
「はっ!」
ジーナが右足を踏み出しながら思いっきり振り始める。
「せっ!」
女性隊員もほぼ同時に振り始めるが、ここで女性隊員の第六勘が疼く。
ジーナ殿は魔眼を使っている・・・同じタイミングで通じるのか?
それに振り始める距離が遠い?
そう思った瞬間目の前を木剣が通過していく、こちらはまだ振っている最中・・・まだ3割程度だ。
そして驚く事にジーナの左肩を狙っていた剣の軌道に対して、ジーナが右肩を入れ始めている、「当てる目標を変えなくては」と思った、次の瞬間。
「ぐっ!?」
右肩に信じられないような衝撃を受け飛ばされるのだった。
「あ~・・・振り下ろしてから即座に燕飛の前段階を当てたんだね。
良く相手の剣の前を通れますね。」
「魔眼で普通の兵士よりも速く動ける利点という事だろう。
それにしても燕飛の逆をするとは、ジーナも良く考えての行動といえ、判断は悪くないな。
集中力も良くあそこまで高められたものだ。」
スミスがジーナの動きを見ながら呟き、肩に乗るマリも満足したように頷く。
「はぁはぁはぁ・・・」
ジーナが左足を前に出し、突きの状態のまま魔眼を解いて少し放心している。
「お・・・お見事・・・でした。」
女性隊員が右肩を押さえ蹲りながら言ってくる。
「・・・・はぁはぁはぁ・・・燕飛の突きが決まらなければ私が切られていました・・・はぁはぁはぁ・・・」
「その紙一重の勝負に勝ったのがジーナ様です。
良し!・・・違和感はないですね。」
女性隊員が右肩を回しながら立ち上がる。
「それにしても剣の軌道上を横切るだけでなく、私の持ち手の外側から右肩に攻撃して来るとは・・・いやはや・・・考えもしませんでした。」
「上手く行ったのですよね?」
ジーナもやっと木剣を下げて地面を見ながら相手の女性隊員に聞く。
「ええ、反省会は必要でしょうが、勝負に対しては上手く行ったと言えます。
さ、片づけをして帰りましょう。」
女性隊員がジーナに背を見せて仲間が居る方に歩いていく。
「ありがとうございました。」
ジーナが女性隊員に対して礼をするのだった。
「『私は剣に生きる女、誰にも負けない』とか言ってたくせに。」
「慢心!慢心!」
「完璧な負けだったな!」
「うわぁぁぁ!うるさぁい!!」
女性隊員が出迎えた他の隊員に弄られている。
「ジーナ、お疲れ様。」
「ジーナ、どうであった?」
スミスが労い、マリが感想を聞いてくる。
「スミス様、ありがとうございます。
マリ・・・不思議な感覚です。
最初はお互いが一刀両断する為のタイミングの取り合いかと考えていたんですが、振り始めのちょっと前から急に視界が狭まった感じで音も聞こえませんでした。
それで剣を振り始めたら相手の剣も動き出して・・・とてもゆっくりな感じで、『これなら突きの方が良いのでは』と思って出来うる限りの最速で剣を振って突きを出したのです。
突きの直前に相手の剣がここら辺に来ていましたが・・・怖くなかったです。」
ジーナが右手を上げて剣があった位置を教える。
「ふむ・・・集中力が過度に高まった際の意識的な視野狭窄と行った所だろう。
ジーナ、1対1での戦いではそれは良い結果に繋がる事があるが、多対1の状態では周りの状態を常に認識しないといけないから使わない方が良いな。」
マリが言ってくる。
「視野狭窄?・・・今日が初めてなのですけど。
つまりはどんな状態なのですか?」
「相手の挙動に意識を集中しすぎた結果、相手しか見えないという状態だな。」
「・・・あぁ、なるほど。」
ジーナが頷く。
「競技会とかなら良いのだがな・・・ジーナが求められているのはスミスの警護。
多対1の状態になる事が多いだろう。
常に周りを気にしながら背後の者を守らなくてはならない。
注意を散漫にしろと言う訳ではないが、1人をじっくり見るという事はしない方が良いな。」
「それはそれで難しそうですね。」
ジーナが答える。
「難しいな。
だが、さっきの集中力は見事だった。
1対1で周りから何もされない状況では使って良いだろう。」
「たとえば・・・ご主人様との対戦の時ですか?」
「タケオにか?・・・ジーナ、その集中力をタケオとの戦いのどこに使うんだ?」
「・・・ん~・・・んん~・・・こちらから攻撃するという時点であまり意味がないかもしれません。
ご主人様はいつもこちらの攻撃を受け止めてしまいますから。」
ジーナが腕を組み考えるが良い結果には繋がらないようだ。
「タケオ攻略には集中力とは別の何かが必要という事だ。」
「マリなら勝てますか?」
「ええ、タケオには勝てますね。
当然魔法はなしで剣のみでですよ。」
「ん~・・・ご主人様を破る方法はなんでしょうか・・・」
ジーナが再び考えるのだった。
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