第1551話 工程は流動的です。(エリカの探索。)
「タケオの方の用件は以上じゃの。
こちらの用件としてはこれじゃ。」
エルヴィス爺さんが武雄の前に書類を置く。
「失礼します・・・」
武雄が懐からメガネを出し、かけて内容を確認する。
「・・・街道整備依頼書。」
「正式な王都からの依頼じゃ。」
「金額が妥当かについてはわかりませんが・・・王都側までとウィリアム殿下領までですか。」
「うむ・・・前から計画案の骨子は来ていたのじゃがな・・・
正式に来てしまったの。」
「具体的な納期はぼかされていますね。」
「そこまで急いでいないという事なのじゃろうが・・・着手自体は早くしておいて損はないの。
じゃが・・・」
「タケオ様、人工湖の完成が延びる可能性がございます・・・街道整備を進めてよろしいでしょうか?」
エルヴィス爺さんはなんとも言えない顔をしながらフレデリックは改まった顔をして言ってくる。
「人工湖はエルヴィス家の事業ですからね・・・王都の指示を優先的に処理するほかないでしょう。
それに王都とウィリアム殿下領を比べれば優先はウィリアム殿下領までの街道整備となるはずですが・・・南町の準備の中にある川の近くに村の新設もする予定だったと思います。」
「うむ、その辺の概要は見たかの?」
「王都から帰って来たら書斎の執務机に書類が積まれていたので流し読み程度ですが見ています。
王都や領内の出張中に報告書を回されても見られませんよ。」
「うむ、じゃが、回しておかないと見られないじゃろ?
緊急を要する物はタケオに回してはいないからの、書斎にあるのは内容に不備がないか確認して欲しい物かタケオに報告か意見を求めている物のみじゃからの。」
「それならば良いのですが・・・気が向いたら見ます。」
「気が向かなくても見て確認して欲しい物じゃの。」
「その言葉を主にも言いたい所ですね。」
「・・・」
フレデリックの小言にエルヴィス爺さんが明後日の方向を見る。
「さて、であるなら街道整備を主軸にして人工湖の造成工事は工期の見直しを実施します。」
「すみませんがよろしくお願いします。」
「いえいえ、どちらもエルヴィス家の事業ですから問題はありません。
ですが、同時工事はなかなかに厳しいですので上手く進められるように話し合ってきます。」
フレデリックの言葉に武雄とエルヴィス爺さんが頷くのだった。
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一方、その頃のアリスとエリカ、カサンドラはというとエルヴィス家の総監部の資料保管室に来ていた。
「あれ~?・・・エリカさん、指定した棚に目当ての資料がないですよ?」
「おかしいですね。
リストではそこの棚にあるはずなんですけど。」
「エリカ様、アリス殿・・・あっちの棚では?」
「「んん~??」」
3人共古い資料を探すのを自分達でもしていた。
「・・・あ、あった。
エリカさん、ありましたよ。」
「アリス殿、すみませんね。
えーっと・・・早期作付けに関する検討結果についてっと、これですね。」
「この辺はテンプル伯爵の所と違って気候が少し涼しいので早期作付けなんて出来ないと思うんですけどね。」
アリスが腕を組んで考えながら言う。
「だからこそ考察したんじゃないですか?
春先の野菜を一足早く作れれば1年に2回は収穫出来るかもしれないですし。」
「ん~・・・そこはわかるんですけど、私も農業に明るいわけではないですが、実施していないという事は何かしら無理があったという事ですかね?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないですよ。
年に2回、品種によっては3回作付するのはどの地域でも検討する事です。
アリス殿が知らないだけで実施している作物もあるかも知れません。」
「なるほど、確かに全てが実施していなくても特定の品種はしている可能性はありますね。」
「元々していたのか、この時に実施し始めたのか。
これから読み解くのです。」
エリカが報告書を持ち上げながら言う。
「エリカさんは勉強熱心ですね。」
「勉強なんてしているつもりはありませんけどね、昔は言われたことをそのまま覚えているだけでしたから面白くはなかったんですけど・・・最近は楽しいですね。
それにタケオさんを見ていると自分である程度調べておいて、他の人と違った知識を持っていないといけないと思わされますよ。」
エリカが他の本を探してさっき見つけた本と一緒に積み上げていく。
「まぁ・・・タケオ様は特殊ですし。」
アリスが苦笑する。
「特殊だからこそ皆が注目しているんですよ。
第3皇子一家の所に居てわかったのは、タケオさんを真似て若い文官が発想をすると下準備も知識もなく理想論のみをかざしがちなんです。
タケオさんの発想は今までも出来そうでしてこなかった物ばかりなんです。
これはしっかりとした知識があって出来る事です。
私は発想力を持ち合わせてはいないので・・・ふぅ、あと2冊か・・・こうやって昔の諸先輩方の力を借りるしかないんですけど・・・ね。」
「それも王都で出くわさないような・・・ですか?」
「ええ、王都の諸先輩方の政策提言なんて若手も見ていますからね。
アリス殿とタケオさんに出会えてよかった。」
「エリカさんが満足しているならいくらでも使って良いんですけど・・・
他の貴族だとなかなか見せてくれないかもしれないですね。」
「それは致し方ないですよ。
見られる範囲で見てきます。
それに私に見せれば特典があるようにすればもっと良い関係が築けますかね?」
「エリカさん、私達に何か特典はありますか?」
「現在検討中です。
今しばらくお待ちください。」
エリカが苦笑しながら言う。
「ふむ・・・何が付いてくるのでしょうかね?
それも楽しみです。」
アリスも苦笑しながら言うのだった。
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