第1527話 研究所開所日。4(はぁ・・・終わった。)
研究所の1階 試験小隊詰め所。
「3人でなにしてるんでしょうか?」
パメラがお茶を飲みながらブルックに聞く。
「さてね・・・所長達が何か話しているんでしょうね。
それとケードは今日は夕方前には終わりで良いから。」
「え?良いのですか?」
ケイが不思議そうな顔をさせて聞き返す。
「うん、良いわよ。
着任して正式に研究所の職員なんだし、親御さんに挨拶をしてきなさい。」
「あ・・・ありがとうございます!」
ケイが嬉しそうに頷く。
「いきなり現れて研究所の試験小隊かぁ・・・
親御さんには手紙は出したの?」
「はい!卒業前に一度、この街に戻ってからは帰省も手紙もしていません。」
「・・・あ~音信不通だったかぁ・・・これ怒られるかな?
ま・・・その時は謝りに行くしかないか。」
ブルックが苦笑しながら首を傾げる。
「大丈夫です。
母も試験小隊に入った事を喜んでいました!
王立なんでなかなか家に帰れないのはわかってくれると思います。」
「基礎訓練中だしなぁ~・・・私用外出はまだ先にしたいんだよなぁ・・・
同じ街に居て手紙ぐらいしか出来ないのも辛いかなぁ?
まぁ、ケード、とりあえず当分は会いに行けないから今日ぐらいはじっくりと話してきなさい。
ただし、外泊は禁止ね。
まだ早いわ。」
「わかりました。」
ケイが頷くのだった。
「「「戻りました。」」」
鈴音とアニータ、ミルコが部屋に入ってくる。
「おかえり~。
何していたの?」
アニータとミルコが自分の机に戻るとブルックが聞いてくる。
「私達にも辞令書が出ていたので貰ってきました。」
アニータが言ってくる、
「そう、じゃあ正式に配属になったのね?」
「はい。」
「なら、今以上に訓練出来るわね。」
ブルックが良い笑顔で2人に言う。
「「はぁぁぁぁぁ・・・」」
アニータとミルコが目に見える形で落ち込む。
鈴音はアニータとミルコとは違いアンダーセンとトレーシーの下にやってくる。
「トレーシーさん、アンダーセンさん、武雄さんが呼んでいます。
所長室で幹部打ち合わせだそうです。」
「うん。」
「わかった。
3階に行けば良いんだな。」
トレーシーとアンダーセンが立ち上がりさっさと退出していく。
「で、スズネ殿、何を貰ってきたんですか?」
ベイノンが聞いてくる。
「私達3人はキタミザト家での採用で研究所には出向している体の辞令書を貰ってきました。」
鈴音が答える。
「あぁ、なるほどね。」
「まぁそういう方法を取るのが一番でしょう。」
「今はなくても将来あり得ますからね。」
試験小隊の面々が頷く。
「これだけでわかるんですか?」
鈴音が首を傾げる。
「ええ、普通ならしないでしょうが・・・極端に言えばただの研究所職員だと王都の人事局が所長を介さないでスズネ殿に直接『辞令』を出す事も考えられますからね。
スズネ殿は辞令通り王都に行き、後は所長とは面会謝絶という事もあり得ます。」
「??・・・武雄さんを介さない?
そんな事出来るのですか?」
増々鈴音が首を傾げる。
「出来る出来ないでいえば出来ますよ、直接送れば良いんですから、その時に所長は違う用事で他の地域に居たりとかすればすんなりと手渡されるでしょう。」
「内容も『キタミザト殿には了承を得ている』とか言って『至急に王都で研究して欲しい案件があるので受け取り次第出立して欲しい』とか言えば何とかなりそうですよね。」
皆が口々に言う。
「??・・・武雄さんがそれを許すのですか?」
「「「許しませんね。」」」
皆が言う。
「ですよね。
それに私もテトちゃんが居ますから王都に軟禁は出来ないと思うのですよね。」
鈴音が考えながら言う。
「・・・それ以上にキタミザト家の人員に何かあれば所長とアリス殿、ジーナ殿にビエラ殿とクゥ殿、他狼やら鷲・・・一気に王都に攻め入ってくるでしょう。
一夜にして王都壊滅の憂き目でしょうね。」
「それにそういう悪巧みが発覚したならキタミザト家に相当の罪状がない限り、現在の王家はキタミザト家側に付くので王都守備隊もキタミザト家側、警備局も同様ですし、もしかしたら第1騎士団もキタミザト家側に付くでしょう。
下手な悪巧みはリスクが多すぎますね。
これは幹部はわかっているはずです。」
皆が言う。
「つまり?」
「上位の文官達は絶対にキタミザト家には手を出しませんが、その辺の事情がわからない下っ端の文官が戦力が集中するキタミザト家に何か仕掛けてくる可能性は否定できないという訳で今回の処置となったのでしょう。」
「我々王都での採用組は人事局経由での異動ですから局長印がある辞令を送られてしまうと私達は異動しなくてはならないのです。
対して現地採用組の人事権はあくまでキタミザト家が握っているとすれば王都から余計な引き抜きはないとしたんです。」
「ふ~ん・・・ちなみに皆さんに正式異動辞令が来たらどうしますか?」
「所長に相談ですね。」
「ですね。」
「そうそう、まずは相談。」
「それで拒否するとなったら?」
皆の言葉に鈴音が疑問を重ねる。
「人事局の辞令に対しての拒否とは辞める事なので、その場で退職でしょうね。
所長に依願退職届を出して終了、で、所長に再雇用して貰えれば良いでしょうね。」
「そうそう。」
「それが一番楽だね。
その手段が使えるように私達自身が研究所に取って有益だという事を見せないといけないんですけどね。」
「まぁ何とかするしかないよな。」
皆がお気楽に話している。
「皆さんお気楽なんですね。」
鈴音が言う。
「いや、ここに来ている時点で兵士として第一線での活躍を夢見ていませんよ。
兵士としてよりも試験や考察等の仕事を熟しながら日勤の仕事をするという割と落ち着いた仕事をしようと思ってきたのです。」
「だが、初っ端から領境までの旅だったけどな。」
「全くだ、もっと書類仕事をするのかと思いきや体鍛えているし。」
「でも夜勤がなくなったのは体が楽になったな。」
「それ言えてる。
ほとんど同じ時間に帰れるなんて初めてかもしれないな。」
「夕方まで仕事して帰って、夕食食べて、寝るまで本を読む生活・・・なんか凄く生活が潤っているんだ。
王都に居た時より健康になった気がする。」
「「「わかる。」」」
ベテラン組が話しているのを鈴音は見ながら「どんだけ不規則な生活だったのだろう?」と思うのだった。
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