第1524話 170日目 研究所開所日。1(初出勤だ。)
エルヴィス伯爵邸の玄関フロア。
「・・・」
武雄が制服にトレンチコートを着て制帽を被り姿見を見ながら身支度を整えている。
ちなみに武雄の装備はトレンチコートの下の左腰に小太刀、右腰に拳銃になっている。
「・・・その制服にも見慣れていくのでしょうね。」
アリスが見送りに来ていた。
「今日が初日ですしね。
アリス、変な所はありませんか?」
「大丈夫ですよ。
今日は何時頃お戻りになり・・・ふふっ。」
アリスはそこで言葉を切って少し笑いながら首を傾げている。
「どうしましたか?」
「いや・・・凄く夫婦らしい会話をしているなぁっと思いまして。」
「?・・・そうですか?
まぁ正確な勤務時間はこれから考えますけど、大体鐘と合わせれば良いかなと思います。
晩課の鐘辺り・・・時計でいうと18時に終わりの予定です。」
「はい、わかりました。
夕食はどうしますか?」
「飲む気はありませんが、もしかしたらマイヤーさんと軽く行くかもしれません。
夕食はなしで結構ですよ。
空腹で帰ってきたら適当に自分で作ります。」
「はい、料理長達には伝えておきます。
・・・このやりとりを毎日ですかね?
毎日勤めに行く旦那様をお見送りするのは不思議な感じです。」
「エルヴィスさんではこういった他の場所に毎日は通いませんものね。
その内、不思議と思わなくなりますよ。」
「そういうものですかね?」
「だと思います。
では、初雪いきましょうか。」
「はい、アリス、行ってきます。」
「はい、タケオ様、初雪ちゃん、いってらっしゃい。」
アリスが見送るのだった。
「・・・ん~・・・旦那様を見送るのは不思議な感覚ですね。
お爺さまが庁舎に行くのとはまた違った感じです。」
アリスが首を傾げている。
「アリス、タケオとハツユキが研究所に行ったの?」
夕霧が後ろから声をかけてくる。
「ええ、今行きました。
私は留守番ですよ。
夕霧ちゃんは何をするの?」
「ん、伯爵の執務室で伯爵の監視に居るメイドに文章を教わります。」
「お爺さま、まだ監視されているのね。
エリカさんは何をするのかな?」
「エリカは今、客間で本を読んでいます。」
「そっかぁ、ならエリカさんに予定を聞きますかね。」
「アリス、私は伯爵の執務室に行きます。
何かあれば客間のアサギリに言ってください。」
「わかりました。
夕霧ちゃん、お爺さまをお願いします。」
「ん、任せて、監視は完璧です。」
アリスと夕霧が玄関で分かれるのだった。
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武雄と初雪、マイヤーが研究所を目指して歩いていた。
「マイヤーさんも同じ時間とは。」
「ヴィクター殿が8時30分に開けると言いましたからね。
とりあえず、15分前には部屋に居ようかと思いまして。」
「同じことを考えましたね。
勤務時間はヴィクター達と私達と研究室が9時から18時勤務で良いですよね。
試験小隊はどうしようか迷うのですが。」
「はい、よろしいでしょう。
試験小隊は朝練もありますから8時から18時の勤務にしてください。
その代わり昼の休憩を多くして頂ければと思います。」
「なるほど、ならそうしますか。
皆がしたいようにすれば良いですしね。
午前中は訓練、午後は考察や調べものでしょうか?」
「試験小隊は盾の試験がありますからね。
既存の盾の検証は早いうちにした方が良いでしょうから当分は所長が言ったような区分けですかね?
あとでアンダーセンに言い皆で考えさせます。」
「そうですね。
皆で考えながら固めていきましょう。」
武雄とマイヤーが歩きながら話していると。
「あ、武雄さん、マイヤーさん、おはようございます。」
鈴音が後ろからやってくる。
「「おはよう。」」
2人が挨拶する。
「いや~・・・寝坊しなくて良かったです。」
鈴音がホッとしながら言う。
「目覚まし時計ないですからね。」
「そうなんですよ。
鍛冶屋工房は誰かしら起してくれるので寝坊とかはないんですけど・・・私朝微妙で。」
「マイヤーさんは?」
武雄が聞く。
「これからはわかりませんが、今までは寝坊はありませんね。
といっても今までは陛下の護衛ですからね。
朝交代、夕方交代、深夜警護等々不規則な生活でしたね。
むしろこれから毎日同じ時間に起きるというのが出来るのか・・・まぁ出来ると思いますけど、慣れたら寝坊するかもしれません。」
マイヤーが言ってくる。
「懐中時計が一段落したら目覚ましか壁掛け時計の製作させますかね。」
「壁掛け時計は何とかなると思いますよ。
でも目覚ましは・・・ちょっと難しいかもしれないです。」
鈴音が軽く考えながら言う。
「どういうことですか?」
「まぁ元々懐中時計が売れなかったから開発はしなかったんですけど、企画案で目覚まし時計は皆に親方に見せたんです。
却下されましたけど。」
「目覚ましの機構として任意の位置にスイッチを作っておいて、短針が重なるとベルが鳴る・・・これですよね?」
「そうです、私もそれを企画書に書きましたが・・・」
「が?」
武雄が続きを催促する。
「動力の問題ですね。
魔力を溜めることを可能にした新素材を使ったんですけど・・・懐中時計の歯車を回せはするのですけど、同時にベルを鳴らせるくらいの動力ではないんです。」
「・・・ふむ・・・
その動力を4つくらい入れても?」
「んん~・・・それは動くのでしょうか・・・
親方達にもう一度企画案出してみようと思います。」
「ええ、寝坊する前に実現して欲しい物ですね。」
「本気で企画案書きます!」
鈴音が「至急作らなきゃ!」と思い立つのだった。
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