第1492話 エルヴィス伯爵邸に戻ってみると。2(教育と新人。)
玄米作りが終わるとコノハと料理人達が厨房に直行していった。
武雄とメイド達は今まで行われていた作業の片づけをしている。
「キタミザト様、こちらの木臼は如何いたしましょう。」
「明日、ベルテ一家とステノ技研の人員が来て、料理人達が作業を実演しますので、すぐ出せるように布に包んでどこかに置いてくれますか?」
「はい、畏まりました。
そこまで運びますよ。
まずは縛ってしまいましょう。」
「「わかりました。」」
メイド3名で木臼を布で包み、木材を通して担ぎ、軒下に持っていく。
その様子を武雄は見守りながら「動きが早いな」と感心している。
「タケオ、掃除に来た。」
「頼まれたっス!」
「綺麗にする。」
夕霧達が他のメイドに連れられてやってくる。
「すみませんね。
散らかしたので掃除をお願いします。」
「ん、シグレ、ハツユキ。」
「「はい。」」
3人は緑スライムを30体程生み出し、散らばった籾や米の残骸を吸収していく。
「キタミザト様、夕霧様方がいらっしゃって良かったです。
この広さの清掃は時間がかかりまして。」
メイドが武雄に話しかけてくる。
「こういった外の掃除はあの子達の独壇場でしょう。
芝も綺麗に揃えますしね。」
「ええ、本当に。
その分私達も室内の清掃を丁寧にさせて頂いております。
それと伯爵様から言われているかもしれませんが、夕霧様が最近ご本に興味がおありでして。」
「初雪と時雨も図鑑を見ていましたね。」
「はい、夕霧様も図鑑を中心に見られております。
内容は如何しますか?」
メイドが心配そうな顔をさせる。
「口当たりの良い事ばかり教えてしまうと人間の良い面ばかりを見て知らない人にも着いていきそうです。
人は残虐性も支配欲も持ち合わせている事を教えないといけません。」
「・・・はい、ですが、人を嫌いになったりはしないでしょうか?」
「それはそれ。
そもそも人間同士、恋人達でさえ仲たがいをするのですよ?
それが種族となれば・・・ね。」
「・・・種族間は相当難しいという事ですね。」
「私の方からは夕霧達には物事には良い面も悪い面もある事は言っています。
夕霧達も知識を蓄えるのが今は重要だと言っていましたよ。」
「そうですか。」
「夕霧達からすれば人間種も魔物も大して変わりないのだそうですけどね。
『愚かであり浅はかで残酷であり考えなし、一方で他者思いであり共感力があり努力家であり楽天家でもある、人間は複雑、一方の感情では動かない。いろいろな感情がある。だからいろいろ見ないといけない』と言っていました。」
「夕霧様方は優秀なのですね。
私達はどういたしましょう?」
「聞かれたら私達が知りうる情報を提供するしかありません。
そして物事には常に主観的な見方と客観的な見方、そして客観的な見方は何通りもあるという事を説明すると同時に私達も常にあらゆる見方がある事を認識し、考えておかないといけないという事ですね。」
「そうですね。
・・・教えるという事はいろんな考えを持ってないと出来ませんからね。」
メイドが頷く。
「教わる側よりも教える側の方が大変というのは良く聞く話です。」
「はい、知識面から実技までいろいろ知っていないと教育係は出来ません。
あ、そういえばお子様方ですが。」
「そういえば戻って来た時に見かけませんでしたね。
お出かけしているのですか?」
「はい、先ほどまで各自の部屋の掃除をさせていましたが、今は皆で服や小物を買いに行っています。
また表通りと裏通りの主だった店にも寄るとの事でした。」
「私が午前中にうちの協力者達と話合いをしてきましたので入れ違いでしたね。
まぁ、あの子達なら雑貨屋が一番時間がかかりそうですけども。
あ・・・かかった費用はヴィクターの方に回してください。
キタミザト家の方で処理します。」
「畏まりました。
総監部にて、まとめ次第伝票を回します。」
「お願いします。
あ、帰って来た時に他の方々が調度品を入れ替えていましたが、何かあるのですか?」
「あれは子供達が壊しても良いように安い物に替えています。
ご来賓の予定もございませんので当家にとって価値ある物は当分は倉庫で寝て貰う事になりました。」
「すみません、よろしくお願いします。」
武雄が頭を下げる。
「はい、ジーナの時は安心して見守っていたのですが、流石に今回はありそうなので。
元気ですよね、子供って。」
「本当によろしくお願いします。」
武雄が深々と頭を下げる。
「皆もそのつもりで準備をしています。
失敗した際にキタミザト様の前で怒らないといけない場面や子供達の前でキタミザト様に対して苦言を呈する事もあるかと思います。
これはご了承頂かないといけないのですが。」
「それは致し方ありません。
部下の失敗は上司に言うのは当たり前です。
しっかりと説教に付き合います。
ですが、私も心があまり強くなくてですね。
ある程度手心を頂ければ・・・」
「メイド長には伝えておきます。
それとその際は事前にキタミザト様やアリス様、伯爵様にはお知らせを行かせる事になっています。
心構えはよろしくお願いします。」
「あの子達大丈夫だろうか・・・」
武雄はメイド達の用意している説教システムに子供達を心配するのだった。
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