第1488話 運送屋の密会。6(大物を切り崩せ。)
4人目の取り調べを開始。
あの中で一番上と思しき男(老人)をまず椅子に座らせる。
「・・・来ましたか・・・貴方がデムーロ国のオリーヴさんですね?
まぁこれは偽名との事ですけど、偽名でも呼び名がわかるのはありがたいですしこれで呼ばせて頂きます。」
中隊長が話を始める。
「!?」
座らされた老人が驚いていた。
さっき目の前の男から問いかけられていた時には何もこちらの情報は渡さなかったのに今回は最初から名前で呼ばれたのだ。
「さて、オリーヴさんの尋問を始める前に、この取り調べ室に来た者には最初に言わないといけない事があるんですよ。
それは私らが知らない情報を話したら放免にしてあげますよという事です。
もちろん私の上司には処理したという報告をする事になりますが。」
「ほ・・・放免・・・ならこの前に入った者達は!?」
「ええ、今頃ご自身の屋敷に向け移動されているのでは?
まぁ私は知りませんけど。
さっきまで居た指揮官方は今は周囲の見回りの視察に行っているのでこういった有益な情報なら放免するというのは約束事も私の現場判断みたいなもので出来るのです。
今後の昇進の為に有益な情報が欲しいわけで・・・なので我々が知っている事だった場合や嘘を言っていると判断した場合、暴れた場合や指揮官方が戻って来てしまった場合は・・・詰所に一緒に行って貰って他の者の取り調べを受けてください。
私は貴方を擁護する気もありませんし、どうなろうと気にもしません。」
「・・・知らない事か・・・」
「ええ、先の3名は」
「んんっ!」
他の兵士が咳ばらいをして中隊長を止める。
「おっと・・・ま、それなりにお話をさせて頂きました。
あとは何人出来る時間が取れるのか・・・指揮官方が戻って来たら撤収でしょうけどね。」
「・・・ちなみになんだが・・・何で今回我らは捕まったのだ?」
「え?貴方達入出国の偽装しましたよね?
さっきまで一緒に会話されていた護衛を3名連れた人も出国時に違反しましてね。
明日取り締まろうとして尾行していたらここに来たんです。
なので、あの方よりも貴方達に聞いた方が私の成果が大きいだろうと判断して・・・そしたら貴方達は逃げようとするし、報告したら指揮官が現場視察に来るんだものなぁ・・・
まぁこれは愚痴ですよ。」
中隊長がやれやれと手を挙げる。
「ん?」
オリーヴと呼ばれた老人が思っていたのとは違う回答が来て、心の中でほくそ笑む、「こいつらは奴隷の事を知らないな?」と。
「有益な情報か・・・どんなのが欲しい?」
「私の為になる事ならなんでも。
ですが、前の方が話した事は今言われても意味がありませんからね。
その際はすぐに終了して他の人に聞こうと思います。」
中隊長は興味なさげに言う。
対してオリーヴは考える。
取り調べを受けた前者達の顔触れや知りうる内容を。
だが、この者達の話ぶりからして我らが奴隷の輸送をしていたというのは言っていないと判断が出来る。
ならば、今回のを機に同業他社を巻き込めるのではないかと。
「そうだな・・・我らとは違う方面で運送業をしている者が扱った荷物リストを入手しているが?
これならどうだ?」
「は?運送業の荷物リストなんて意味あるのですか?」
中隊長が馬鹿にした面持ちで答える。
「いやいや、そう邪険にする事はない。
このリストを出す所に出せばお主の成果としても十分じゃないか?
中身は良くは知らないが、違法性な物があるかもしれないしな。」
「・・・確かに。
専門外ですがご禁制の類が密輸されていて、情報を手に入れたとなれば成果としては十分・・・ですかね。」
「そうだ。
あ、だがこれには私の住み家も書かれていてな。
そこはペンか何かを借りて塗りつぶしたいんだが?」
「オリーヴさんもご禁制を?それは見過ごせないんですが?」
「いやいやいや、そうじゃない、私らは真っ当な物しか輸送はしていない。
だが、リストを渡して役人が店に訪問されでもしたら周囲に要らぬ噂も立とうそれが面倒だ。
まぁ入出国については確かに関を通らない事もあったのは認めよう。
その分の罰則は罰金刑にして欲しい物だがな?」
「・・・まぁ良いでしょう。
次、関を通らなかったら罰金刑をします。
おい、誰かオリーヴさんにペンを貸してやれ。」
「では、私が。」
タローマティが立ち上がり懐から持ち運び用のペンとインクを取り出し、オリーヴに渡す。
「すまないな、嬢ちゃん。」
「いえいえ。
あ、私は後ろで違う方を向いています。」
そう言ってタローマティが後ろに下がる。
「配慮すまん。」
そう言ってオリーヴが懐から書類を出してペンで塗り潰し始めるのだった。
・・
・
「これでどうだ?」
ペンとインクをタローマティに戻したオリーヴが中隊長にリストを渡す。
「これは・・・・奴隷の種族と名前?・・・エルフ・・・これはマズいな。」
中隊長が難しい顔をさせてリストを見ている。
「・・・どうかな?これで放免かな?」
「・・・まぁ良いでしょう・・・このリストは有効に活用させて貰いましょう。
約束は約束です。
ちなみにオリーヴさんは奴隷の輸送をされていないのですね?」
「私は真っ当な運送業者ですよ?
基本的にはしませんよ、基本的には。
ですが、お得意様に金を積まれれば心がグラつくのは当然でしょう?」
「そうですか。
おい、お帰りだ。」
「では、失礼する。」
オリーヴが席を立ちその場を後にするのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




