第13話 エルヴィス家家族会議。と姉弟の逃走。
「失礼します。」
と一人の女性と男の子が客間に入ってくる。
一人はアリスお嬢様。もう一人は・・・だれ??
武雄の頭上には「?」マークが出ていた。
「いきなり呼び出してすまんの。
タケオ、孫のアリスとスミスじゃ。
アリス、スミス、この者はタケオという。
わしを救ってくれたのじゃ。」
「改めまして、私はアリス・ヘンリー・エルヴィスと申します。
タケオ様、この度は祖父を救って頂きありがとうございます。」
「はじめまして。僕はスミス・ヘンリー・エルヴィスと申します。
タケオ様、この度は祖父を救って頂きありがとうございます。」
「アリスお嬢様は、改めまして。お坊ちゃんは、初めまして。
私は北見里 武雄と申します。
特に何かをしたわけでもないのですが、エルヴィスさんから同伴をと誘われましたので参りました。」
「うむ、挨拶も済んだの。
では、座って歓談しようかの。」
皆が座ると、フレデリックがお茶を持ってくる。
「で・・・だ。何から話すかの?
・・・ん?スミス。何か言いたい事がありそうじゃの?」
「・・・はい。と言いますか・・・
何故、お爺さまを『さん』付けで呼んでいるのですか?
あと、お爺さまを救ってくれたことには感謝しますが、明らかに怪しいです。
魔王国や他の国のスパイや暗殺者とは考えないのですか?」
「『さん』付けについてはわしが許可したのじゃ。
スパイや暗殺者だが、その可能性は低いじゃろ。わし的には『ない』な。
アリスはどう思うかの?」
「現状ではかなり低いですが、スパイという可能性は排除できないでしょう。
けど、どちらかと言えば『ない』ですね。」
「うむ。」
「何故そう言いきれるのですか!
訳も聞かず納得はできません!」
スミスは声を大きくして問いただす。
「・・・タケオはどう思うのじゃ?」
え?・・・説明してあげないの?
ってか、疑われている本人が自分を擁護するってどうなんでしょう?
「はぁ・・・自分で自分を擁護するって悲しいと思いませんか?」
「面白いじゃろ?」
エルヴィス爺さんは楽しそうだ。
ええ、そりゃ・・・確かに他人事なら私も楽しむけどさ!
「・・・では。えーっと・・・スミス坊っちゃんと呼んで良いですか?」
「・・・構いません。」
あぁ睨まれているよ。
「暗殺者やエルヴィス家を操るという可能性は、ここにエルヴィスさんがいる時点でほぼ『ない』のです。」
「?・・・どういう事でしょうか?」
「第一に、会った時点で殺していません。この点で暗殺者の線はほぼなくなりました。
・・・エルヴィス家を操ると言う場合、犯人に必要な物は何だと思いますか?」
「お爺さまの身柄です。」
「違います。生きていると思わせる為の物証だけです。
エルヴィスさんの生死は関係ありません。
むしろ、生かしていると犯人の行動が縛られるので殺そうと考えます。」
「・・・」
「スパイについては、申し訳ないですがエルヴィス家の実情を把握していないと言える事はありませんね。」
「うむ。わしは、うちをスパイする価値は隣地よりかなり低いと考えておる。
よってタケオは可能性はあるが、ほぼ『ない』になると言う訳じゃ。」
スミス坊っちゃんは顔を赤らめて下を向いている。
「・・・タケオ様。不躾な質問、疑いをして申し訳ありませんでした!」
と告げ、客間を出ていってしまった。
あ~ぁ・・・少年を傷つけてしまった・・・
今、自分は渋い顔をしているのだろう。
「弟が大変失礼な態度をとり、申し訳ありません。」
とアリスは謝る。
「いえいえ。そんなに失礼な事をされたと思ってはおりませんよ。」
と武雄も返事をする。
エルヴィス爺さんはフレデリックに話す。
「フレデリック。すまんが。」
「はい、畏まりました。」
と部屋を出ようとした時、武雄が話しかけた。
「あの、スミス坊っちゃんに伝言を良いですか?」
「伺いましょう。」
「スミス坊っちゃんが考えた事、言った事は皆、当たり前に思考する事です。
ただ、今回の様な事で疑問に思った事を口に出す時は、自分なりの回答を用意して臨む事が重要です。
これには知識だけでなく経験も必要です。
スミス坊ちゃんは『今日は良い経験をした』と考えれば良いのです。と。」
「それだけですか?」
フレデリックが問う。
「語りだすと朝まで語ってしまいそうですから、今はこれぐらいで。」
「ふふ、わかりました。では、主、アリスお嬢様、一旦退出します。」
とフレデリックが退出していった。
残された3人。
「で、タケオ。」
「なんです?」
「約束の物だが・・・」
「忘れていませんよ。」
武雄はバックから柿●ーを2袋取り出すと、袋を軽く開けて、
1袋ずつエルヴィス爺さんとアリスお嬢様に渡す。
「あの・・・これは?」
とアリスお嬢様は訝しむ。
「お菓子です。馬車を待つ間、エルヴィスさんに1袋あげたら気に入ったらしいのです。
『屋敷に着いたらもう1袋あげます』と約束しましたので。」
ちなみにエルヴィス爺さんは満面の笑みで無言で食べている。
「はぁ、わかりました・・・」
と恐る恐る1つを取って口に運ぶ。
結果、ぱぁっという言葉通りに目を見開き驚く。
1口。また1口。運ぶペースがどんどん速くなる。
あっと言う間に完食。
「タ・・・タケオ様。このお菓子は何でしょう?
とても美味しいのですけれど。どこでお買いに???」
「うむ、そうじゃ。タケオ、どこで買ったのじゃ!?」
「・・・その話は私の身の上に関係するので、その話の後でしましょう。」
と苦笑いをしながら受け答える。
2人とも納得がいかなさそうだが、追及はしてこない。
とエルヴィス爺さんが唐突に。
「ちなみにタケオ、さっきの話で気になっておったのだがの。」
「なんでしょう。」
「スミスがお主を暗殺者かスパイと言って、わしもアリスもお主も『ない』と言ったが、
他に1つか2つほどお主を疑わないといけないことがあるのだが、わかるかの。」
「・・・なんとなくは。でも、私の中では下衆過ぎて項目にも入りませんね。」
「?なんです?他にあるのですか?」
とアリスお嬢様は聞いてくる。
武雄はアリスを一目見てエルヴィス爺さんに言う。
「別に言う必要もないでしょう?」
「ふふ、あえて言うのも面白いじゃろ。」
「言わないとダメですか?」
エルヴィス爺さんは頷く。
「・・・はぁ。エルヴィスさんを助ける事を条件にアリスお嬢様とお付き合い・・・いや結婚する・・・ですかね?」
「はぁ!?」
アリスお嬢様は変な声を出して驚く。
武雄は「やっぱりそうなりますよね~」という反応。
エルヴィス爺さんは頷く。
「え・・・こ・・・え・・・その・・・」
とアリスお嬢様はパニック中。
怒っているのかアリスお嬢様はみるみる顔を赤くしていく。
とその時、終課の鐘が鳴る。
「お爺さま、タケオ様、もうこんな時間ですので話はまた明日にでも。これで失礼します。」
と足早に退出してしまった。
「・・・怒らせてしまった様ですが・・・」
「・・・うむ。今日はお開きじゃな。」
「私はどうすれば?」
「部屋を用意させよう。」
と、扉をノックする音。エルヴィス爺さんが「どうぞ。」と答えるとフレデリックが入室してくる。
「おや、主にタケオ様。お二人ですか。」
「うむ。タケオの身の上話は明日に延期じゃ。
終課の鐘も鳴ったしの。
タケオに部屋を用意してやってくれ。」
「タケオ、今日は泊まっていけ。
明日は朝食前にお主を起こしに誰か行かせるから、皆で朝食を取った後に身の上話じゃの。」
「わかりました。ご配慮感謝します。」
と武雄は礼をする。
「フレデリック、皆に軽く食事を持って行ってくれ。
むろん、わしにもじゃぞ?」
「畏まりました。」
武雄は正直、ありがたかった。
いろいろありすぎた。
部屋でゆっくりしたい物だと考えていた。
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