第1482話 運送屋の密会。4(暇人は食べて待つ。)
ブリアーニ王国の王城の食堂。
「なるほど・・・カールラ、これはほのかな酸味が面白い。」
「米に味を付けようと話になってね。
どうしようかと考えた末にいっその事、トマトスープで炊いてみたのよ。
とりあえずダニエラから合格を貰いましたね。」
「だが、スープもトマトとはな。
嫌がらせか?」
「そうじゃないわよ。
豊作なの豊作。
今、調理場に大量にあってね。」
「ほぉ、そうなのか。
カールラの食事にトマトが連続しているのを私にもお裾分けかと思ってしまった。
変に勘ぐってしまったな。
すまな・・・」
ヴァレーリがブリアーニの顔色がおかしいのに気が付く。
「・・・もう朝夕とトマトが6日連続なの。
他に食べようがないか検討しててね。
その一環・・・」
ブリアーニは顔を伏せながら弱々しく答える。
「・・・そうか。」
と扉がノックされ、ブリアーニが顔を伏せながら許可を出すとブリアーニ王国の兵士長と魔王国の第2軍と第4軍の指揮官と兵士が入ってくる。
「失礼・・・します。」
ブリアーニ王国の兵士長が一瞬言葉を詰まらせる。
入って来て自国の女王が顔を伏せていたらそれは驚くだろう。
「あ~・・・ブリアーニ殿は日々の激務で今は黄昏ている。
そのうち戻るだろうからあまり気にするな。」
ヴァレーリが一応、横から言ってくる。
「「「はっ!」」」
魔王国の3名は返事をする。
「・・・はい。」
ブリアーニ王国の兵士長はぎこちなく頷く。
「それで?
うちの3名が居るが朗報か?」
「はい、報告を。」
第2軍指揮官が兵士に促す。
「現地で指揮を執る中隊長より報告。
対象の運送業者及び護衛をしていた者一同を捕縛しました。」
この報告を聞きブリアーニも顔を上げ真剣に聞きだす。
「ふぅ・・・やったか。
被害は?」
「ありません。
彼の者と同行班含めです。」
「ふむ・・・良くやった。」
ヴァレーリが安堵の表情で呟く。
「はっ!
中隊長より捕縛者の輸送先を指定して欲しいとの事。
また捕縛した者達の会話で『仕入れ業者』と『打ち合わせ』という単語を聞いたとの事でこちらも至急の作戦行動の指示を願うとの事です。」
兵士がしっかりと報告をする。
「ふふ・・・素晴らしいな!
聞き出す前に口を割ったも同然の者が居たか!
よし!我が行こう!」
ヴァレーリが笑顔で席を立つ。
「「陛下!?」」
「なーに、我は魅了の魔眼持ちだ。
ただ威力が強すぎてな。
魅了を使えば普通ならば優秀な部下が出来るはずなんだが、我が使うと相手の自我というか意識というか・・・まぁ壊れるんだ。
質問に正直に答えるしかない、生きる屍の完成だな。
威力が調節出来ないとは全く忌々しい魔眼だな。
だが、今回は聞き出すのに使えそうだな。」
「陛下・・・相も変わらず最強ですね。」
第4軍指揮官が呆れる。
「使い勝手のない魔眼だ。
まったく・・・もっとまともな物が欲しかったな。
ブリアーニ殿、行くか?」
「ええ!当然でしょう!」
ブリアーニも席を立つ。
「陛下方・・・お召し物は変えて頂きませんと許可できませんが?」
第2軍指揮官が言ってくる。
「別に運送業の者だろう?
たかが知れている。」
ヴァレーリが軽く言ってくる。ブリアーニも頷いている。
「それでもです!
魔法やら銀製の矢やらが来たら一大事です!
陛下専用のレザーアーマーを着用ください!
あれならそこら辺のフルプレートより格段に硬いでしょう。」
「持ってきてないぞ?」
ヴァレーリが即答する。
「「なぜに!?」」
第2軍と第4軍の指揮官が驚く。
「ん~・・・ヴァレーリ陛下、普通のなら貸すわよ?」
「そうだな。
普通ので良いか。
ブリアーニ殿、貸してくれ。」
ヴァレーリとブリアーニが気軽にやり取りをしている。
「んんんん~・・・大幅に譲歩して防具を付けてくれるのなら現地に行くのは良いでしょう。
ですが!絶対に護衛の兵士より前には行ってはなりませんよ!」
「平気だって。
心配するな。」
「ダメです!」
第2軍の指揮官が拒否する。
「努力はする。」
「努力の問題ではありません。
前に出てはダメです!」
第2軍の指揮官が拒否する。
「・・・なら我が前に出れるようにさっさと無力化するんだな。
我は待たんぞ。」
「はぁ・・・すまないが先に行って中隊長に無力化を頼んで来てくれ。
周辺の警戒も厳にな。」
第4軍の指揮官が隣の兵士に言う。
「はっ!
陛下、失礼します。」
「おう!気を付けてな!我もすぐ行く。」
兵士が食堂を出て行くのだった。
「兵士長!レザーアーマーの用意を。」
「はい、すぐにいたします。」
兵士長がブリアーニの指示で足早に退出していく。
「・・・お前らも行くか?」
「「当たり前です。」」
ヴァレーリが目の前の指揮官2名に問いかけると、即答で返ってきた。
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会合をしていた広場。
1小隊分の人員が捕縛した者達を監視している。
他の者達は周辺の探索と狩りをしていた。
その中から中隊長が老人を離れた場所に連れて行き、座らせてから話しかけていた。
「ご老体・・・お名前は何ですか?」
「・・・」
「ご出身はどちらで?」
「・・・」
「ここまでどうやって来られました?」
「・・・」
「ご職業はなんでしょうか?」
「・・・」
「ふむ・・・お名前は何ですか?」
「・・・」
「ご出身はどちらで?」
「・・・」
「ここまでどうやって来られました?」
「・・・」
「ご職業は?」
「・・・」
もう9回も同じ質問をしている。
同じ口調で繰り返しただただ淡々と。
異様な尋問、暴力も使わず罵声もない。
繰り返し繰り返し同じ質問のみ。
その質疑だけがこの広場で聞こえるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




