第1477話 仕立て屋での話。3(仕立て屋のその後。)
武雄達はラルフの仕立て屋を後にして次に向かっている。
「~♪」
武雄は上機嫌だ。
「あの~・・・ヴィクター様、キタミザト様のご機嫌がよろしいようですが?」
「そうですね。
交渉が上手く行ったからでしょう。」
アスセナとヴィクターが小声で話をしている。
「行ったのでしょうか?」
「アスセナは失敗したと思いましたか?」
「そうは言いません。
結果はラルフ様の所で引き受けてくれるのですから問題はないように思いますが、キタミザト様は最初、生産工房にさせる気だったのではないですか?
そうする事でキタミザト様の意のままに布の生産が出来る事を望まれたのではないですか?
なので上手く行ったというよりラルフ様の方が上手かったと取れなくもないかと。」
「ふむ・・・アスセナの考えも間違いではないでしょう。
ですが、この場合は少し違った見方が必要ですね。」
「そうなのでしょうか?」
「私はそう思いますが・・・主、交渉の後です。
少しお疲れではありませんか?」
ヴィクターが武雄に声をかける。
「うん?
・・・ああ、そうですね、私も頭を使いましたし、ヴィクターもアスセナさんも立ちっぱなしで疲れたでしょう。
ちょっとお茶をしますか。
ここは個室ありましたっけ?」
武雄が喫茶店に率先して入っていく。
「「お待ちください、私達がします。」」
ヴィクターとアスセナが足早に武雄を追いかけるのだった。
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ラルフの仕立て屋。
「はぁ・・・新商品の発表会のはずが・・・
気が付けばまた新たな事をする事になってしまった・・・」
ラルフがカウンターで落ち込んでいた。
「ははは、でも新しい布の生産権を頂いたから良かったではないですか。」
「これで取り扱う服の幅も広がりますよ。」
店員達が作業をしながらラルフを労っている。
「・・・それはそうなんだがなぁ・・・
これ、うちが断ったらキタミザト様はどうしていたんだろうな?」
ラルフがボソッと呟く。
「話の通り、生産工房に依頼したんじゃないですか?
ほら、ベッドフォードさんの所にはエルヴィス家から融資があったと聞いていますよ?
資金面はあれの活用がされるかもしれません。」
「まぁそうだが・・・だが、ウスターソースに比べると将来性が不透明だな。
融資案件になるかはちょっとわからないが・・・キタミザト様の発案事業ならされる可能性は高いか。」
ラルフが頬杖を突きながら店員達と話している。
「布の生産をされたらうちも買ったのでしょうか?」
「そうなるな・・・ん~・・・これが売り出されると兵士用のコートの製作だけでも凄い事になりそうなんだが・・・
その生産工房がどれほどの量を作れるのかはわからないが、奪い合いになっていたかもな。」
「布の奪い合いは怖いですね。
納期とか仕入れ値が頻繁に変わるのはお客様に不審がられます。」
「そうだな・・・安定的に供給され品質も価格も一定であるのが理想だな。」
店員の言葉にラルフも頷く。
「それとキタミザト様が言われたテントも売れそうですよね。」
「あぁ、防刃性がある布が販売されればキタミザト様の理想である『着ている人の生命を守る』のに直結するからなぁ・・・
布の公表時期が問題だろうな。」
「・・・量産出来たら次期トレンチコートに使いましょうか?」
「使っても良いが・・・キタミザト様も言っていたが、まだ実用性や製作の作業性的にどうなのかわからないしなぁ・・・
当分は試験のみだろう。」
「もしかしたら服には使えないかもしれないのですね?」
「そういう事だ、その場合は布の生産を請け負うとすれば良い。
工場の副収入となるだろうしな。」
「まぁそうですね。
トレンチコートも今は引っ切り無しで生産していますし、ダウンジャケットやダウンベストもこれから製作が始まりますけど、いつかは流行は過ぎますからね。」
「いつかは定数のみの製造をする事になる、副収入はあった方が良い。
・・・と思ってキタミザト様から権利を頂くのだが・・・」
ラルフが目線を横に向ける。
「・・・キタミザト様、最後に変な事を言っていましたよね?
『完成品にした方が』とか言われていましたね。」
店員が言ってくる。
「あれはなぁ・・・つまり液体を既存のトレンチコートや戦闘ベストに塗って性能を上げるようにしてみるという事なんだが・・・」
「・・・あぁ、作った布を服に使えなかった時の代替の使用方法ですか。」
「ああ、だが、塗るよりも漬けた方が良いかもな。」
「それは・・・天日干しで良いのでしょうか?」
「なんとも言えないな。」
「・・・まぁとりあえずそういった事をするというのはわかりました。」
「まだまだ先の話だろうがな・・・
さて・・・とりあえず、今は夏商品としてのステテコと甚平の販売戦略である街中に出す広告案を考えよう。
どこの客層に向けてどういった広告をするか決めないとな。」
「「はい。」」
「それとダウン2種類については組合員向けの試作品の完成予定の工程表と現状のワッペン案をまとめてくれ。」
「「はい。」」
「・・・あ、王都向けの品々の送付予定も作ってくれ。
後でキタミザト様に連絡を入れないといけないだろうしな。」
「「はい。」」
ラルフの仕立て屋は毎日が忙しいのだった。
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