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第1476話 仕立て屋での話。2(どこで作るか。)

武雄とラルフの前には武雄が注文した布が置かれ、武雄が説明をしている。

「では、そのエルヴィス家が販売している『とある液体』をこの生地に浸み込ませて焼くか乾燥させるかさせて性能を試すと?」

「はい・・・その通りです。」

ラルフ店長の前で武雄がにこやかにゆっくりと言いながら頷く。

けっして目線を逸らせたりはしない。

「予想される性能はなんでしょうか?」

「・・・魔法で強化された布地と同じように剣を通さない布地の作成です。

 テントを野外で使用する際にしっかりと閉じておけば襲撃にもある程度耐えられる物が出来上がるだろうと思いましてね。

 なのでラルフさんのお手を煩わせる事もないかと思っています。」

武雄は笑顔で言う。

「・・・なるほど・・・なら当店を使おうとした場合は?」

「・・・・剣を貫通しない外装を纏えば、魔法適性がない兵士でも怪我を負う可能性は低いと思いますし、目の粗い布の隙間を埋めるので防水性が高まらないかなぁっと・・・ちょっと期待しています。」

ラルフは本気の目をさせて聞いてくるが、武雄は笑顔のまま、目線を横に逃がすのみで済ませる。

「魔法適性がない者用・・・キタミザト様なら他にも考えますよね?

 特にご自身が受け持つ部隊には最優先のはず・・・こちらには?」

「はぁ・・・流石に第二研究所(うち)の作業服を任せているだけはありますね。

 そうです、そういった魔法適性がない兵士用(対外向け)のとは違い、特注をお願いします。

 まず研究所の作業服一式を作る際にヘルメットの内側に隙間を作りましたけど、そこの補強材としてこの布を重ねて使ったり、戦闘用ベストや作業服の胸回りや背中、首元等に布自体を仕込む事によって防刃性を高めたり、靴の甲の部分に鉄板を入れて貰っていますけど、あれを薄くして薄くした分の補強としてこの布を使えれば同強度で今よりも軽い物が出来あがると思っています。」

武雄がヤレヤレと手を挙げながら背中をソファに預ける。

「・・・それだけですか?」

「そうですよ。

 今は(・・)。」

「・・・」

ラルフは何も言わないし、武雄は笑顔でラルフを見ている。

店内は緊張感一杯だ。

ヴィクターやアスセナは何も言わずに武雄の後ろに控えているし、店員達は固唾を呑んで見守っている。

「はぁ・・・研究をするという事ですから・・・これからなのですね?」

ラルフがため息をついて諦めたように顔の力を抜いて言ってくる。

根負けしたようだ。

「はい、これからなのです。」

武雄が頷く。

「・・・やはり我が店を通して貰いましょうか・・・」

ラルフが考えながらそんなことを言う。

「生地の生産を?

 問屋さんにはなんと?」

武雄が首を傾げながら言う。

「そこは何とかします。

 それにこちらは・・・そこまで大規模な生産工房ではないのです。」

ラルフが生地を持ち上げて言う。

「見ての通り品質があまりよろしくない・・・はっきり言えば資金力があまりない小規模工房の物なのです。

 さっきのキタミザト様の説明で行くと研究が上手く行ってしまうと用途の多様性からこの生地自体の生産量の増加とその液体を追加する加工機が必要になるでしょう。

 直接引き受けられる工房はないと予想出来ます。

 かといって品質の良い工房が新たな生地に注力するかというと・・・なかなかに難しいでしょうね。」

「品質を落とすのが難しいと?」

武雄が聞いてくる。

「私共もそうですが、職人達がどう捉えるかですからね・・・職人達の感情的に良い方にはいかない可能性の方が高いと思いますし、工房主達も小規模工房の仕事を奪いかねないという意識があるでしょうし・・・職人を説得してまで生産をさせるのかは疑問が残りますね。」

「ふむ・・・仮定の売り上げ見込みだけではなんとも言えないという事ですか。」

武雄が考える。

「そうですね。

 実際問題、良い品質を作り出している生地生産工房達は現状の仕事量で賄えるのです。

 敢えて新しい機材の導入、職人の育成・・・費用面等でのリスクは取りたがらないでしょうね。」

「・・・ん~・・・」

武雄が考える。

「かと言って、小規模工房にはやる気があったとしても、そもそもの資金力と職人の人数でも新しい事に挑戦出来るかは不透明ですね。」

「そういう観点で見るとラルフ店長の所は良くやりましたね。」

武雄が何の気なしに聞いてくる。

「あの時のトレンチコートは最低限はキタミザト様の1着で良いですからね。

 生地もありましたので縫製が頑張れば良かっただけですし、費用はしっかりと頂きました。

 それにあの時は他領への出店に向けた検討をしていたというのもありますね。

 ・・・まさか王都やゴドウィン家等の他領にここまで卸すとは思いもしませんでしたが。」

ラルフが苦笑しながら言う。

「そうですか。」

「ええ、ですが生地については違います。

 前にも話したと思いますが、1品物の為にだと生地業者が動きません。

 配色をお願いするにしても相当数の注文量が必要なのです。

 さらに今回は設備投資もとなると・・・ん~・・・無理ですね。」

ラルフが考える。

「では・・・ラルフ店長はどう考えていますか?」

「この生地を購入し、工場の方で生産させます。

 そうすればこの生地を生産する工房には追加生産という形で増やせますし、問屋も儲かるでしょう。

 新たな生地を私達が生産しても独占するのではなく問屋にも卸すとすれば・・・まぁ平気でしょう。

 まぁ組合員には安く売って貰う事になるでしょうけども。」

「なるほど、まぁそこはお任せします。

 私は製品が出来れば良いので。」

「畏まりました。

 ちなみにその『とある液体』とは守秘義務がかかるのですね?」

「ええ、エルヴィス家の経済局 資源管理部扱いですね。

 先ほども言いましたが、まだまだ新しい素材で量がありません。

 研究と実績を深める段階なので他言無用でお願いします。

 ヴィクター、一応ラルフ店長の所にもお願いします。」

「はい、ラルフ様、後日、守秘義務の契約書を持参いたします。」

「畏まりました。

 契約をさせて貰います。

 ちなみにキタミザト様、目途はどのくらいですか?」

「こればっかりは・・・実験してみないといけないので・・・

 あ~・・・焼いた場合の板はありますよ。

 ・・・これです。」

武雄がリュックから取り出してラルフに見せる。

「なるほど・・・軽いでしょうか。

 確かに布に塗って薄くしても実際に服に加工出来るかはわかりませんね。

 ・・・乾かす方法も取るのですよね?」

「ええ、実験はしますよ。

 ラルフ店長は完成品にした方が良い(・・・・・・・・・・)と思いますか?」

「はぁ・・・その実験もして頂けると幸いです。

 必要ならこの生地でトレンチコート・・・いや、戦闘ベストを作ります。」

「それは助かります。

 ま、とりあえず今の所は研究に勤しみますのでご安心を。」

「わかりました。」

ラルフが頭を下げるのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん、やっぱりラルフさんたちは『被害者』じゃないねぇ~。 「もっと間隔を開けて提案してください(泣」みたいな意識はあるとしても、前話を読む限り、ほんのちょびっとでもタケオさんがうっかり口を滑…
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