第1469話 馬車と船の打ち合わせ。4(船の検討。)
「さて・・・ダンさん、奥様がやる気です。
新婚なのにすみませんね。」
「いえ、こちらこそここまでやる気になったクローイは久しぶりに見ました。
微力ながら精一杯考えていきます。」
ダンがそう言いながら頭を下げる。
「あとは・・・船はどうでしょうか?」
「はい、そこは私ですね。
こちらの中型船を使用しようかと思っております。」
ダンが武雄の前に図面を置く。
「ふむ・・・大きい物ですね。」
「はい、テンプル伯爵領ではどちらかというと標準的な漁船になります。」
「ふむふむ。
これの改造ですか。
良い事ですね。」
「良い事ですか?」
ダンが聞き返す。
「ええ、船の技術は一朝一夕では出来ません。
長年の蓄積が必要な業種ですからね。
それで?」
「はい、キタミザト様、船大工はどうされますか?」
「・・・ん~・・・
うん、まぁいつかは知らせないといけない事ですので話しておきましょう。
まずはこちらを。」
武雄がリュックから取り出した黒スライムの板をダンに渡す。
「これは・・・鉄・・・ではないようですが、固いですね。」
「これはエルヴィス家がこれから販売する『とある液体』を火にかけた状態です。」
武雄はそう言って机に黒スライムの体液が入った小瓶を出す。
「「「・・・」」」
「・・・新素材・・・」
その場の全員が武雄の提示した物を見て固まる。
「そう言えば先ほど・・・鉄との比重がとか言って計算されていましたが・・・コンテナも?」
キャロルが言ってくる。
「ええ、強度は若干劣りますが鉄並み、重量は鉄の1/3を見込んでいます。」
「凄い・・・」
「このような素材が・・・」
皆が慄いている。
「材料の数量的には少ないので多用は出来ませんけどね。
とりあえずこれを使います。
ダンさん・・・これがどういう意味かわかりますか?」
「ふ・・・船大工の仕事がほぼなくなります。」
ダンが意を決したような顔つきで言ってくる。
「・・・正解ですが、不正解です。」
武雄が首を傾げながら言う。
「え?」
「船大工の木の目利きは必要なくなりますが、船の成型という仕事が新たに加わるだけです。」
「それは・・・船大工なのでしょうか?」
「名称など大した物ではないと思いますけどね。
船を作る工房を造船所と定義するなら造船所の職人という形で分類上では一緒なのでは?」
「それはそうですが・・・この地で作ろうとする意味がわかりました。
これは船大工が居るテンプル伯爵領では提案すら難しいやり方です。」
「まぁ・・・そうでしょうね。」
ダンの言葉に武雄が頷く。
「ちなみにキタミザト様、この大きさを焼くのですか?」
ダンが図面を見ながら言う。
「焼く・・・ローチさん。」
武雄がローチに聞くと。
「現状では無理です。」
ローチが即答する。
「そうですね。
この大きさの窯はありません。」
キャロルも頷く。
「となると分割で焼いていくという事になりますが・・・
さて、ここで問題になるのはなんでしょうか?」
武雄が4人に聞く。
「どうやって焼くかですか?」
「それもですね。」
クローイが答え、武雄が頷く。
「分割にした際に接合部分を如何に処理するか、ですね。」
「確かに。」
キャロルの答えに武雄が頷く。
「これ・・・設計通りに焼くという事は・・・図面の精度が足らないのでは?」
「正解。」
ローチの言葉に武雄が答える。
「あぁぁ・・・」
ダンの顔色が白くなる。
「現状で想定してる作り方は簡単です。
1.詳細な図面を作る。
2.図面通りの精巧な模型を作る(土や粘土、木材等で)。
3.模型の外側の型を取る為の材質で覆う。
4.模型の内側の型を取る為に材質で覆う。
5.この状態で焼き、型を固める。
6.模型を取り出した状態で内外の型を組み模型があった部分にこの液体を流し込み焼く。
7.型を外し、完成。
わぁ、簡単。」
武雄がにこやかに言ってのける。
「「「「・・・」」」」
4人が俯いて聞いている。
「ちなみに、型を取る為の覆う材質ですが、白スライムの体液を使おうと思います。
これはえーっと・・・これか。
こちらも液体ですが、焼くとこのように石のようになります。
若干脆いですが、作るのに十分でしょう。」
武雄が皆の前に耐火板を置く。
「・・・また新素材・・・」
「「「・・・」」」
皆が俯きながら言ってくる。
「この2つの材料を以て作ります。
まぁこの液体をそのまま使うかは研究所で試験と評価をしてからですけど。
大まかな流れは変わらないでしょう。
まぁ追加技術が出来たら逐一情報を入れましょうかね。
質問は?」
「「「「・・・」」」」
皆が若干放心状態になっている。
「ん~・・・新素材で驚いちゃいましたかね?」
武雄が4人を見ながら言う。
「はい。」
武雄の横で書記をしていたアスセナが手を挙げる。
「はい、アスセナさん。」
「キタミザト様、この特殊な新素材の現状の製品についてご説明しておいた方がよろしいのではないでしょうか?」
「なるほど。
この後から出した新素材の方はハワース商会にて内装壁として製品にする予定です。
先ほど挨拶をしてきましたが、現在、建て方の職人方に説明をしている段階ですね。
用途は耐火材で耐火板となります。
厨房や火を使う部屋の内装に使い火事の際に延焼を遅らせる事が期待されています。」
武雄が4人に言う。
「主、それと守秘義務の方をお願いします。」
「そうですね。
現在、この新資材はエルヴィス家の文官に頼めば・・・ヴィクター担当部署はどこでしたか?」
「経済局 資源管理部になります。」
「資源管理部に問い合わせをすれば販売して貰えます。
ですが、これはエルヴィス家で作り出した、まだまだ新しい素材です。
たとえ友好的なテンプル伯爵家、ゴドウィン伯爵家であっても当分の間は秘密にして貰います。
なので、守秘義務がかかります。
教えたここにいる4名の工房には後ほど守秘義務の契約書をお持ちし・・・キャロルさんはありましたか?」
「・・・いえ、あれは別件です。
この件でしっかりと結ばせて頂きます。」
キャロルが弱々しく答える。
「お願いしますね。
まぁ事実、現状では販売量が少ないのでね。
大々的に発表して枯渇するよりも研究と実績を深める段階と踏んでいるのですよ。
なので、販売体制が整うまでは秘密です。
いつかエルヴィス家が公表するでしょう。
それまでは他言無用、工房の者達にも言い聞かせてください。
良いですね?」
「「「「・・・はい・・・」」」」
4人が弱々しく返事をする。
「うん・・・よし!言いたい事は言ったかな?
ヴィクター、アスセナさん、何か伝え残しはないでしょうか?」
「・・・現状では、これ以上はないかと。」
「私もありません。」
武雄の言葉にヴィクターとアスセナは皆を見ながら答える。
「ヴィクター、経済局と協議し守秘義務の契約書を作成。
早々に締結させておいてください。」
「畏まりました。
あと、先ほどの船の製作方法ですが、あれも契約書を作成して皆さまと締結させます。」
「・・・ヴィクターに任せます。」
武雄が少し考えてから言う。
「はい、重ねて承知いたしました。」
「では、皆さん、近日中にヴィクター達がお伺いしますのでよろしくお願いします。
それと設計図が出来たらまた話し合いましょう。
あ、お見送りは結構です。
ヴィクター、アスセナさん、行きましょうか。」
「「はい。皆さま、失礼いたします。」」
武雄達が会議室を出て行くのだった。
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