第1468話 馬車と船の打ち合わせ。3(クレーンの設置方法の検討。)
「確か説明を受けたのは荷台からレールで船に持っていく・・・」
「そして提案したのは船への積み降ろしはクレーンを使う・・・」
ダンとクローイも考えている。
武雄は皆に考えさせている間に「櫓を組んで・・・天井クレーンのようなH鋼やIビームを船上に設置は無理かぁ・・・形成も溶接もないしなぁ・・・なら厚手の平鋼を代替・・・無理かなぁ?」と構想を練る。
「あの・・・キタミザト様、馬車の荷台と船の積み荷を乗せる位置は段差をつけるという事ですか?」
クローイが手を挙げて言ってくる。
「となると・・・船の真上にコンテナを移動させ、クレーンで上下させる。
させるにはコンテナを吊った後に床が開くようにする?」
キャロルが言う。
「床を開くように・・・いや、それは安全でないのでは?
万が一、床の留め具が壊れたらコンテナを乗せた際に落ちてしまいます。
なら船の直上ギリギリ手前にクレーンを設置して、その位置にレールを使ってコンテナを持って行き。
少し吊ってから船上にコンテナを押しながらゆっくりと下ろすという事も出来るのでは?」
ローチが言う。
「いや、船の直上にクレーンを持って行かないと荷が揺れます。
それに荷は押すのではなく引く物かと思います。
なのでコンテナを船に乗せる際は、船の直上ギリギリ手前までコンテナを持って行き。
少しずつ吊り上げます、そうすると上げた分だけ船上方向に行きますので、ゆっくりと上げるのと直上に移動させるのを同時にさせ、コンテナが揺れなくなったら船上に下ろすと良いと思います。
逆にコンテナを船から下ろす場合は吊って荷台の横移動用の台位置まで持ち上げたあと横から紐をかけ荷台の方に引っ張りながら位置をレールに乗せるのが良いのではないでしょうか?」
クローイが言ってくる。
「それは難しいと言えますよ。
確かに船に向かって手前から紐で位置を調節するのはありです、この部分は採用しましょう。
ですが、風が強い際は強く引かれる可能性があります。
コンテナを吊った状態から手前に引いてレールに乗せるというのは安全性が確保出来ません。」
キャロルが反論をしてくる。
キャロル、ローチ、クローイが議論している。
武雄は素直に感心していた。
図面だけで見た物や口頭だけの説明でここまで実務的な事を言えるのだから相当技術者としての能力と想像力が高いと言える。
現物を見ている者達からは想像もつかないくらい頭を回転させないとこうも議論は出来ないだろう。
そしてこの3人は同じ絵を見ているから議論が出来ている。
「・・・頼もしい限りですね。
では、お三方の話を元にちょっと訂正をしてみましょうか。」
「「「はい。」」」
キャロルとローチ、クローイが返事をする。
「つまりは以下の手順を踏むという事です。
1.荷台から輸送船の近くまで持っていき、コンテナを吊る。
2.吊ったコンテナを船上まで移動させる。
3.船上に下ろし固定をする。
こうですね?」
「「「はい。」」」
「今の問題は2番の吊ったコンテナを船上に移動させる方法。
キャロルさん、ローチさん、吊ってから船上に移動させる距離は?」
「そうですね・・・キタミザト様が言われたコンテナサイズは幅1.7m×高2.0m×奥行3.0m。
なら3.0m・・・吊り作業うんぬんがあると考えて、4.0m程度は移動するかと考えます。」
「なら、吊ってからクレーンが4.0m移動すれば安全なのではないですか?」
「「「???」」」
3人が不思議そうな顔をさせる。
「良いですか?」
武雄が席を立ち黒板に向かう。
「つまりはそもそもクレーンの1つの使用方法としてこうやって櫓を作って使用する方法もあるのです。
では、この櫓自体が動く構造だったらどうでしょうか?」
武雄が正面からは「ロの字型」、横面は「逆Y字型」の鉄骨工場や組み立て工場にある天井クレーンを大まかに書く。
そして逆Y字の下に円を数個書いておく。
「・・・これならクレーンが動きます。」
「・・・こんなのは聞いた事もありません。」
「・・・図面とは違うクレーン・・・」
3人が食い入るように武雄の書いた絵を見ている。
「実質設計はこれからでしょうけどね・・・
このように常に誰かが引っ張っていなくても良い構造というのは出来る物です。
もちろん紐を使い誰かが誘導し、コンテナの揺れを抑制しないといけないと思いますが。」
武雄がそう言いながら席に戻る。
「キ・・・キタミザト様・・・これを考えてよろしいのですか?」
クローイが驚愕とも歓喜とも取れる複雑な顔をさせて武雄に言ってくる。
「どうぞ。皆さんで都度打ち合わせをしながら設計をしてください。
まぁ予算もあるでしょうからね。
その辺は出来るだけ安く仕上げてとしか言えませんけど。
それと図面だけでは人々は理解できない事も多いでしょう。
1/10程度の模型をまず作って貰います。」
「模型ですか?」
「費用を出すのはエルヴィス家ですよ?
そして港湾部のみならず財政局や総監部、伯爵にも説明する必要があるでしょう。
その際に文章や図面だけでは理解が得られないと思います。
なので、模型を作ってください。
それに私達も見落としがあるかもしれません。
私達の確認の為にも必要でしょう。」
「そうですね・・・今までした事がない事業ですから・・・
見落としもあるでしょう。」
「はい、実物に近い物を作って見せます。」
「キタミザト様!頑張ります!」
キャロルとローチは疲れた顔で頷き、クローイはやる気を全面に出して頷くのだった。
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