第1450話 エルヴィス伯爵に報告。5(放射線と環状線の話。)
「えーっと・・・夕霧、ここにスライム専用通路を通せますか?」
武雄は帰還の為に通った南西のゴドウィン領との領境の街道から武雄達がエルヴィス領の関からゴドウィン領に向かった街道までの道なき領境をなぞる。
「ん・・・街道がない・・・道しるべがないとどの位置に居るか・・・ジェシーの所との境界を越境する可能性があります。」
「多少は問題ないですよ。
越境していたらエルヴィス領側にもう1本作れば良い事ですからね。」
「ん、なら問題ない。」
夕霧が頷く
「タケオ、こっちやこっちは必要ないんっスか?」
時雨が西側と北側を指す。
「必要ですよ。
でもまずは南や南東の範囲を網羅しましょう。」
「タケオ、シグレの言うこっちとこっちも繋ぐと領内を一周する形になる。
これは調べるのに楽だけど遠い。」
初雪が専用通路の長さを気にする。
「・・・確かにこれでは万が一の際は通路を通って連絡してくるのに時間がかかりそうですね。
なら・・・例えば、この街を中心に考えて・・・
あー・・・フレデリックさん、紐と針はありますか?」
「キタミザト様、こちらに。」
控えているメイドが裁縫道具を渡してくる。
「ありがとうございます。
えーっと、最初の村がここだから・・・」
武雄は針とペンを糸で結ぶ。
・・
・
武雄は地図上にエルヴィス伯爵邸がある街を中心に4本の円を描いていた。
「街に一番近い村を網羅した最内の円が第1、各町を網羅したのが第2、外側の村を網羅したのが第3、そして領地の境を回るのが第4の円とします。」
「ふむ・・・これをどうするのじゃ?」
エルヴィス爺さんが聞いてくる。
「はい、では、町を中心に8方向の放射線を書きます。」
武雄が定規で8方向に線を描く。
その内の何本かは街道に並走する形になっていた。
「これは・・・なるほど、円と線を組み合わせての全体を網羅した情報網ですか?」
フレデリックが聞いてくる。
「そうなります。
とりあえず、私の考えを説明をします。
まずアズパール王国内の人達が取っているのはこの放射線の考え方をした街道作りです。
これは領内もしくは国内で考えた時に人口の多い街を人々が目指し、物も金も集まるという考え方により出来ています。
なので例えば、南町から東町に行きたい場合、この街を経由する。
これが普通の考え方です。」
「はい、その通りです。」
「そうですね。
主要街道というのは貴族邸がある街同士と王都を結ぶ道ですね。」
アリスとエリカが頷く。
「放射線状の街道整備は現状の領内を見た時にこの街が一番人、物、金を集め、消費するのですから間違っていません。
対して夕霧達にさせるこの環状線と放射線の組み合わせた情報網というのは、例えば・・・東町との間にある川が氾濫したとして、放射線状の情報網だと寸断されてしまうので末端・・・この場合は東町としましょうか。
東町の情報が入ってきません。
川が氾濫したという情報は入って来ても東町の被害状況や必要な支援物資の情報が入らないと何を持っていかないといけないのかわからない状態が数日続いてしまいます。
そこで環状線と放射線の組み合わせた情報網を用意する事によって、1つのルートがダメになっても情報が届けられるというメリットがあります。」
「ふむ・・・良い点はわかったの。
夕霧出来そうかの?」
「ん、タケオが必要だと言ってくれて、私達を有効に活用出来るのなら作るのは問題ない。」
エルヴィス爺さんの問いかけに夕霧が答え、時雨と初雪も頷く。
「タケオ様、これはタケオ様の居た所では使っていたのですか?」
アリスが聞いてくる。
「物流網の一環ですね。
中央に人や物を集めると人が増えていくにしたがって道が渋滞していくんです。
考えても見てください、荷捌き出来る時間は今と大して変わらないと思いませんか?」
「あ~・・・なるほど。」
アリスが頷く。
「なので中央に用がない・・・例えば南町から東町への荷物を積んでいるのなら中央を通らずに行った方が良いという事になります。」
「一見良さそうに聞こえますが・・・この環状線も道なのですよね。」
フレデリックが難しい顔をさせる。
「ええ、道の整備費と維持費がかかります。
それにまだアズパール王国にはまだまだ環状線の街道整備は必要ありませんよ。」
「まぁ・・・そうじゃの、現状で渋滞しておるわけではないしの。
タケオはどのくらいの人口が居れば可能と思うかの?」
「そうですね・・・私も専門家ではありませんので正確にはわかりませんが・・・
せめて人口があと5倍・・・いや10倍程度にならないと難しいのではないでしょうか。
今の王都並みの街が何個もないと道の維持費が賄えないのではないでしょうかね。」
「そこまでなのかぁ・・・
タケオ、どのくらい後になると思うかの?」
「30年、40年といった長い時間がかかるでしょう。
まぁ2世代程度をかけて人口が増えたとしても、その時点で初めて環状線街道の構想が語られるでしょうからね、実現は50年後とかでしょう。」
「気の遠くなるような話じゃの。」
「ええ、ですが、今は放射線状の街道で十分賄えているのですからこれ以上環状線の街道を議論する意味もありません。
ですが、情報網としてのスライム専用通路としては実現したいですね。」
「うむ、タケオの話だと情報網としては十分に意味がありそうじゃ。
わしは構わん。
費用もある程度負担しても構わないのじゃ。」
「はい、災害時の情報をいち早く手に入れられるのは良い事です。
具体的な運用は夕霧様達にお任せしますが、報酬は毎日樽2つ追加ですね。」
「ん、任せてください。
シグレ、ハツユキ、します。」
「はいっス。」
「わかりました。
タケオ、具体的にはどうやって情報網を維持するのですか?」
「そうですね・・・
環状線内を常に移動しているスライムと、環状線と放射線の交差点で監視するスライムを作ってみますか。
そして定期的に報告をよこして貰ってスライム専用通路が維持できているかの確認をしつつ、領内の監視をすれば良いと思います。」
「ん、それなら何とかなりそう。」
夕霧がやる気になるのだった。
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