第1432話 滑車を本格的に作ろう。(やっぱり図面は書かないといけないのね。)
人工湖関係の話合いを終えた、鈴音とトレーシーはキャロルを誘い、テイラーの魔法具商店に来ていた。
「あの話合いの中でそんな事を考えていたのか・・・」
鈴音とトレーシーからクレーンの実用案を聞かされたキャロルが呆れていた。
「スズネ、ではもう一度簡単に説明してくれるかな?」
「はい、私とトレーシーさんが考えたのが天井に固定されている紐と定滑車1つの間に1つの動滑車を置くと持ち上げる際の荷重が吊り荷の重量の1/2になるという原理を使い、吊っている動滑車の吊り部分と天井とに紐をかけ、中間に新たに動滑車を配置する事で1/2が何個もかけられていくという方法なのです。
ですが、これにはクレーンでは採用出来ないと考えました。
えーっと・・・結局の所、一番上の定滑車の紐を引くしか出来ないので、クレーンの概念のように荷物を1~2m上げ下げするのは難しいと思ったのです。」
鈴音がさっきのラフ画をキャロルに説明しながら書く。
「ふむ・・・3つ目くらいまでならある程度上げられそうだが・・・6個は難しいな。」
「はい、なので違うやり方を考えたのですが・・・
上部と下部に鉄棒を用意して
上部に端部を固定した紐と定滑車10個を取り付けます。
下部には動滑車の吊るす部分を付け動滑車と滑車1個分ずらした位置に定滑車と同じ間隔で取り付けます。
そして端部を固定させた紐を定滑車から動滑車そして定滑車へと渡していくと・・・
上部の定滑車群と下部の動滑車群間を紐が行き来するだけで上げ下げが出来る仕組みが出来上がります。
このやり方は1/2が足されていくという方法なのです。
そして定滑車と動滑車をずらした理由は上げ切った時に同位置まで上げる事が可能になるからです。」
鈴音がラフ画を描きながら熱心に説明する。
「ふむ・・・なるほどな。
・・・で、スズネ、これを私に言ってきたという事は作るという事なのだろうが・・・
物には良い面と悪い面が存在する。
良い面は今聞いた『重い物を軽い力で持ち上げられる』。
では、悪い面は?」
キャロルが眼光鋭く聞いてくる。
「・・・滑車を10個使うので、1m上げようにも20mくらい紐を巻き上げないといけません。
それに想定は2000㎏程度のコンテナなので、10個使っても巻き上げ機にかかる重量は100㎏なんです。
本音を言えば当初考えた通り50㎏くらいで物を上げられるようにしたいので20個は使いたいですが、現実味がなくて・・・そうすると巻き取り機の巻取り時の固定方法が当初の鉄の棒だけで出来るのか些か不安とこの滑車にベアリングが欠かせない技術になります。」
「ベアリング・・・なるほど、物を円滑に上げ下げさせるには滑車が滑らかに動かないといけないと。」
「はい・・・ただでさえ20個が連動する滑車です、1つでも動きが鈍ければ荷の上げ下げに苦労をしてしまいます。
そうするとこの滑車部分は荷馬車のベアリングを作っているキャロルさん達にしか依頼できません。」
「ふむ・・・となるとベアリングのスリム化をしないといけないか。
今の幌馬車に付けているベアリングでは幅がありすぎる。
それについてはスズネに図面を用意して貰いましょうか。」
「・・・やはりそうなるんですね。
それとベアリングが関わりますし、クレーンの先端の発案料を製品価格にかけて欲しいのですが、出来ますか?」
「それは私共も願ったりだな。
では、すぐに仮の契約書を作ってしまうか。
テイラー、紙とペンを。」
キャロルが頷き、テイラーに書く物を要求する。
「・・・はぁ・・・また契約しちゃう・・・
武雄さん、怒らないかなぁ?」
鈴音が疲れた顔で言う。
「所長なら『良くやった』と言うのではないですか?」
トレーシーが言う。
「ん~・・・武雄さんは怒らないかな、逆に物凄く心配してきそう。
それはそれで心苦しいんですよね。」
「そうかもしれませんね。」
トレーシーがなんとも言えない顔をさせながら言う。
「結局は人工湖の話を2人は聞いていなかったのですかね?」
テイラーが苦笑しながら2人の元にやってくる。
「船の専門家さんの指摘は素直に聞くとなったのはわかりましたよ。
私は船の駆動部ですからね。
港湾施設には然程興味はないです。
まぁ荷卸しがしやすいようにと滑車は考えましたけど・・・そこまで人工湖に参加はしたくないですね。
それにこれ以上話に加わったら動力部の研究が出来なくなると思いますし。」
「スズネさんはそれで良いでしょうね。
キャロルさん、クレーンの構造はどうですかね?」
トレーシーがキャロルに聞いてくる。
「スズネの話を聞いた限りではあの2人が言った安全面の懸念事項は払拭されただろう。
あとはうちかローチが作るクレーンの規模だな。
スズネ、あのダンとクローイが見せたクレーンの図面を見てどう思った?」
キャロルが鈴音に問う。
「・・・2000㎏の荷を支えるんですよね・・・」
鈴音がダンとクローイが見せた図面を思い出す。
「正直に言えば『木?』と思いましたが・・・キャロルさん、2000㎏とベアリング付きの滑車20個と下地を合わせて・・・あの太さの木で出来るんですかね?」
鈴音が聞いてくる。
「スズネもそう思ったか・・・たぶんあの図の通りのクレーンでは折れるな。」
「ですよね。
クレーンの全体的な事は武雄さんが帰ってから考えましょうか。」
「そうだな。
たぶんキタミザト様ならすぐにあの2人に会いに行くだろうからその時に話を振るか。」
「そうですね。」
キャロルと鈴音が頷くのだった。
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