第1417話 寄宿舎生活。4(ジーナと職員達。)
ジーナの部屋。
ジーナが宿題をやっている。
「・・・ねぇジーナ。」
机の端に座っているチビパラスが聞いてくる。
「ん~・・・なんですか?」
ジーナが顔を上げないで返事をする。
「スミスがタケオに追いつくって出来ると思う?」
「思いませんよ。」
ジーナが鉛筆を止めないで返事をする。
「・・・だよねぇ。」
パラスも頷く。
「・・・ご主人様とスズネ様に追いつける人間は然う然う居ないでしょう。
あるとすれば・・・トレーシー様でしょうか。」
ジーナが鉛筆を置き、お茶を片手にパラスに向きながら言う。
「トレーシー?研究室長の?」
「はい。
ご主人様もスズネ様も私達よりも多くの知識を持っているという違いはありますが、知識よりもどちらかというと経験や感性から物を考えている節があります。
あの奇抜な発想は知識ではなく体験や経験から来て、それから知識を探しているのではないでしょうか。」
「そうなのかなぁ?
まぁ確かにタケオは美味しい物が食べたいからとかあったら便利だからとかいうのが先に来ているのかもね。」
「私が知りうる中でいろいろな経験をされたのはトレーシー様です。
魔法師専門学院を首席で卒業、王家専属魔法師部隊所属、魔法師専門学院の学院長をされていて今度は王立研究所の研究室長。
兵役をし、教育に携わり、研究に従事する。
多様な経験をしています。
これならご主人様とは違う方向になってしまうかもしれませんが、少なくとも今の私達よりかは良い発想をされそうです。」
「なるほどね。
経験からくる発想ねぇ。
ちなみにジーナは?」
「私は発想は出来ませんね。
あるものを使い何とかその場を凌ぐのが精々でしょう。
とてもではありませんが、ご主人様やトレーシー様、テイラー様の話に入っていけるとは思いません。」
「ジーナもいろいろ経験積んでいるから新たな発想は出来そうだけどね。」
「私が?
ないですね。」
ジーナが顔の前に手をやり、左右に振ってナイナイとしている。
「私が出来るのは情報を集めるくらいですよ。
磯風やロロの協力があってですが。」
「それも十分凄いと思うけどね。」
パラスが呆れるのだった。
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職員の部屋。
当直の職員達がお茶を片手に雑談をしている。
「・・・今日も何もなかったですね。」
「あの悪童供動きませんね。」
「生徒自身の監視が上手い具合に機能しているとみるべきか。」
「息を潜めているのか。
どちらにしても即動けるように我々も待機だな。」
皆が頷く。
「それにしても現状がわかっているのか、ジーナ殿は静かにしているな。」
「授業中も真面目に受けてくれていますし、試験の成績も優秀過ぎずな感じですね。
まぁあれは意図的に間違えている感じですが。」
「あ~・・・貴方もですか。」
「ええ、解き方がわからなくて間違えたのではない感じですね。
例えば計算なら最後の所の足し算を間違えたり・・・途中の計算は完璧に合った状態でです。
まぁ立場的にも上位を取るといけないと思っての対策なのでしょう。
なので間違いとしましたが、追記で『やるなら面白い間違え方をしなさい』と書いておきました。」
「なるほど。
こっちは記述式の論文形式でしたが、途中からキタミザト子爵を絶賛する文章を書いていましたよ。
私は追記で『こういう場合は主家ではなく、街中の人で絶賛出来る人を紹介するのが点数をあげられます』と回答しておきました。」
「貴方達も随分とジーナ殿と遊んでいますね。
まぁジーナ殿の目的は局長達からも聞かされていますからね。
ご本人のしたいようにされれば良いでしょう。
ですが、授業中は真面目というのはわかりましたが、休み時間はどうでしょうか?」
「休み時間中も目立たないようにしていますね、エルヴィス殿を上手く補佐していると思います。
ですが、執事教育というのはああも凄い人材を作り出すのですかね?」
「本人の資質と能力、そして努力の賜物なんだろうな。
他の貴族はどうだ?」
「アルダーソン殿とボールド殿は授業は必死ですね。
何とか授業にも付いていけています。」
「お付きの2名も騎士団の息子殿でしたか。
あの4人は魔法師専門学院に行く予定だったのでしょうね。
まぁいきなり王立学院ではする事が違いすぎですからね。」
「内容は変えられないが、今は宿題を多く出して基礎を教えている感じですね。」
「この時期は宿題は少なめにしてあげたいんですが・・・いささかあの4人に基礎知識を入れないと授業が出来ないのですよね。」
「まぁそれは致し方ないでしょう。
グレース殿下はどうですか?」
「真面目ですね。」
「噂と違うんですよね。
もっと実力行使すると思ったのですが・・・」
「あーそれ思いました。
もっと授業中もご自身の意見を言い出す物かと思っていましたけど・・・静かにしていますね。」
「でも結構ジーナ殿を見ているな。」
「それはわかる。
ジーナ殿は気にもしていない風だが・・・なんだろうなぁ・・・自国の王家の姫よりも貴族のお付きの方が大人びて貴族らしいと思ってしまう自分が悲しいな。」
「それは言うな・・・私も若干思っていた事だ。
主のエルヴィス殿達が話しているのを窓際に立って見守っている時の顔、あれは母親の顔だぞ。」
「「確かに。」」
「まぁジーナ殿は今のまま心安らかに過ごして貰うとして他の面々は引き続き注意だな。」
「そうですね。」
「王家と貴族は大人しくしてて貰い、宿舎の方は監視をしながら悪巧みを未然に防がなくてはいけませんね。」
職員達が頷くのだった。
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