第1413話 試験小隊が野営場所に到着。(クリナのお仕事。)
エルヴィス伯爵領とゴドウィン伯爵領との境界線付近。
試験小隊の面々が街道沿いの広場で一列に並んでいる。
「総員、下馬。」
皆が一斉に馬を降りる。
「・・・アンダーセン隊長に敬礼!」
オールストンの掛け声で皆が一斉に挙手の敬礼をする。
アンダーセンも挙手の敬礼をして腕を下す。
「直れ!」
皆が敬礼を終える。
「お疲れ、さて目的地に着いた。
今日から所長が来るまでここで野営になる。
ブレアとアーリスが後から幌馬車で荷物を持ってくるだろう。
それまでに野営地の確認と薪集めと水浴び場の設営だな。
オールストン、指揮を頼む。」
「了解しました。
懐中時計で・・・15分後程度から班割をして行動をします。」
オールストンが答える。
「良いだろう。
任せる、以上だ。」
「アンダーセン隊長に敬礼!」
オールストンの掛け声で皆が一斉に挙手の敬礼をする。
アンダーセンも挙手の敬礼をして腕を下す。
「直れ!」
皆が敬礼を終える。
「さて、周辺警戒はアンダーセンと俺がしようか。」
「わかった、そうしよう。」
アンダーセンがオールストンの提案に頷く。
「ならケードとコーエンは私と薪集めとカマドの設営、アニータとミルコとアーキンはテント設営場所の整地と水浴び場の設営ね。」
「わかった。」
ブルックの提案にアーキンが頷く。
「水浴び場は所長が来たら湯浴み場に変わると考えれば良いんだな?」
「そうなるだろうな。」
「所長は今日出立という情報だったわよね。」
「幌馬車なら3日か4日程度か?」
「所長だからなぁ~・・・」
「所長達は宿に泊まらないだろうね。」
「馬にケアを普通にかけてきそうだな。」
「馬が動かなくなる事もあるのに所長がするとキビキビ動くんだよね。
何か違いがあるのでしょうかね?」
「・・・ビエラ殿やクゥ殿が居るからじゃないか?」
「「あー・・・そういう事か。」」
アンダーセンの言葉にブルックとアーキンが呆れながら頷く。
「上位種が背中や荷台に居れば馬もキビキビ動くだろうな。
俺達で言うアン殿下やクリナ殿下をおんぶして歩いている感じか。」
「もしくは背負っているのが魔眼発動中のジーナ殿とか?」
「それ怖いな。」
「おっと・・・雑談もこれくらいにして作業にかかるか。」
「「「了~解。」」」
指揮できる者達が動き出すのだった。
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第2皇子一家の屋敷にて。
「あれ?」
クリナが執事から受け取った手紙を仕分けしていたのだが1通を見て不思議そうな顔をさせている。
「クリナ、どうしたのですか?」
他の手紙を見ていたリネットが聞いてくる。
「いえ・・・知らない方から手紙が・・・あ、カリス宛でした。」
「私ですか。
失礼します・・・」
お茶を入れていたカリスがクリナから手紙を受け取り中を確認する。
「・・・これはタケオの部下のスズネからですね。
ヴァイオリンのお礼に楽譜を数枚送った事のお礼と・・・追加の部品注文ですね。」
「ヴァイオリンかぁ・・・お店に引っ越してまだ数日なんですよね。
挨拶にも来られましたけど・・・大丈夫でしょうかね?」
「クリナ、様子はしっかりと確認はしなさいね。
他国で初めての工房ですから周囲の人とも打ち解けていないでしょう。
私達は過度に介入はしてはいけませんが、孤立させるというのも違いますからね。」
リネットがクリナに言う。
「はい、わかりました。
今度様子を見に行ってきます。
あれ?こっちはアンからで・・・これもカリス宛があります。」
「また私ですか・・・
これはアンに付いたアウクソーからですね。
・・・アンの指導方法についてかぁ・・・」
「はぁ・・・アンも大変そうですね。」
クリナがアンの手紙を読んでため息をつく。
「お互いにまだまだですからね。
そう簡単に上手くはなりませんよ。」
「カリスがあんなに上手に奏でるから簡単かと思っていたのは事実ですが・・・
そう言えば、タケオさんの部下の方は何と言ってきているのですか?」
「えーっと・・・流石に音楽活動をされている方ですね。
数曲弾いて懐かしかったと感謝してくれています、練習も続けるという事ですね。
あとは部品の取り寄せと・・・ん~・・・メトロノームというのを作りたいと言ってきているのですよね。」
「めとろのーむ?」
クリナが首を傾げる。
「ええ、例えば・・・この拍子を手で叩くのではなく、機械的に音を出させる装置の事です。
これを作りたいから原理を知っているなら教えて欲しいとの事です。」
カリスが手を叩きながら言う。
「・・・手を叩けば良いのではないですか?
カリスも私の練習の際に良く叩いていますよね。」
「そうですね・・・ですが、このスズネは1人で練習しているのでしょう。
曲の速さを間違えないように欲しいのですよ。」
「へぇ~・・・で、こっちで作るのではなくてタケオさんの所で作るのですか?」
「・・・クリナ、楽器を作る工房がこの地に出来ました。
なら、練習道具も一緒に作り出せば装置の改良がしやすく、楽器の流行りを作り出せるとは思いませんか?」
「それは思いますが・・・タケオさん並みの理解力は私にも工房にもあるとは思えませんが・・・」
「ふむ・・・確かに私が直接物を作ると言うのは出来ないでしょうね。
なら、クリナが原理を書いてみますか。」
「私ですか!?」
クリナが驚く。
「ええ、豆腐の販売という商売は体験できました。
さ!次は設計に挑戦です!」
「また違ったことをするのですかぁ?」
「カリス、お願いね。
クリナにはいろいろ経験させた方が良いと思っているのは確かだけど体調は崩さないようにね。」
「リネット、お任せください。」
「おぉぉぉお母様!?誰の味方ですか?」
「将来のクリナの味方です。
失敗しても良い、いろんな事を経験しなさい。
これは武門の家でしか生きてこなかった私の教訓よ。
これはこれで楽しかったけど、クリナはもっと多くの事を見て経験して自分がしたい事をして欲しいの。」
リネットがにこやかに言う。
「私に職人の才能があったらどうするのですか?」
「それはそれで面白そうね。
ならカリス、試作はどこかに頼んでクリナに設計と実物の監修して貰いましょうか。
費用は・・・結構かかる?」
「いえ、そこまではかかりません。
木材の加工と手先が器用な工房を紹介してくれれば問題ないかと。」
「わかったわ・・・えっと彫金が上手い工房があったわよね。
そこを紹介しましょうか。
あ、もしくはヴァイオリンの製作工房に頼んでも良いわよ。」
「ふむ・・・わかりました。
クリナと話し合って決めます。」
「ええ、お願いね。」
「あの~お母様?私が出来ると思っているのですか?」
「思っているわ。
ヴァイオリンの練習も毎日欠かさずにしているクリナですもの。
カリスの指導を受けながら真面目にコツコツと設計を体験してくれると信じていますよ。」
「お母様からの信頼が重いです。」
クリナが微妙な顔をさせるのだった。
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