第1410話 キタミザト家の執事と事務員。(部下からの武雄の評価。)
「本当の恐ろしさ・・・ですか?」
アスセナがヴィクターに聞く。
「ええ、一般向けと特定の人向けの2種類の物を発想する主です。
確かに生産者達は己の知識の斜め上を行く発想力を持つ主を怖がっていますが、それは発想力からではありません。」
「ん~・・・販売力ですか?」
アスセナが聞く。
「ええ、それも売る物に合わせて売り方を変えているという事実なのです。」
「???・・・どういう事でしょう?
服屋は服屋の売り方があって青果屋は青果屋の売り方があるのは当たり前だと思うのですが?」
「ええ、その通りです。
では服屋の店主が青果屋の売り方を考える事はありますか?」
「仕事ではないのでしないでしょう。」
「主は、自身で売らないのにも関わらず、ワイン、服、ソース、筆記具、玩具、懐中時計、武器等、その工房に合わせて売り方まで指導と実践をしているのですよ?」
「化け物ですね。」
アスセナが呆れながら言う。
「そして他領で作られないようにエルヴィス領で出来るような販売網を作り、王都や他領もそれを認めているというのも驚きですね。」
「王都もというのが凄いですよね。
王都という事は資金面では地方の工房より優位に立っているのではないですか?
誰かが抜け駆けしてこっそりと類似品作らないのですか?」
「・・・そこが主の変な所で最初から限界ギリギリとは言いませんが、あまり高値で物を作らせないように仕向けています。
なので安値で勝負しているので、他領や王都で作るより買った方が労力的に損がないようにしているのです。」
「・・・大儲けしようとしていないので・・・あ、違いますね。
キタミザト様は価格を低くする事で購買意欲をかき立たせて、店先で常に品が足らない状態を作り出し、工房が毎日動くように仕向けているのですね?
そうする事で作れば売れる状態を作り出し、1個の粗利は少なくとも多くを売って儲けを出すと。
先々を見ると確かに良い事かもしれないです。
・・・ん?一般向けでない商品はどうなのですか?」
「・・・武器等は別として、その商品を使えば生産性が向上する物も考えています。
今はラルフ様用のミシンが販売されましたね。
これ以外にも主に聞けば他にも生産性を高める装置や設備を作る可能性はありますし、各工房自体が何かしら生産性を高める処置をするかもしれません。
後者としてはラルフ様の仕立て屋組合の工場やベッドフォード様のウスターソースの工場が当てはまるでしょう。」
「キタミザト様は怖い方ですね。
表向きは安価で物を売らせ、裏では安価で物が作れるように何かしら機械を作らせているのですね。
商機を見逃さないと言うのか、商機を生み出しているというのか・・・
ともかく一気に大量に作り出す事が今は良いと思ってやられているというのはわかりました。」
「そうですね。」
「そのミシンもいつかは一般にも販売をするのでしょうか?」
「すると思いますが、まだまだ一般的な価格ではないでしょう。
それでも他領で作るよりかは低くなると思います。
それに主はあまり気にしていませんが、王家方には新たに出来た品々を持っていき商談をしているようですね。
黒板やチョークは今や王都からの注文がひっきりなしだとモニカ様は嘆いておりましたし。」
「・・・ヴィクター様、もしかして私はとんでもない方の部下になったのでしょうか?」
「ええ、とんでもない方ですね。
さて・・・各工房は忙しい毎日を過ごされております。
アスセナ、私達はどう動くべきだと思いますか?」
「・・・キタミザト様の邪魔をしない?」
「そうですね。」
ヴィクターが頷く。
「・・・各工房の様子を都度確認しに行く。」
「それも大切ですね。」
ヴィクターが頷く。
「・・・ん~・・・他に何かありますか?」
「いえ、ありませんよ。
アスセナがどのくらい見えているのか聞いてみただけになります。」
ヴィクターが真面目な顔で言う。
「・・・」
アスセナが口を尖らせてジト目で見ている。
「あとは、あの工房で作られた物はほとんどが主に発案料が発生しています。
今の状態ですと少なく申告する事はないでしょうが、その辺の回収も私達の仕事です。」
「なるほど、出荷量を見ておかないといけないという事ですね。」
「生半可な事では見抜けないでしょうが、見ていないよりかは見ていた方が抑止力になります。
今度、部下が数名来ますので、その者達の給金はこの発案料から賄う事になるかもしれません。」
「帳簿を増やした方が良いのでしょうか?」
「ん~・・・アスセナはどう思いますか?」
「支出としてはそこまで今の所ありませんのであまり気にはしていませんが、収入の項目がどのくらいあるかによってだと思います。」
「・・・どのくらいというかですね・・・これから増えると予想しています。
それに魔王国向けの輸出入はキタミザト家の管轄となりますので、その分の収支も加味される事が予想できますし、ベルテ一家の米や試験、販売についても私達の管轄になるでしょう。」
「・・・空いた時間で帳簿の量を増やしておきます。
半年分を作りましたが、数か月で終わってしまいそうです。」
アスセナがガックリとさせながら言う。
「ええ、お願いします。
アスセナは明日は朝に執事室(仮)に来たらローチ工房の様子を見に行ってください。」
「畏まりました。
ヴィクター様はどうされますか?」
「明日の午後はベルテ一家の方で文官と周辺農家との話し合いだそうです。
そちらの打ち合わせをしてきます。」
「わかりました。」
アスセナが頷くのだった。
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