第1409話 懇親会も終わり。(新しい挑戦者とそれらをまとめる者。)
「あぁ~・・・ここが我が家になるのかぁ~。」
クローイがベッドにダイブする。
「はぁ・・・とりあえず、気持ちが良い人達というのはわかったな。」
ダンがベッドに腰かけてさっきの事を思い出しながら言う。
「そうだね。
それとキタミザト様の怖さも。」
「そこは・・・会ってからわかるんだろうなぁ。
と、コンテナを3つ積むんだったか・・・」
ダンがごそごそと荷物の中から紙の束を出してくる。
「ん~・・・思ったよりも大きくなる話だったね。」
「中型船という感じなのか・・・多分この感じの船となると予想出来るな。」
ダンが机に図面を広げる。
「骨子の木がどうなるかだよなぁ。
まぁ当分は設計をしながらどんな要望の物を載せるのか、どうやって載せるのかを考えないとな。」
ダンは広げた図面を覗きながら言う。
「そうだね。
材料の確認もしないとね。
それにしてもエルヴィス家の人工湖も驚きだったね。」
「あぁ、まさか2km四方の周囲8㎞の人工湖を作るとは・・・いやはやテンプル伯爵領では考えられないな。」
「全くだよ。
でも港の整備かぁ・・・船の荷積みの場所と集荷場、船の整備をする場所、整備の人達が住む場所・・・意外と必要かなぁ。」
「それだけじゃないだろうけど・・・文官の人達と良く話し合わないとな。
あとから大事な事を忘れていたら無駄に時間も労力もかかるわけだし。」
「そうだね~・・・来て早々やる事が目白押しだね。」
「あぁ、とりあえずはここではコンテナの荷台の話に加わっていって船にどう載せるかの話し合いだな。」
「うん。」
ダンとクローイが今日の話をしてくのだった。
------------------------
エルヴィス伯爵邸がある街の酒場の最奥の個室。
「ヴィクター様、何とか閉店までに来れましたね。」
「ええ、皆さんが早めに2次会に行かれましたからね。
夕食が取れて幸いでした。
アスセナ、今日はどうでしたか?」
「・・・皆が一様にキタミザト様を恐れているというのがわかりました。
家族や部下に優しく穏和な方だと私は思うのですが・・・」
「商売は違うという事でしょうね。
それにあれは近い感情が恐れという単語になっただけと捉えるべきかも知れませんね。」
「言いたい事は別だという事でしょうか?」
「主からの製作依頼を受けていない私から見れば工房や店の危機感が主への畏怖に繋がっていると見ています。」
「なるほど。
危機感ですか・・・ですが、皆さんの口ぶりからすると発想が怖いという感じではないような気がします。
言っては何ですが、そこまでは奇抜な発想があったようには見えませんし。」
アスセナが考えながら言う。
「・・・確かにあの工房主達が作っている物1品1品は目新しくはありますが、内容を聞けば既にこの地にあってもおかしくはない物でしょう。
アスセナ、キタミザト家の者としてこれは良い事ではあるのですよ?」
「そうなのですか?」
「ええ、目新しくも一般的には不自然さがないというのは売れる要因でしょう。
つまり一般的には『キタミザト様がちょっと便利な物を作った』、もしくは『美味しいソースを作り出した』程度なのです。
内容を聞けば領内にある物を使ったか縫い方や考え方を変えて作り出した程度なのです。」
「目新しいが画期的でない商品という事でしょうか?」
「そうなります。
主は一般向けはそういった『発想が違うだけ』の商品を作らせています。」
「一般向けですか。」
「ええ、黒板や鉛筆、将棋やリバーシ、トレンチコートがこれに当たるでしょう。
これはなかなか上手い考えだと思っています。
ちょっと発想が違うだけなので他の者達からの嫉妬が少ないというのが利点ですね。」
「ウスターソースやウォルトウィスキーはどうでしょうか?」
「あれは売れていない物を売れるように仕向けたという所でしょうか。
売れる所に持っていき、売れるように皆に知らせるという事です。
特に協力業者に裏から精力的に資金援助をして、大量生産を行わせ街中に集中的に卸させる事で流行りという物を作り出しました。
まぁその2品は味も良かったというのは間違いないですがね。
局地的に流行らせれば後はおのずと噂が広がっていくというやり方です。」
ヴィクターが言う。
「そう言われると、流通の方法を見出したというのが恐ろしいと言われる所以なのでしょうか。
ちなみに一般向けでないのはなんですか?」
「主の小銃シリーズ、小太刀、懐中時計、研究所の制服と作業服、ミシンといった物は一般には知られていません。
特定の人達のみに教え、売っている物になります。
これは作るのに手間がかかったり、特殊な用途を想定してだったりと主の趣味が色濃く出ています。」
「ん~・・・それはどうして一般には教えないのでしょうか?」
「アスセナは今あげた知られていない物は見ていませんか?」
「はい、見させて頂いておりません。」
「そうでしたか・・・主が帰ってきたらその辺の学習をしましょう。
あれは主とスズネ様の考えが色濃く出ています。
使い方によっては流通、政策、戦争の形態が変わる可能性がある品々なのです。」
「そこまでなのですか?」
「私はあれらを見た時に驚きました・・・まさに新時代を築ける物であると思わされます。
そして今度のベアリングと荷馬車と輸送船の共通化とその動力・・・アズパール王国は他国より抜きん出た生産力と流通力を持つ可能性があります。
・・・あのお二人の頭の中には我々が知らぬ未知の可能性が存在しています。
あのお二方は絶対に他国に渡してはなりません。」
「ヴィクター様がそう言うのですから相当なのですね。」
「ええ、おっと、話が逸れましたか。
ちなみに協力業者達が本当に恐れているのは主の商才でしょう。」
「商才・・・発想力や知識ではないのですか・・・」
アスセナが首を傾げるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




