第1406話 ローチ工房までの道中。(爺さん逃走中。)
ダンとクローイはヴィクターとアスセナに先導されローチ工房を目指していた。
「あの~、向かう先は下宿先なのですか?」
クローイがヴィクターに聞く。
「いえ、住み込みの勤め先となります。
工房ですので当分はこちらで過ごされる事になると思います。」
「はぁ・・・」
クローイは生返事をするが「船大工はいないはずだよね」と首を傾げている。
「ヴィクター様、あちらに。」
アスセナが指さす方にテイラーと鈴音が歩いている。
「あの2人が出ているのですか・・・
今は案内が優先されるでしょうから挨拶は後程という事にしますか。」
「あの男性と女性が何かあるのですか?」
ダンが聞いてくる。
「いえ、お一人は主が管轄する王立研究所の研究員、もう一方は主に主専用の武器の製造をしている協力業者なのです。」
「研究所の研究員・・・凄そうですね。」
「ええ、主が自ら見つけて来た主に近い発想をする方です。
主からすると『もう一人の私』と思われている節がありますね。」
「そこまでの方なのですか。」
「ええ、そこまでの方なのですが・・・まぁ良いでしょう。
いずれその方や他の協力業者の方々にも挨拶をお願いすると思います。」
「はい、わかりました。」
ダンが頷くのだった。
・・
・
「ヴィクター様・・・」
アスセナが呟く。
「うむ・・・ほぼ間違いないだろう。」
ヴィクターも頷く。
2人が見ているのはテイラーと鈴音。
あの2人が距離を空けて歩いているがさっきから同じ方向に歩いている。
「これは普通の挨拶になるのですか?」
「アスセナ、キャロル様やローチ様が居て、あの2人が居る、もしかしたらトレーシー様も居るでしょう。
これがただの挨拶になると思いますか?」
「・・・間違いなく輸送船の話になるかと。」
「私もそう思います。
アスセナ、少し残業になりそうですね。
夕食は取ってから帰宅となるでしょう。」
「ボーナさん達にはそういう事もあると前々から伝えてありますので、夕食時を過ぎたら構わない事になっています。」
「そうですか。
それにしても・・・いや、この流れが一番緊張が取れるのかもしれませんね。」
「いきなりの会議がですか?」
「職人同士なのです、実質的な話をした方がお互いに分かり合えるという事もあるでしょう。
分かち合う方法は人それぞれ、職種によっても違うというのは最近わかった事です。」
「ヴィクター様がですか?」
「ええ、研究所の建物を建ててくれている親方方もそうですね。
言葉や文言だけよりも顔を合わせての話し合いの方が打ち解けるのが早いというのはわかりました。」
「・・・施政者側では顔を合わせるのは稀なのですよね?」
「そうですね。
文官同士でも顔を合わせた方が打ち解けるのが早いというのはあるのですが、他領や王都の文官相手だと距離がある分だけ、直に会うのはまずありえません、なので文面で何とかこちらの感情も読み取れるように書くのが普通ですね。」
「難しそうですね。」
「こういった事は慣れもありますが・・・領内の事をするなら出来るだけ直接会った方が良いのでしょう。」
ヴィクターとアスセナは前を行く2人を見ながら話し合うのだった。
------------------------
エルヴィス伯爵邸の客間。
「伯爵、さっき執事が探してました。
執務室に戻ってください。」
「今日の仕事は終わりだと思うのだがの?」
エルヴィス爺さんがソファの陰に身を潜めながら一緒に隠れている夕霧と話している。
「・・・探していました。」
「夕霧、伯爵権限で今日の仕事は終わりじゃ。」
「ん、了解。
となると夕食までどうする?」
夕霧がエルヴィス爺さんに聞いてくる。
「・・・誰にも見つからずに居るしかないじゃろう。
今見つかれば夕食も取れないかもしれない。」
「人間は毎日ちゃんと栄養を取らないと体調を崩します。
朝、昼、夕と食事をしっかりと取らないのはダメと料理長が言っていました。」
「うむ、夕霧その通りじゃ、なので見つからないようにするしかない。
夕霧どこか見つからなそうな所はあるかの?」
「ん、確認します。」
そう言うと夕霧が数体のスライムを作り出し屋敷内に放つ。
「・・・戻ってくるまでに見つからなければ良いがの。」
と1体が戻ってきて夕霧が吸収する。
「伯爵、とりあえず客間の前の廊下から玄関までは誰も居ないのを確認しました。
外に行きますか?」
「いや、外は流石にメイドや執事達に迷惑をかけるからの、屋敷内ではどこかないかの?」
「ん・・・」
夕霧が屋敷内の人の動きを観察し始めるのだった。
・・
・
エルヴィス伯爵邸の空き部屋。
「うむ、ここなら問題ないじゃろう。」
「伯爵ここはなんですか?」
「タケオがアリスと婚約するまで居た部屋じゃの。
随分と物が置かれておるのぉ。」
エルヴィス爺さんは室内を見渡す。
「・・・伯爵、本棚に本がたくさんあります。」
「うむ、ここはアリスの父親、先の伯爵の頃に集めた本を入れて置いたはずじゃ。
じゃが・・・確か図鑑等が多かったと思うの。
内容も少し古くてな、今度新しい物を買って古いのは捨てるかの。」
「ん、捨てるという事はその前に見ておいた方が良いですか?」
「ん?夕霧が気になるなら自室や客間に持って行き読んでも構わぬからの?」
「わかりました。
今度この部屋の本をお借りします。」
「うむ、そうするのが良いじゃろう。
さて・・・夕食までここで昼寝じゃの。」
エルヴィス爺さんが椅子に腰かけてうたた寝をするのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




