第1401話 卑怯と言われようとも。(アリス・・・あぁぁ・・・)
アリスが笑顔で対峙しているのを武雄はパナと議論しながら見ている。
(タケオ、アリス笑っていますね。)
(剣を持って笑うって端から見ればバイオレンスですね。)
(・・・これはマズそうですね。)
(パナ、安心しなさい。
アリスとやる時は常にマズいのです。)
(慣れてますね。)
(幾度この場を凌いで来た事か。
さて・・・今回は走りこんで来ないみたいですね。)
(根拠は?)
(距離です。
走りこむのにこの距離では1歩程度・・・いつもより近すぎですね。
となると私のシールドを力で突破する気がなくなったという事でしょう。)
(走りこまなくても力で押せるというのは?)
(私の考えでは人間は確実性を重要視します。
今まで一度も勝てていないのですから、走りこまなくてもなんていう選択肢はありません。
力で押せるなら更に力を込められる「走りこむ」という行動を取り、成功の確率を上げるでしょう。)
(となると、手数ですね?)
(正面に構えるとなると選択肢は3つ、振り切ってからの振り上げ、突き上げからの振り切り、最後は数回振るとなるでしょう。)
(振ってからの振り上げ?・・・確かタケオの所で燕返しというのがあるのですよね?)
(あれは創作というのが一般解釈だったかと・・・
ですが、至極真っ当に考えるなら燕を1撃目で躱させ、躱した先を先読みもしくは1撃目で誘導した方向に向かわせて2撃目で打ち払うというのが燕返しという技の私の持論ですね。
まぁ先読みか誘導か、どちらにしても神速と呼ばれる剣の速さを持って出来る事でしょうけど。
・・・目の前に神速の剣が出せそうなお嬢様が居ますね。)
(出来ると思わない?)
(出来ないと仮定するのは危険ですね。)
(対応策は?)
(卑怯と罵られても良いならば。)
(タケオに騎士道や武士道はないと思いますが?)
(・・・勝てば官軍・・・ですね。)
(私は回復に努めます、常に全力で出来ますよ。)
(頼りにしてます。)
武雄が心の中で感謝するのだった。
アリスがにじり寄ってくる。
「・・・」
武雄は静観し、その時を待つ。
「っ!」
アリスが腕を振り上げると同時に一歩を踏み込み、一拍置いて上半身も始動・・・しない。
「はぃ!?」
アリスは一瞬武雄から目を離し剣を見るがその瞬間剣を持つ手が始動を始める。
アリスが目線を戻すと武雄が懐に潜り込んでいる。
「あ・・・ぐふっ!」
アリスは横腹を小太刀の柄の底で殴られる。
「うぅぅぅ・・・」
うずくまりそうになるアリスの左脇に武雄が右肘を入れ、同時に右足でアリスの右足の横に置き、強引にだが体落しのような体勢で投げる、アリスも体の痛みで抵抗が遅くなり、何なく投げられてしまう。
「うぅう・・・
タケオ様、降参です・・・はぁ・・・」
アリスが力を抜き常時ケアを発動させたのか痛がる事もなくなった。
「・・・あら?大人しいですね。」
「タケオ様の寝技は私では解けませんから・・・
それにしても振れなくさせるのは些か卑怯ではありませんか?」
アリスが体を起こしながら言ってくる。
「これ・・・以前にアリスの前でジーナ相手にしたやり方ですよ?
なのに大振りするんですもの、『あ、良いんだ』と思って勝たせて貰いました。」
「ん~・・・それはそうですけど・・・折角今回は勝てると思ったのに・・・」
「何をしようとしたのですか?」
「内緒です・・・研鑽して次臨みます。」
アリスが口を尖らせて不貞腐れながら言う。
「はいはい。
と、ゴドウィンさん、ジェシーさん、どうでしたか?」
武雄が立ち上がりジェシー達の机に向かう。
「タケオさん、お疲れ様。
ほんとアリスを負かしてくれてありがたいわ。
あの子もこれで慢心する事なく過ごしていけそうね。」
ジェシーが満面の笑顔を武雄に向ける。
「本人は相当鬱憤が溜まっているようですがね。」
「適度に負けるしかないかなぁ・・・タケオさん、頑張って。」
「アリスくらいになるとワザと負けるとわかってしまいそうですけどね。」
「そしたらそれで怒るかもね。」
「でしょうね~。
ゴドウィンさんはどうでしたか?
します?」
「ありがとうタケオ、謹んで辞退しよう。
それにしても・・・相も変わらずタケオが勝っているんだな。」
「お互いギリギリですよ。
今回だってアリスの振り上げた所にシールドをしたんですが、タイミングを間違えれば意味もなく振られますからね。
1秒にも満たない間でしっかりと合わせないといけないんですよ。」
「タケオ以外には出来なそうだな。」
「誰でも出来ますよ。
ただ、失敗した時は正面から全力の振りがお見舞いされるだけです。」
「うん、タケオ以外は出来ないな。」
「さて・・・」
武雄がアリスを見る。
「アリス様、元気だして!」
「次こそ勝てるから!」
「アリス様!負けちゃダメ!」
「アリス様、泣かないで!」
「キタミザト様と相性が悪いだけです!」
「戦場ではアリス様が一番ですから!」
子供達は全力でアリスを慰めている。
「ええ・・・そうね~・・・うん、泣かないわよ・・・」
アリスは武雄との敗戦よりも子供達に慰められている事に泣きそうになっていた。
「・・・鮮紅の武名を下げちゃいましたかね・・・」
武雄が「どうしたものか」と思うのだった。
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