第1384話 ちょっと他の様子を見てみよう。3(やり過ごして訪問してみよう。)
ラックの店の斜め向かいの建物の屋根にて。
「・・・あれは・・・確かマイヤーさんとラックさん・・・でしたか。
脇道から出てきたという事は裏から出てきたという事ですか。」
「ジーナ、あの2人がいるグループは良くジーナ達を見ているよね。」
ジーナの肩で一緒に見ているパラスが言ってくる。
「・・・マイヤーさんの父親はご主人様の研究所の総監という役職・・・
本人に自覚はないでしょうが、クラス内の様子を見るに媚薬が必要とは思えません・・・
誰かに頼まれたのでしょうか・・・ん~・・・あのグループで?・・・」
「思案も大切だけどどうする?追う?入る?
それにここって・・・ただの酒場じゃなさそうね。」
「そうですね。
明らかに男性しか出入りしていませんよね・・・こういった店は入った事ないんですが・・・」
「あ、ジーナ、知識はあるんだね。」
「私は本で女性が話し相手をする酒場があるとは知ってはいますが・・・
面白いのですか?」
「さぁ?女神候補の私に聞かれても。」
パラスがジーナの肩で手を挙げてやれやれとしている。
「ジーナ、ロロの部下が拘束された。
こちらに損害はなし。」
「ネズミが?
・・・見捨てるわけにもいきませんか。」
ジーナが立ち上がりフードを被るのだった。
ラックのお店。
「~♪」
「店長ご機嫌ですね。」
ラックがカウンターでワイングラスを鼻歌交じりで拭いているのを同じくカウンターで客待ちしているフォレットが聞いている。
「あぁ!我が娘ながらあのまま行けば彼氏が出来そうだからな。」
「ルーク君ですか?
良いんですか?娘が嫁に行っちゃいますよ?」
「あはは!これほど良縁はないだろう!
ふふん♪どこの馬の骨に貰われるくらいならマイヤー殿のご子息の方が良いに決まっている!
それにあの性格だ気真面目なのだろう金遣いも荒らそうではないし、高評価だな!」
「そういう物ですかねぇ~・・・」
「当たり前だ、いきなり男を連れてこられて『あ!お父さんっスか?ちーっす!彼氏やってます!』とか言われたらぶん殴る!」
「コートニーちゃんがそういった男を好きになりますかね?」
「・・・ならんと思うが・・・恋とはどうなるかわからん・・・
ちょっと危ない方が燃えるというものだ、そういうものだろう?」
「私にそれを聞きますか?」
フォレットが軽くラックを睨む。
「・・・彼女持ちからの略奪はいただけないな。」
ラックが顎に手をやり明後日の方を見ながら呟く。
「すみません、隊長が知っているのはわかっています。
掘り下げないでください。」
フォレットが早々に負けを認める。
「フォレットはどうするんだ?
ブルック達と向こうに行くという選択もあっただろうに。」
「ん~・・・私は王都でもう少し頑張りますよ~。」
「バートがなぁ・・・もう少し広い目線があれば良いんだが・・・
フォレット、言っといてくれ。」
「私が言ったら喧嘩になりますから遠慮します。
新人の選考どうなんですか?」
「書類選考中、今回は多く取るみたいだからなぁ。
新人教育するか?」
「割り振られればしま・・・あ!いらっしゃいませ♪」
店の扉が開きフードを被った人物が入って来たのを確認して、すぐに席を立ちフォレットが笑顔で挨拶する。
「・・・フォレット殿?」
入ってきた人物がフードを取る。
「ジーナ殿!?」
「!?」
フォレットとラックが驚くのだった。
・・
・
ラックの店の休憩室(店の厨房)。
ジーナがラックとフォレットからこの店の説明をされていた。
「なるほど・・・王都守備隊と第1騎士団が情報収集を行う事を目的とした店で潜入捜査の為の訓練場ですか。」
「そうです。
ジーナ殿はどうしてこちらに?」
「さっき王立学院の生徒2名が入りましたよね?」
「「・・・」」
ジーナのその言葉だけでラックとフォレットが固まる。
「しかも1人はマイヤー殿のご子息です。
ご主人様の部下の家族なのですが・・・部下の家族に手を出すとどうなったか覚えておりますか?」
ジーナが2人に「危ない事させてないですよね?」と聞いてくる。
「だ・・・大丈夫です。
あの2人にも危険な事などさせていませんよ。
ただ、王立学院内の情報を得るために潜入して貰っているだけです。」
「潜入?・・・危険な事が起こる可能性があるのですか?」
ジーナが首を傾げながら聞く。
「え!?・・・違います。
王立学院や魔法師専門学院内は外部からの調査が出来ないある意味閉鎖空間となっています。
内部での情報は私達大人では教師にならないと手に入れられません。
魔法師専門学院は軍務局も噛んでいるので数名を入れていますが、王立学院は入れていません。
なので生徒側で潜入させないといけないのですが、なかなか王立学院に入っても問題ない人員が少なくてですね。
今回は協力頂いているんです。」
ラックが説明する。
「そうですか。
ん~・・・ならあまり過度の接触はしない方が良いのですね。」
「はい、ジーナ殿はエルヴィス殿のお付きの仕事をして頂き、我々はジーナ殿を見守っているだけです。」
「そうですか・・・
ちなみに今回ここに来るのにスミス様とエイミー殿下に了承を得ていますが、報告をしても問題ないですね?」
「はい、されて構いません。
ですが、訓練場であり情報を仕入れる場所でもありますので広めないようお願いをしておいてください。」
「はい、わかりました。
で・・・さっきから気になっているのですが、あそこにあるのはネズミ捕りですか?」
ジーナが頷いてから厨房から見える別部屋の奥まった所を指さす。
「あれ?・・・見えない所に置いたと思ったのに・・・
あ、かかっている。」
「なら、私が帰り道に処分しておきます。
あまり飲食店からネズミの死骸を出すわけにもいかないでしょうからね。」
「ジーナ殿、ありがとうございます。」
「いえいえ、問題はありません。
なら私も寄宿舎に戻ります。
いきなり来てすみませんでした。
では、また。」
「なら裏口まで付き添います。」
「はい、またお越しください。」
ジーナが席を立ち、隣の部屋に行きネズミ捕りを持ってフォレットと共に裏口に向かって歩いていくのをラックが見送るのだった。
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