第1373話 協力者達はというと。1(発案者が居ない内に。)
エルヴィス邸がある街の酒場にて。
「・・・2山越えたわ。」
モニカがワイングラス片手に机に突っ伏していた。
「そうですか・・・3山目に突入ですか。」
「うぅぅ・・・言わないで・・・」
隣のラルフが何事もないような雰囲気で飲んでいる。
「うちは絶賛1山目だ。」
ベッドフォードが憐れんだ眼をモニカに向ける。
「ほほほ、ベッドフォードは1山と思っていますけど、2山目に登っていたりしていませんか?
聞いた話では中濃ソースの注文開始がそろそろだと聞いていますよ?」
「・・・もう漏れたのか・・・」
ベッドフォードがガックリとしている。
「あ!とうとう発売なんだ!
あれ休み時間の時に職人達ですら話題にしてたわよ。
私は一足先にここでいっぱい食べているけど・・・絶対売れるよね!
頑張って!」
モニカが生き返る。
「・・・明日最終試験なんだよ・・・」
「「「試験??」」」
皆がベッドフォードに顔を向ける。
「あぁ・・・今仕込んでいる物を明日、出資者の方々に食べて貰って販売許可を得るんだ。」
「あれ?キタミザト様は出かけたっきり帰ってきてないでしょう?
ヴィクターさんに食べて貰うの?」
モニカが聞き返す。
「出資者はエルヴィス家だよ。
キタミザト様はうちに製造依頼をしただけ。
明日は総監部、経済局、財政局の方々が来て最終の味の確認なんだってさ。」
「ウスターソースはしたのですか?」
ラルフが聞いてくる。
「一応はした。
だが、あの時は販売よりも先にエルヴィス家が買って行ってキタミザト様の許可が出てしまってな。
伯爵の口に入る前の文官方での最終確認はされていないんだ。
口惜しかったらしい、なので今回はするそうだ。」
「まぁ出資者だし、最初の味から変わっていたら困るものだしね・・・でも発案者のキタミザト様が居ないのよね?
味の確認なんて出来るの?」
モニカが不思議そうな顔をさせて聞いてくる。
「ほほほ、そういった時は代役が来るものです。」
ローが面白そうに言っている。
「「「代役??」」」
「ほほほ、キタミザト様の中濃ソースの味を知る人間・・・私の予想ではエルヴィス家の料理人ですかね。」
ローが自分の予想を披露する。
「私はヴィクターさんですかね?」
ラルフも便乗。
「ここはスズネちゃんじゃない?
キタミザト様の右腕だし、料理は出来なくても味は知っているみたいだったしね。」
モニカが考えながらポツリという。
「「「あ!忘れてた!」」」
皆がそこに思い至る。
「まぁ・・・明日が俺の2山目に突入出来るかどうかの日になるだろうなぁ・・・
味はこの店で実証済みなんだが・・・緊張するな。」
「ほほほ、楽しみですね。
何時から買えるのですか?行きますよ。」
「あ、うちの皆にも言っておこうっと。」
「確かに私も店と工場で働いている方々にも言いましょうか。」
「・・・仲間内ばかりだな。」
「「「早く買いに行かないと売り切れるでしょう?」」」
ローもラルフもモニカも口を揃えて言う。
「だな。
前回のウスターソースみたいな事になると良いんだが・・・」
「大丈夫!」
「一気に売れなくても普通に売れます。」
「ほほほ、量産化早くしてくださいね。
他領に売るんですから。」
「・・・ローの爺さんやる気だな。」
「ほほほ、ウォルトウィスキーが2年後まで3000本ですからね。
その間にウスターソースを使って他領への販路網を強固にする事にしましたよ。
これで酒屋同士のつながりと酒場へのつながりを堅持出来ます。」
「いつの間に・・・はぁ・・・そういえば今回キタミザト様が東町に行かれる時にウスターソース買っていったなぁ。」
ベッドフォードが思い出しながら言う。
「・・・ベッドフォード・・・なんと言いましたか?」
ローが鬼気迫る顔で聞いてくる。
「いや・・・キタミザト様が出立する時にエルヴィス家の執事が早朝に2樽買って行ったんだが・・・
ローの爺さん、どうした?」
「・・・まさか魔王国の使節の為に持って行ったという事ですか・・・
あれは数年後という話だったはず・・・まさか・・・いや、問題は他領との分配・・・魔王国のどこまで卸すの・・・」
ローの爺さんが独り言をぶつぶつ言いだしている。
「あ~・・・キタミザト様、暴走したんだ。」
モニカがローを見ながら呟く。
「ははは、仕事が増えそうですね。
ローさんもベッドフォードも。」
ラルフが言う。
「おかげさまでな。
ラルフの所はどうなんだ?」
「至って順調ですよ。
当初の月産目標は超えましたしね。
今は当初の1.5倍の生産を目指しているのですけど・・・ここでサテラ製作所にミシンの追加をするかで悩んでいるんですよ。」
「費用か?」
「ええ、まだまとまった支払いがされていないのでね。
皆の給料も見ながらだと今すぐの注文は出来ないかと、でも仕事は山のよう・・・いや山積みですからね。
こちらの支払いが延ばせるのなら購入して増産体制にしても良いのですけどね・・・万が一、不渡りが出たらお終いですしね。
もう少しお金が溜まるまでは作業員の慣熟度を上げながら無駄を省いていく事で生産性を上げるしかないのでしょうかね。」
「・・・ちなみにトレンチコートの注文は来ているのか?」
「ん?・・・ふむ。
エルヴィス家が兵士達900着分とゴドウィン家の騎士団900名分、ウィリアム殿下の兵士達850名分そして王都の第1騎士団の700着が追加で決まりましたね。
そして今年の冬に販売予定のダウンジャケットとダウンベストの大量生産と各所への卸しにエルヴィス家の兵士の制服とキタミザト様が考えたジンベイにズボン下か・・・やっぱりミシン頼みますかね。」
「ラルフ達も忙しそうだな。」
ベッドフォードが相も変わらず自分達の忙しさに呆れるのだった。
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