第1372話 エルヴィス領で久しぶりの再会。(思い出話に花を咲かせよう。)
テイラーの魔法具商店。
「・・・」
トレーシーがカウンターで肘をついて頭を抱えていた。
「・・・」
テイラーは1つ席を空けて同じく座っている。
「・・・テイラー・・・この街に来たのはどのくらいだ?」
「3年くらい前です。
師匠がレイラ殿下の指輪を作ったのですけどね。
その時に問題が発生しまして。」
「あ・・・大体わかった。
そうかぁ・・・テイラーは巻き込まれたか。
まぁ威光の指輪は部隊内で公然の秘密みたいなものだが・・・見てしまったのは頂けないな。」
「はい、そこは私も配慮不足だったのでしょうね・・・師匠も指輪で悩んでいて周りを見れていませんでしたし。
師匠は良い魔法師ですけど・・・脇が甘いですよね。」
「まったくだ・・・精霊魔法師でない者の前で精霊魔法師を自慢するくらいな。」
「・・・私もなってしまった側ですけど・・・先輩もショックだったのですか?」
「そりゃそうだ。
魔法師専門学院を1番で卒業、その際に明かされた秘匿部隊の王家専属魔法師部隊に所属だぞ?
ある意味王都守備隊より上だろう。
魔法師なら誰もが憧れる超エリートだ。
当時はなけなしのプライドもあったしなぁ・・・まさか後輩が精霊魔法師になるとは思ってもいなかったさ。
そして軽々と抜かれた。」
「あれは抜かれたのですかね?」
「テイラーの精霊の加護は防御に特化している。
王城を丸ごと3日間傷をつけさせないなんて破格だ・・・そして全力で私が攻撃しても何ともなかったのには心が保てなかった。
・・・それにしても事情が事情だが良く退職させてくれたな。」
「そこは無理を言いました。
師匠も手伝ってくれましたし。」
「まぁテイラーは体力ないからなぁ、これで良かったのかもしれないな。
良く魔法師専門学院で1番になれたものだ。」
「自分でも不思議ですね!」
「自分で言うなよ。
で、私は総監局付き次長で魔法師専門学院の学院長だったわけだが。」
「ある意味魔法師としては順当ですよね。
エリート街道ですね。」
「さて、それはどうかな・・・周りはそう見えていても事実は王家専属魔法師部隊で居場所がなくなった者の末路だよ。
総監局は良く私を雇ってくれたものだ。」
「その先輩がキタミザト様の研究所の研究室長ですか。
本当、端から見たら王家専属魔法師で魔法の研究をし、魔法師専門学院の学院長を務めて後進の育成をして研究所の室長で研究職に復帰する・・・順風ですね。」
「私はエリートだったんだな。
テイラーはどうなんだ?」
「私は・・・鳴かず飛ばずですよ。
まぁ元々大当たりしては王都の者に勘繰られるかもしれなかったので売れっ子になる気はありませんでしたが。
キタミザト様の武器の調整や注文品を作る事ぐらいが楽しみです。」
「王都のしがらみから解放されているのは楽しそうだな。」
「先輩もキタミザト様の部下なら解放されたような物ですよ。
ただ・・・」
「ただ?」
「キタミザト様の下に居るというのは大変でしょうね。
あの方の頭の中で出来上がっている物を作り出せと言うのですから。」
「追いつけるか・・・か。」
「先輩は出来そうですけどね。
スズネさんも居ますし。」
「・・・そうか。
それはそれで楽しみだな。」
「先輩・・・大人になったのですね。」
「・・・お前も年を重ねればわかるさ。」
トレーシーがゆっくりとお茶に口をつける。
「トレーシーさん、お待たせしました!」
と店の奥から本を数冊持った鈴音がやってくる。
「いえいえ、テイラーと話をしていまして待ち時間など気にもなりませんでした。」
「それなら良かったです。
それにしても・・・テイラーさんの事を呼び捨て出来るのですね。
お知り合いなのですか?」
「あ~・・・こちらのトレーシーさんは私の王都勤めをしていた時の先輩なんですよ。」
「そうだったんですね。
はい、こちらが武雄さんからの資料集となります。」
鈴音がトレーシーの前に持ってきた冊子を置く。
「これは・・・数式ですか?」
トレーシーが1冊取り中を見ながら鈴音に聞く。
「はい、武雄さんが王都に行った際に王城の宝物庫に行けたので中にあった物を書き写してきたんです。
私はそれを更に写して持っています。」
「「宝物庫?」」
トレーシーとテイラーが聞き返す。
「はい・・・えーっと・・・武雄さんが言うには『許可を貰ってやったから平気だよ』だそうです。
まぁこれを持ってきた時には武雄さんもパナちゃんがいたから契約もその時ですかね?」
「さて・・・それはわかりませんが、許可を貰っているのなら頂きましょう。」
「いえ、あげません。
貸し出します。」
「ん?」
トレーシーが鈴音を見る。
「これは私の分です。
トレーシーさんは自分の分は自分で書き写してください。
この量なら・・・5日程度で終わるのではないですか?」
「・・・4冊くらいありますが?」
「トレーシーさん、今仕事抱えてないのでしょう?
大丈夫ですよ。1冊ずつは薄いですし。
私は5日で出来ましたからトレーシーさんも5日で大丈夫ですよ。」
鈴音が鬼のような事を言い出す。
「・・・頑張らさせて貰います。」
「はい、お願いします。
この知識は私も武雄さんも16歳くらいの時には学んでいました。
なので、トレーシーさんにも知っておいて欲しいのです。」
「それは重要ですね。」
「はい、お願いします。
あ、今本を入れる袋持ってきますね。」
鈴音が奥に行ってしまう。
「ふむ・・・テイラー、スズネさんとの挙式はいつだ?」
トレーシーが本を整えながらテイラーに聞く。
「・・・何を言っておりますか?」
「テイラー・・・お前もうすぐ30だろう?
いい加減結婚しろ。」
「・・・もう少し猶予はあり」
「ない。
早くしないとズルズルと独身生活が長引くぞ?」
「あっちもこっちも同じ事を言いますね。」
「それだけ皆が心配という事だ。
周りの心配があるうちに結婚するんだな。」
「検討します。」
「具体的な実施予定を聞きたいものだな。」
トレーシーが苦笑するのだった。
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