第1363話 武雄達の出立(まずは準備。)
まだ日が出る前の武雄の部屋にて。
室内は薄暗く、武雄が持参した蝋燭の明かりのみだった。
武雄は軽く部屋の窓を開けて椅子に座りながらキセルで一服・・・ボーっと外を見ている。
ミアとビエラはお腹に毛布を乗せて大の字になって寝てる。
「タケオ。」
初雪が武雄に声をかける。
「子供達はどうですか?」
武雄が初雪を見て聞く。
「逃亡をした者はなし、泣いているのが3名。」
「強いですね。」
「強い?泣いていたのに?」
「ええ、いきなり見ず知らずの所に連れてこられて『15年働け』ですよ。
己の身の上の不幸を嘆いたり、誰かに八つ当たりしたり、自暴自棄になったりしても不思議ではないです。
泣けるという事は現実を受け入れている証拠。
あの子達は強いです。
良い人材のようですね。」
武雄が初雪に向かって優しい声で言う。
「で・・・タケオ、給金はどうなったの?」
「・・・はは・・・」
武雄が乾いた笑いをして再び外を眺める。
「タケオ・・・残飯なくて良い・・・」
初雪が物凄く落ち込みながら言ってくる。
「そっちは今回の報奨や私のお小遣いから出しますからね。
初雪も夕霧も心配しなくて結構です。
はぁ・・・現状、ヴィクター、ジーナ、ベルテ一家、ニルデ、ジルダ、アスセナの雇用費とアリス、コノハ、パナのお小遣い・・・
子爵の貴族報酬金貨400枚から固定支出を引いた残りが金貨44枚弱ですからね。
これで6人分というのはね・・・」
「ちなみにタケオ、伯爵の屋敷に住んでいる家賃は?」
「初雪・・・なんでそんな言葉を知って・・・夕霧でしょうか?」
「そう、ユウギリが屋敷内のいろいろな話を集約している。
その中で住むと住んだ所にお金を払うという事をしていると知った。
タケオとアリスは?そして私達は?」
「その辺はエルヴィス家とキタミザト家にて合意済みです。
これはヴィクターがキタミザト家の収支を取りまとめた際に発覚し、早々に決着済みの事項です。
内容としては、スライムの体液事業をエルヴィス家に移管した事で収益源となった為、私達や夕霧達は免除となりました。
まぁいつかは話し合いますけど今は考えなくて良い項目ですね。
なので夕霧や初雪達の残飯の調達は私達に取っては重要な事なのです。
確実に入手しますからね。」
「わかった。
で、残りが金貨44枚。」
「アスセナさんの給料が金貨2枚だったはずです。
なのであの子達は見習いからのスタートです。金貨1枚と考えましたが・・・」
「毎月金貨6枚?6人で・・・年間金貨72枚?」
「初雪・・・計算も出来るようになったのですね・・・」
「私達頑張ってる。」
初雪が胸を張る。
「あまり急がなくても平気ですからね。
さて、明らかな資金不足ですね。」
「どうする?」
「・・・当分は今回の臨時収入で凌ぐにしても、執事やメイドとして働かせるのですからどこかの段階で家の支出に組み込まないといけないと考えています。
動産収入を見込むにしてもこれから感がありますし・・・現段階では収入強化をするとしか言えないですね。」
「大丈夫?」
「最悪はエルヴィス家にお願いするしかないですかね。」
武雄が難しい顔をさせるのだった。
・・・
・・
・
朝食後の孤児院の前にて。
「お世話になりました。」
「こちらこそ、大した事が出来ずに申し訳ありません。」
「いえいえ、皆さんの子供達を助けたいという行動の結果です。
ですが、次回があるなら早めに文官に相談するべきです。
私のような人間で首を突っ込む人は稀でしょう。」
「はい、畏まりました。」
武雄と院長、孤児院の人達と話をしている。
「・・・馬車・・・」
「何もないですね。」
「これからキタミザト様の屋敷に行くんだね。」
「服もくれたし・・・痛い事もしないね。」
「・・・どうなるんだろうね。」
「とりあえず、今はお腹いっぱい食べたいなぁ。」
子供達は先に荷台に入り各々座りながら話をしている。
皆落ち込んではいない物の意気揚々としているわけでもなく、淡々としている。
と武雄が荷台に上がってくる。
「では。」
武雄が一番後ろに座り、院長達に手を振っている。
「はい、この度はありがとうございました。」
院長が深々と頭を下げる。
「はい、院長達も体に気を付けて。
出してください。」
「出立!」
マイヤーとベイノン、ビエラが御者台にいつの間にか座り、幌馬車を動かし始める。
院長達は手を振り見送るのだった。
・・
・
「・・・さてと。」
進む幌馬車の荷台で武雄は子供達を見渡す。
「あの~・・・これからどうするのですか?」
ルフィナが聞いてくる。
「今日は移動ですけど・・・そろそろでしょうか。」
「「?」」
皆が首を傾げる。
と馬車が止まる。
「はい、降りましょう。」
武雄がにこやかに言う。
「「??」」
武雄が降りると子供達も降りてくる。
とそこは店の前だった。
「まずは買い物です!」
「「???」」
子供達は訳も分からず、顔を見合わせている。
マイヤーとベイノンも御者台から降りてくる。
「所長、店長呼んできます。」
「はーい、お願いします。」
ベイノンが店内に入っていく。
「さて、皆さん。
昨日、新しい服を着ましたね?」
「「・・・」」
皆がコクコク頷く。
「今日泊まる屋敷までの移動ですが、その前に柔らかめの靴とポンチョ等旅に最低限必要な物を買います。」
「キタミザト様!ようこそおいでくださいました。」
店内から大人達が出てくる。
「昨日ぶりですね。」
「はい、話の子達ですね。
昨日より用意はしており、準備は出来ております。
さ、お嬢ちゃん、お坊ちゃん方、こちらに。
皆さん、やりますよ。」
「「「はい。」」」
出てきた大人達が子供達を店の中に案内する。
「「え?え?え?」」
子供達は困惑しながらも大人達に連れられて店内へ。
「はーい、皆着替えといで~。
ベイノンさん。」
「はい、見ておきます。」
ベイノンも子供達と一緒に店内に入っていく。
「キタミザト様、昨日申し出のあった旅の食糧が2日分、食器と調理器具等をご用意しておきました。
あと、毛布が10枚とシーツ3つを用意しております。」
「注文通りですね。
えーっと・・・マイヤーさん、詰め込みの指示を。
奥から置いて貰ってください。」
「了解しました。」
「昨日渡した金額で足りましたか?」
「はい、余った分で子供達の靴の方に目印になるアクセントを入れる費用にしました。」
店長が言ってくる。
「ピッタリなら良いです。
なら、私は幌馬車の居住空間の改造ですね。」
武雄が積み込まれていく荷物を見ながら言うのだった。
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