第1362話 161日目 その頃の魔王国王城。4(出陣。)
未明の魔王国王城の城門前の広場にて。
「特殊作戦中隊 出動準備完了しました!」
ワイバーンと兵士達が整列しており、隊長と思われる兵士がヴァレーリに対し報告をしている。
「ご苦労。
さて、急を要して更には合同軍での出撃になってしまったな。
だが、我ら魔王国の今後の行動指針に影響を及ぼす大事な作戦だ。
まずは彼の者を特定し、監視と追跡を実施する。
諸君らはまずはこの任務を完遂してほしい。
他の事については今協議している。
決まり次第、いろいろな方法を用いて諸君らに連絡するだろう。
大事な作戦とはいえあまり気負うな、そして楽しんで来い。
以上だ。」
「ヴァレーリ陛下に対し最敬礼!直れ!
総員騎乗!」
「「はっ!」」
兵士達がワイバーンに騎乗していく。
・・
・
「陛下!出撃します!」
先頭のワイバーンに乗った先程ヴァレーリに報告していた兵士が号令する。
「おう、行ってこい。」
その言葉とともに次々と飛び立ち王城を旋回して去っていく。
・・
・
「・・・楽しそうだな。」
「いや、彼らは必死でしょう。」
ヴァレーリの呟きにタローマティが実体化し答える。
「あのぐらいの人員で作戦をするのが一番楽しそうではあるよな。」
「そうでしょうね。
目標や成果は指示されて、現地での裁量も少し渡されて・・・責任は上司が取りますからね。」
「いいなぁ。」
「陛下はダメですからね。」
「我のダハーカは乗れないからなぁ。」
「乗るのですか?アレに?」
「背負われるみたいな感じで・・・いや、やめておくか。
飛ぶより突き進むだろうし・・・我が自分で走った方が楽だしな。」
「そうですね。
ダハーカが動くと環境破壊ですからね。」
「可哀そうなダハーカ・・・デムーロ国相手には出してやらんとな。
運動不足で太ってそうだ。」
「・・・精霊が体形が変わるわけないでしょうに。」
「ん~・・・太っている精霊というのは居るのか?」
「あるとすれば暴飲暴食を司る神でしょうが・・・伝承によりけりですね。」
「ふーん、精霊もいろんなのがいるのだな。」
「私が言うのもなんですが、こういった精霊は会わない方が良いですよ?」
「なぜだ?」
「食費がかさんで破産しますし、満足という事を知りません。
貪欲なんですよ。」
「・・・叩けば躾けられるか?」
「・・・やってみる価値はありますが・・・
まぁ実際問題として、精霊に勝てるのはダニエラぐらいですよ、ほんと逸脱していますね。」
「好きで逸脱してないんだがな。」
「ですね。
さ、会議に戻りましょう。」
「あぁ・・・これ徹夜だな。」
「ですね。」
ヴァレーリとタローマティが王城に戻っていくのだった。
------------------------
ゴドウィン伯爵の一団がいる村にて。
「はぁ・・・まさかこの地の領主が見回りしているとは・・・」
イグノトが宛がわれた民家の部屋の一室から外を見ながら呟く。
イグノトの予定では日の出とともに出立、アズパール王国側の関を昼までに通過、魔王国側の関に昼過ぎには着くとしていた。
「ウィリプ連合国への行き方は2ついや、3つか・・・」
1つ目はデムーロ国を経由して奴隷船に便乗する方法。
2つ目は魔王国を北上、アズパール王国の北側の山脈を抜ける方法。
3つ目はアズパール王国を抜ける方法。
一見アズパール王国を抜ける方法が楽そうに見えるが、街に入る度に越境許可書を見せないといけない。
今の自分は荷もないし荷馬車もない・・・運送業と言い張っても怪しまれ当局の監視下に置かれるに決まっている。
そしてアズパール王国の北側の山脈を抜ける方法は基本寒さ対策をしたり食料を多めに持って行ったりと準備が大変であり、1人で行くものではないので却下。
デムーロ国経由の方は勝手知ったる道なのだが・・・
「はぁ・・・仲間内に報告してからだろうなぁ・・・」
イグノトが眠れない理由がここだった。
輸送依頼の失敗・・・運送業の信用がなくなっている。
だが、仲間内に対しここに至る経緯を話し、多少の違約金を支払い、ウィリプ連合国への奴隷船への乗船の推薦状を貰わないといけない。
その後、デムーロ国に向かい出国する事になるのだが・・・
「有り金全部とは言われないと思うが・・・相当の金は取られるよな・・・
はぁ、やはりドウから請け負った内容を上手く伝えて違約金は取られない方法で行くしかないのか・・・
だが、この情報は明らかに違約金よりも高い値が付く。
なら・・・逆に依頼料を取れば・・・ドウに支払った金貨200枚は補填されるか・・・」
イグノトが思案を繰り返すのだった。
------------------------
パーニ伯爵邸の当主の寝室にて。
「失礼します。」
寝室の扉がノックされる。
「・・・なんだ?」
パーニが不機嫌な顔つきで寝床より上半身を起こして返事をすると扉が開き、執事の服を着た者が入ってくる。
「ご就寝の最中、申し訳ありません。
今、王都より第4軍の者が参りました。」
「なに!?王軍!?
・・・・それで要件は?」
パーニがベッドから飛び起きる。
「はい、本日から明日もしくは明後日まで関に滞在し、アズパール王国から通行する者を調べたいとの事で了承して欲しいとの事です。」
「・・・関の業務への臨検か?」
「判断しかねます。
如何しますか?」
「こちらとしては拒む理由はない・・・だが、調べる際に必ずこっちの兵も立ち会わせろ。」
「はい、畏まりました。
お会いなさりますか?」
「あぁ・・・いや!よしておこう。
頭の回っていない段階で会うのはマズい。
来た者に伝えてくれ、『任務を遂行出来るよう祈っている』とそれと『当主は今日は体調不良で会えないが、任務後に再度終了の挨拶に来られるだろうからその際に話を聞かせてほしい』とな。」
「はい、そのようにお伝えします。」
執事が寝室を退出していく。
「・・・王軍か・・・何が始まっているんだ?」
パーニが外を見ながら考えるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




