第1353話 昼過ぎのとある東町にて。5(さてはて。)
別室に武雄達はやってきていた。
イグノトもベイノンに背負われて室内に入り、入り口近くの椅子に座らされる。
室内は机が並べられており、子供達が寝かされている。
子供達のそばにはマイヤーと初雪が居た。
「見ての通り・・・呼吸が少なくなって来ているのがわかると思います。」
「寝ているだけのようだが・・・
いや・・・呼吸数が明らかに少ないか・・・」
「異種族であろうと子供が苦しむ所は見たくありません。
強制的に寝かせています。
そして解除する気もありません。」
「・・・なんて事だ・・・納期にも間に合わず、商品も・・・体も・・・」
イグノトが体は動かないが絶望をしている。
「・・・奴隷契約書が貴方の物ならばこの子達の治療費も頂きたいのですが・・・」
「・・・」
イグノトが何も言わない。
「そういう事を言う雰囲気ではありませんか・・・ならせめてこの子達の奴隷契約を解除して貰えませんか?
我が国は奴隷は認めていません。
死す時まで奴隷の首輪をさせるのはやるせません。
それでこの子達の治療費は請求しません。」
「あぁ・・・わかった。
奴隷契約書を出してくれ。」
イグノトがそう言うとベイノンが一緒に持ってきた荷物から奴隷契約書を取り出す。
「床に置いてくれないか。
重ねて構わない。」
ベイノンが言われたとおりにイグノトの椅子の前に置く。
「私の左手を。」
ベイノンがイグノトを抱き支えながら奴隷契約書の前に跪かせる。
「あ・・・少ない力を振り絞られて逃走され、アズパール王国に拐われたと言われるのは頂けませんね・・・私に付けてください。」
「貴国は奴隷を認めないのだろう?」
「子供達の安らかな日々は願いますが、国家の安全も考えないといけません。
まぁ数日か数か月程度です。
私もリスクは取らないとね。」
「そうか・・・なら手を置いてくれ。」
「ええ。」
武雄が奴隷契約書に手を置くのだった。
・・
・
先程の部屋に戻り、イグノトをベッドに座らせる。
武雄達は最初の時のように隣に陣取る。
「さて・・・貴方はこれからどうされますか?」
「俺は全てを失った・・・体も・・・」
「そうですね。
納期に間に合わず、商品は・・・捨てたような物ですから輸送業者としての信用は失くなりましたか。」
「あぁ。」
武雄がイグノトの前に黄色い液体が入った小瓶を置く。
「これは?」
「私がウィリプ連合国でたまたま知り合った旅人さんに部下をケアして貰ったのですが、その時に貰ったものになります。」
「はぁ・・・」
「効能は『2週間か3週間前の状態に体を戻せる』です。」
「!?」
イグノトが驚愕の顔をさせる。
「さて・・・貴方はこれにいくらの値が付くと思いますか?」
「・・・こ・・・これは本当に2週間も前の状態に治せるのか?」
「正直な所、私の周りに必要とする者がいないので未使用です。
まぁそもそも1つしか貰っていないので本当かどうかも定かではありません。」
「嘘という可能性も?」
「あります。
ですが、これをくれた旅人は部下の怪我を迅速に治してくれました。」
「・・・貴方はいくら必要だ?」
「いくらでも。」
「・・・その効能が本当なら最低でも金貨300枚はするだろうし、俺だったら金貨1000枚で売りさばいて見せる。
必要な者なら金は惜しまないはずだ。」
「まぁそうでしょう。
で?貴方はいくら払いますか?」
「俺の荷物の中に冒険者組合のカードが縫い付けてある袋があるはずだ。
出してくれるか。」
「・・・こちらですね。」
イグノトの言葉でベイノンが荷物から冒険者カードを取り出す。
「無事だったか・・・この中に運営資金も含めて金貨750枚ある。
その約半分の金貨400枚で買い取らせて貰えないか。」
「良いでしょう。」
武雄が即答する。
「・・・やけにすぐに回答をするんだな?」
「値を高くする事は考えていません。
金貨400枚も効果が効いたらで結構です。
そして頂いた金貨の中から200枚を貴方に渡し、依頼をしたいと思います。」
「?・・・なんだ?」
「これウィリプ連合国のドローレス国で頂いたのですが、貴方の方で奴隷をこの国に潜入させてこの方の行方を追ってください。」
武雄が小瓶を持ち上げて言ってくる。
「・・・この薬が必要だと?」
「ええ、貴方も言いましたがこれは金になります。
出来高は・・・貴方が2、私が1の量で結構です。
まぁ正直に言って私もすぐにこの方と別れてしまって、身の内は聞いていませんから、出会えない可能性の方が高いと思います。
なので達成の可不可も気にしませんし、資金の追加もしません。
資金がなくなったら終わりです。」
「俺がそもそもしない可能性は?」
「それも致し方ないです。
そこを怒る気はありません。
費用がかさむのなら奴隷を潜入させずにご自身で行かれるのも手です。
私的にはあれば良いなぁ程度ですしね。」
「あ・・・そうだな。
そういう手もあるな。」
イグノトが弱々しく頷く。
「では、お金を降ろして効能を確認しに行きましょうか。
あ、効能が本当だった場合、貴方はここには戻りませんからそのつもりで。
それと私への金貨200枚とは別に孤児院に慰謝料を支払ってください。
貴方と貴方の持ち物の滞在費ですからね。いくらかは任せますが。」
「あぁ・・・わかった。
院長、世話になった。」
「いえ、救われて良かったですね。」
院長が礼をするのだった。
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